第792話 〈サンハンター〉視点。〈エデン〉強ええー!!
「すげぇ……」
「ああ……。こいつら、本当に1年生かよ」
ゼフィルスたち〈エデン〉対エリアボスの戦闘を見守る〈サンハンター〉のメンバーたちは、〈エデン〉のその実力と連携の高さに唸っていた。
「当然。
「クラス対抗戦でも優勝したうえ、賞を受賞したメンバーたちだからね。でも、改めて強いなぁと思うよ」
その光景を見て、同じクラスのミューとリャアナは嫉妬することも無く、むしろ自慢そうにメンバーに語る。
エリアボスは上級ボスだ。
中級ボスとは隔絶したステータスを持ち、その攻撃を受ければ防御力の弱い後衛アタッカーなどは一撃でやられてしまうほど強力な威力を秘めている。
しかし〈エデン〉はまったく気にすることなく立ち向かっていき、まるで中級のボスを相手にするように立ち回っていた。
「ミューたちも十分強いと思ってたんだがなぁ」
ダンカンが改めて〈エデン〉のパーティと自分のところにいる優秀な1年生、ミューそしてリャアナを見て唸る。
〈エデン〉のメンバーは全員が上級職だった。下級職であるミューやリャアナと比べるまでもないことは明らかではあるのだが、それでも比べてしまうのが人情というもの。
差がありすぎて笑ってしまうくらいだった。
「? そういえばさっきからギルマスの様子がおかしいわね。どうしたの?」
最初にそれに気がついたのはリャアナだった。
見ればアーロンが身体を震わせながら何かを我慢するように興奮していたのだ。
「兄、どうした」
「……どうしたもこうしたもない! あれは! ゼフィルスが使っているあの武器は!」
そう言って全員の視線がゼフィルスの持つ剣に注がれると同時に、ゼフィルスが剣の力を解放した。
「行くぜ新スキル――『太陽の輝き』! 『陽光剣現』!」
「あ」
「あれって! 太陽スキル!?」
「アーロンと同じやつか!」
ゼフィルスが使ったスキルに〈サンハンター〉がざわめく。
それも当然。
そのスキルはアーロンが持つ大剣、〈太陽大剣・ハイペリオン〉のスキルと同じものだったからだ。
〈サンハンター〉のギルドが代々受け継いできた最強の武器にして大剣。
なぜ弓や銃などが得意な【ハンター】系で大剣なんて大物を使っているのか、その理由だ。
この大剣は非常に強力な武器である。
〈白の玉座〉のような凄まじい効果を持つ装備では無いが、自己強化の数値に加え、元々の武器の攻撃力が並外れて高いため、これに【モンスターバスター】の特効が加われば大抵のボスは狩れてしまう、非常に強力な武器だった。
正直言って鬼強い。
〈サンハンター〉が上級ダンジョンの上層でも活動出来るのはこれが大きい。
上級のモンスターを相手でもまったく劣らないどころか完全に上回っているために、非常に理想的な武器なのだ。
そんな〈サンハンター〉を今の地位に押し上げたと言っても過言ではない太陽武器。
その片手剣版を使っているのが〈エデン〉のギルドマスターである。
もうどうリアクションすれば良いのか分からないレベルだった。
「『サンブレード』!」
「メェェ!?」
「直撃よ!」
「あ、ダウンした」
ゼフィルスの強力な一撃が決まるとリャアナが叫び、ミューがやや驚きの表情を作る。
しかし、真に驚くのはここからだった。
「っておいおいおい、どう考えても今のは偶然のクリティカルダウンだろ? 対応が早すぎる!?」
ゼフィルスの一撃が決まり、偶然クリティカルヒットが出て〈オニキヒツジ〉がダウンした。
それは分かる。しかし、そこからはわけが分からない。
ダウンとほぼ同時に全員による総攻撃が繰り広げられたのだ。攻撃スキルを使いまくり、ダウン中の〈オニキヒツジ〉にエグいダメージを与える〈エデン〉メンバーたち。
ダウンというものはビッグチャンスであるが、その時間は数秒しかないため活かすのが難しい。
特に今のダウンのように偶然クリティカルヒットしたダウンなんて、近距離アタッカーなら慌てて近づいて攻撃して、スキルを一,二撃与えたところで敵がダウンから復帰してしまい、そんなチャンスでも無かった、なんてことはざらだ。むしろそれが普通だ。
それなのに〈エデン〉はまるでダウンすることを知っていたかのように流れるような動作で攻撃をしていた。
いや、動きを見ていれば今のダウンを知らなかった事が分かる。ダウンが発生したときから明らかに全員の動きが変わったからだ。
つまりはダウン後の動きが染みついていることに他ならない。
これはボス戦の経験の差で、〈エデン〉は〈公式裏技戦術ボス周回〉によってボス戦をしまくっていた。さらにはダウンをフィニッシュパターンだと思っているゼフィルスによって積極的にダウンを狙われていたからこその〈エデン〉の動きだった。
普通のギルドではダウンは偶然の産物で有り、ダウン後の動きも
ダウンを積極的に狙いダメージを稼ぐ〈エデン〉特有の戦法である。
「いったい、どれほど訓練してきたっていうんだよ……」
「連携が洗練されているな。特にゼフィルスの動きがおかしい。どうして前衛が攻撃しながら指示だしできるんだ?」
「指示だしって、もう指示を考えて出すだけで難しいんだよね。上級ボスを相手にしながらとか絶対無理」
ダンカンは改めて唸り、アーロンはゼフィルスの動きを熱心に観察し、その指示だしについて唸る。
リャアナもクラス対抗戦の際、部隊長という立場で指示を出していた経験から、指示をしながら自分も攻撃に参加するという方法がどれだけ難しいのか分かっているため、ゼフィルスの行動が如何にレベルの高いものなのかよく理解していた。
「それだけじゃない。エリアボスは初めてって言ってた」
「! 確かにそうだ。上級ダンジョンに進出したばかりの1年生がエリアボス相手に有利に立ち回っている?」
ミューの言葉にハッとしたダンカンが改めてその異常さに気がついた。
ここは中級ダンジョンではない。未知の上級ダンジョンなのだ。そのボスを相手に、〈エデン〉は常に有利をとり続けて対応していた。
連携だけではない。全員がボス戦慣れしている。さらにゼフィルスの指示が的確過ぎるのだ。まるでエリアボスのことを熟知しているみたいに。
そこでダンカンはハッとする。〈エデン〉の戦闘に夢中になりすぎて自分たちの役目を忘れていたと。
「! そうだ、アーロン周りは?」
「大丈夫だ。ちゃんと索敵を掛けている。こっちに向かいそうな敵影はねえよ」
しかし、さすがはAランクギルドマスター。アーロンだって上級ダンジョンは慣れている。前方の戦いに集中しながら周りを警戒するのは上級ダンジョンの必須技能だ。
故に問題無いと返した。
それからも驚きの連続だった。
連携もさることながら、個人の実力と能力がすごい。
シエラの自在盾のタンクが安定しすぎてダンカンが唸り、ゼフィルスの指示だししながらの猛攻撃、僅かな隙も逃さないその見切りの目にアーロンは驚愕を隠せない。
そして特に危なげなく、終盤に入った。
「おい、怒りモードに入ったぞ」
「残りHP15%。中級ボスより少し多い」
「二足歩行から四足になった? 形態変化か?」
〈サンハンター〉の残りの3人が戦いを見て言う。
〈エデン〉がストレート勝ちになるかに思われたが、ボスが意地を見せた。
HPが15%を下回ったところで怒りモードになり、二足歩行で棍棒を振り回していた〈オニキヒツジ〉が棍棒をぶん投げて攻撃し、その後四足歩行の獣になって暴走し始めたのだ。
二足歩行から四足歩行になった。だから何? と思うかもしれないがこれは強力な形態変化だ。何しろさっきまでの行動パターンとは全く別の行動をしてくるのである。
行動パターンを全て白紙から見直さなければならず、しかも怒りモードなので攻撃力と素早さ、そして上級からは防御力も5割増しとなり、2分間も暴れ回るのだ。
こうなると大体の場合、怒りが収まるまで逃げ回るか、対抗するかの2択となる。
だが逃げ回る方も逃げ切れるかは分からない。AGIが低ければ追いつかれるし、追い詰められれば普通に蹂躙されるだろう。相手が全体攻撃をしてくることもある。逃げ回る方もリスク無しとはいかない。
「メエエエアアアアア!!」
怒りモードなのでヘイト無視も起こりうる。素早さが低く、防御力も低い後衛が狙われることもある。怒った〈オニキヒツジ〉がラナに向かって爆走した。
「あ! ラナ殿下が!」
リャアナが悲鳴を上げた。後衛があの速度とパワーで迫られれば逃げ切ることは難しいと知っているからの悲鳴だった。ヒーラーがやられた後の光景が過ぎる。
しかし。
「私を無視しないでくれるかしら。――『完全魅了盾』!」
「メアアアアアアア!?」
「ここよ! ――『カウンターバースト』!」
「ナイスシエラ! 『
ズドンと衝撃。〈オニキヒツジ〉は気がつけばダウンしていた。
何が起こったのか、リャアナは理解しきれなかった。
「メアアアアァァァァァ!?」
「締めます。『姫騎士覚醒』!」
「トドメね! 行くわよ――」
「ん」
そしてダウンした〈オニキヒツジ〉が再び全力の攻撃に晒されてHPがゼロとなり、怒りモード中で非常に危険なはずのボスは、呆気なくエフェクトの海に沈んで消えたのだった。
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