第771話 久しぶりの観客席、独特の雰囲気あるな。




 作戦、とはいえさすがに1日で全部覚えるのは不可能だったため、簡単な動きや作戦をいくつかアドバイスしておき、練習場で軽く実戦するくらいしか出来なかった。

 学園の授業でも習うため、ギルドバトルのルールを全員が知っていたのは幸いだったな。


 問題はセレスタンがいないため司令塔を誰に任せるかだが、そこは俺はノータッチ。

 全部俺が指示してしまっては考えず命令のみ遂行する兵隊が出来上がってしまう。

 なので自分たちでも色々と考えてもらおうという考えだ。


 その後、カルアの新装備が完成したとの報告があったのだが、そのときはもう夜も遅く、また後日お披露目となってしまったのは残念だったな。




 翌日11月2日土曜日。

 今日は解禁されてから初めてのギルドバトルが行なわれるということで、とても話題を呼んでいた。


「さあ、ギルドバトルの見物に美味しいジュースとポテトはいかぁっすか~」


「ポップコーンはいかがですか~塩からキャラメル、チョコソースまでありますよ~」


「応援に光るうちわはいかが~、〈エデン〉公認の応援専用アイテムだよ~」


 映画か、それともライブ会場か、なんか色々混ざってるが商魂逞しい〈ダンジョン営業専攻〉の学生たちがアリーナの観客席で売り子をしていた。

 なんか最後は知り合いの助っ人の声だった気がしなくもないが、まあ問題はないだろう。


「しかし、観客席っていつもこんな感じなのか? そういえば俺ってあんまりこっち側に座ったこと無かったから新鮮なんだけど」


「私も観客席に座ったことはあまり無いわね。でも〈キングアブソリュート〉の時は居なかった気がするけれど」


 いつもはギルドバトルに参加する選手側だからな~。

 振ってみればシエラもなんだか新鮮な感じで観客席を見ていた。


「〈キングアブソリュート〉の時は王族の試合に加えて大企業や国のお偉いさんがいっぱい来ていたからね~、学園側が粗相があったらいけないからって自粛を促していたんだよ~」


「学生側も、大人しく観戦したほうが印象がいいからな。ポテトを食べながらジュースを片手に観戦するのは、あまりお行儀がいいとは言えないためだ。今回は、まあそこまでではない。Dランク戦だしな」


 ミサトとメルトが解説してくれるの、すごく助かる。

 なるほど、あの時は行儀が悪いから控えたということだろう。

 あのうちわをフリフリさせながら応援しているのだって学生のノリだから許されていることなのかもしれない。

 しかし、アリーナ会場は普通に真昼間の外なので、あの光るうちわがまるで役に立ってないように見えるのだが……。いや、騒ぎたいだけだから良いのか?


 確か今回って〈転職制度〉を受けた学生の初のギルドバトルっていう名目だから、外からお客さん結構入っていると思うんだけど、いいのかな?


「でも〈アークアルカディア〉はすごい人気ね! こんなに観客席が埋まっているなんて思わなかったわ!」


「そうですねラナ様。これは〈エデン〉の影響も少なからずあるのでしょう」


「ふえぇ、〈エデン〉の下部組織ギルドだから注目されているってことですか?」


「それと、ギルドバトルが解禁したから大々的に行なうようにという、学園の意向もあるようですね」


 ラナが感想を言い、エステルが予想し、ハンナが納得したように確認すると、シェリアが売り子さんたちを見ながら補足を入れる。

 なるほど、ギルドバトル禁止期間は〈ダンジョン営業専攻〉的には経済までストップされていたようなもの、だから解禁されて商売する売り子さんが目立っているようだ。


「お、選手が入場するみたいだぞ」


「オリヒメは、大丈夫か……?」


「もう、レグラム君は心配しすぎだって~」


「しかしだな、オリヒメは攻撃系スキルを持っていないのだ。もし囲まれれば……」


「オリヒメさん、愛されて、ますね。ちょっと羨ましいです」


 レグラムがオリヒメを心配するのは分かる。というか俺だって〈アークアルカディア〉が心配だからな。

 しかし、レグラムは少し、珍しく落ち着きが無い。そのせいでノエルとラクリッテにからかわれていた。いや、ラクリッテのはからかうのとはまた違うかもしれないが。


 現在俺たちがいるのは第六アリーナの会場だ。

 本日はここで〈アークアルカディア〉のDランク昇格試験が行なわれる。

 フィールドは俺たち〈エデン〉がDランク昇格試験を受けたときと同じく〈四角形(障害物有り)〉フィールド。

 上から俯瞰したときアルファベットのHに似た侵入不可エリア、障害物観客席が建ち、この狭い会場に巨城が六つも建っている、様々な要素が詰め込まれたフィールドだ。


 退場しても10分すればステータスダウン状態で二回まで復活が可能な〈敗者復活〉のローカルルールがあるため、試験中は退場を恐れて尻込みすることはない。

 だからと言って三度も戦闘不能になれば、今度は〈エデン〉昇格試験に悪い影響を及ぼすだろう。度胸が試されるな。


 俺たち〈エデン〉は身内、というか親ギルドということで観客席の中でも中央に位置する、両陣営の本拠地が見える位置で選手たちが入場するのを眺めていた。


 本拠地の位置は、俺たちがいる観客席を挟んで北と南に分かれ、北が白の〈アークアルカディア〉、南が赤の〈ファイトオブソードマン〉だ。

 お互いの選手たちが北と南の入場口から入ってくる。

 本来ならそのまま中央に出て握手をするのだが、中央には障害物があるので西から回って合流したところで握手だ。


 選手たちが並び、緊張の中、審判の人に促され握手をする。

 また、〈アークアルカディア〉の簡易的リーダーは、サチとなっている。レベルカンスト者だしギルドバトル経験者だからというのが理由らしい。補佐にエミとユウカが付く形だ。


 相手の〈ファイトオブソードマン〉、おそらくギルドマスターと思われる青年と握手していた。

 というか〈ファイトオブソードマン〉のギルマス声がデカイな。ここまで「お互いベストを尽くそうじゃないか!!」なんて声が聞こえてきたぞ。

 とはいえ、そんな大声程度で萎縮するほど〈アークアルカディア〉のメンバーたちは甘くは無い。しっかり「もちろんです。胸を貸してもらうつもりで挑ませてもらいます!」とサチが言い返していた。良き良き。


 そうしてお互いが握手をすると、観客席が「わぁぁぁ」「ピューピュー」っと湧く。おう、びっくりした。


「どうやらあのギルドマスターが中々の人気者みたいですね」


「人気というより、なんでしょう、いえ人気で間違いは無いのですが、〈アークアルカディア〉に向ける声援や応援とは違った熱を感じますわね」


 エステルの洞察力にリーナが曖昧に頷く、俺もそれ思った。

 言うなれば、〈アークアルカディア〉にはアイドルみたいな声援なんだが、〈ファイトオブソードマン〉のギルマスにはサーカスにも似た声援なんだ。面白がっているというか。


「さて、両陣営とも本拠地に向かったわね。残り5分ほどでギルドバトルが開始されるようよ。それでゼフィルス、〈アークアルカディア〉の勝率はどのくらいなの?」


 シエラがそんな疑問を投げかけると〈エデン〉メンバー全員の注目が集まったのを感じた。


「そうだな。〈アークアルカディア〉には実戦経験が無い者もいる。相手は経験豊富の上級生だ。全体的な平均LVも向こうが上。胸を借りるつもりで行くべきだろう。ポイントはこの昇格試験のコンセプトである対人戦だな。上級職のギルドマスターをどうやって退けるかが鍵になるだろう」


 昨日は出場者に作戦パターンをいくつか教えたが、やはり一度もギルドバトルに参加したことがないとイメージしづらい部分がある。オリヒメさんは戦闘課のクラス対抗戦も未経験だからな。

〈ジャストタイムアタック〉も使えないし、その他にもいくつか有用な戦法が使えない。

 巨城先取では有利に運ぶことはできないだろうな。


 しかし、Dランク昇格試験のコンセプトは対人戦だ。

 俺たちのときもそうだったが、つまり試験官でもある相手は対人戦を仕掛けてこなくてはいけない、そこが狙いだ。

 巨城先取に負けたとしても対人戦で勝ち、本拠地を落とせれば経験の乏しい〈アークアルカディア〉でも勝てる。


 ポイントは対人戦で勝てるか、であるが、〈ファイトオブソードマン〉は今回の出場者はすべて中位職で構成されていた。ほとんどが前衛職だ。

 故に、〈アークアルカディア〉にも勝機はある。


 問題は相手の上級職。上手くハマると高の上すら倒してくる、ある一点に特化した厄介極まりない職業ジョブだ。

 その上級職を倒せるか否か、退けられるか、引き付けられるのか、その辺が勝利に繋がるだろう。

 つまり流れ次第だ。



 それも踏まえ、俺はみんなに告げた。


「〈アークアルカディア〉のメンバーだって強いんだ。上級職のギルドマスターさえ倒せれば、勝てるだろうと俺は睨んでいる」




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