第745話 摩訶不思議な『魔釜』スキル。上級素材作製!




 上級装備の作製方法。

 これは基本的に『上級○○』というスキルが必要になってくる。


 上級の素材を使う場合は上級スキルを使う事が大切だ。

 しかし、それだけでは普通。

 ここからさらに一手間二手間掛けてこそ、真のクオリティが高い装備が完成する。


 そして、その大事な一手間を担えるのがハンナである。


「うう、ドキドキする~」


「な~に問題は無い。ハンナはいつも通り錬金すれば良いだけだ。ということで、まずはマリー先輩が集めたこの上級のモンスター素材と中級のボス素材を合成してしまおう」


 ここはギルドハウスのハンナ専用部屋、最高峰の錬金工房。

 その作業台には多くの素材が並べられていた。

 上級鉱石代表と言われるミスリルも、よくこれだけ集めたものだ。

 いや、これは上級下位ジョーカーランク2である〈霧雲の高地ダンジョン〉でも採集できるから〈キングアブソリュート〉から流れてきた素材なのかもしれない。銀色に少し青みがかった艶のあるインゴットだった。


 俺以外にここにいるのは、ハンナ、マリー先輩、そしてアルルの生産組だ。

 3人とも練習で十分に腕を上げ、レベルも育ってきたため頃合いと判断し、本格的な上級装備の作製を始めることになり、その前段階としてここにこうして集まってもらったのだ。

 さあ、今から真にクオリティの高い上級装備を仕上げる手順を伝授するぜ。


「まだ信じられんわ~。素材同士を縫い合わせて大きくするんはうちもするけどな~」


「せやせや、うちも合金は作れるけど、モンスター素材は混ぜられへんし。本当にこんなんできるんか?」


「ふっふっふ、それが【アルケミーマイスター】の真骨頂だ」


 マリー先輩とアルルが興味深そうに聞いてくるのに頷いて答える。


 そう、基本的にどの生産職でも、自分の専門とする素材であれば縫い合わせて大きくしたり、混ぜたりして別の素材にしたりなんてことはよくする。


【服飾師】系なら小さい布を縫い合わせて大きい布を作ったり、糸を紡ぐときに数種類の糸を混ぜたり編んだり、色を染める時に特定の付与をすることもできる。


【鍛治師】系なら合金だ。鉱石を溶かし、不純物を取り除き、混ぜる。モンスター素材なら、素材と素材を接着したりすることで数種類の素材を使って装備を作製したりする。しかし、モンスター素材は溶かしたり混ぜたりすることはできない。


 しかし、【錬金術師】系はモンスター素材を合成して、素材自体の等級を上げる事が可能なのだ。もちろん下位の素材から上位の素材を作る事だって可能である。

〈魔石(極小)〉を合成して〈魔石(小)〉を作り出したりな。

 これを応用すると、中級ボス素材を上級ボス素材レベルにまで昇華させることも可能になるのである!


 そしてモンスター素材をパワーアップさせる事が出来るイコール、その素材で作った生産品の能力も上がるという意味に他ならない。


「よし始めよう! やり方はすでに教えてあるしハンナもやったことあるんだけど、お復習さらいしながらやっていこうか」


「う、うん!」


「では手始めに〈闇角獣・ブレンモール〉の素材、〈闇角獣の魔皮〉から~」


「手始めにいきなり超高級素材に行く辺りがもう兄さんらしいわ~」


「お復習さらいって意味を絶対履き違えとるな。これ、中級で登場するボスの中で一番強いって言われているアレの、しかもレアドロップの魔皮やん……」


「ぜ、ゼフィルス君? あの、最初はもう少し軽い素材から」


「大丈夫、ハンナならできるさ!」


「し、信頼が厚すぎるよー」


 俺が親指を立てながら言うとハンナが悲鳴を上げた。

 大丈夫。これからも周回で何度も行く予定のボスだ。

 素材はたくさん採ってこれる。それにハンナはもうすでに何百とスキルを使ったことがあるベテラン。

 ハンナの腕なら失敗しようが無いし。スキルLV10だぜ? 怖がることは無い。


「〈闇角獣の魔皮〉を錬金釜に入れたら、〈中和剤・黒〉を注いで、あ、高品質のやつな」


「う、うん。入れました」


「そしたらそこへマリー先輩が提供してくれた上級の素材、その中でもモンスター素材のこれとこれを入れます。マリー先輩、いいかな?」


「構わへんわ。数は少ないし高いもんやけど、兄さんからもろうたレシピで練習がてら作った上級装備のダウングレード品が良い金額で売れてるかんな~。好きに使ってええで。その代わり、もっとええ装備作らせてぇな」


「マリー先輩の探究心には頭が下がるぜ! ということだハンナ。どんどん入れていこ~」


「は、はい!」


「ボス素材をベースに、そこへ上級のモンスター素材の力を注入していくイメージだ。元々上級ボスに足を踏み入れていた〈闇角獣・ブレンモール〉なら、パワーアップさせてやる事で上級ボス素材にまで昇華させる事が出来る」


「い、いくね! 『魔釜まか』!」


 ハンナの〈四ツリ〉スキル『魔釜LV10』。

 それを使えば摩訶不思議、錬金釜が光ったかと思えば、釜の底には先ほどの魔皮が少し成長した姿で残っていた。

 俺はすぐにそれを取りだして〈幼若竜〉で『解析』する。


「よし! 良い出来だ〈闇角獣の魔皮(真素材)〉の完成だ!」


 それは間違いなく上級ボスの素材に匹敵する素材。パワーアップした真素材だった。この〈闇角獣の魔皮(真素材)〉は上級素材に分類される。

 つまりこれを素材に使う事で上級装備のクオリティを上げる事が可能なのである。


「で、できたー。すっごいドキドキしたよ。物が物だし失敗ファンブルしたらどうしようって」


「う、うちはさらっと登場した〈幼若竜〉に驚きを隠せないんやけど? これ〈ワッペンシールステッカー〉の至宝なんやけど……、兄さんいつゲットしたん?」


「昨日だ!」


「さよか……」


 なぜか真素材の完成に立ち会ったマリー先輩が黄昏れていた。どうしたのだろうか?


「さて、やり方は分かったな? じゃあ後の真素材作製はハンナに任せる。これ、組み合わせの素材リストな。系統を合わせれば良いだけだから覚えりゃ簡単だ。別系統の組み合わせをすると失敗ファンブルするから気をつけろよ」


「は~い」


 俺は〈ブモル〉の素材を真素材にするためのリストをハンナに渡す。

 対応するモンスター素材を使わないと失敗ファンブルしてしまい、素材が消えてしまう事があるので気をつけろ。


 道を示しておけば、後はハンナにお任せで大丈夫だ。

 続いてマリー先輩とアルルに向きなおる。


「もう、兄さんが言わんとしていることは分かるわぁ。この素材を使って兄さんの装備を作れ言うんやろ?」


「おう、頼むぜマリー先輩、アルル! レシピに書いてある使用する〈ブモル〉の素材は全てハンナに真素材にしてもらってくれ。そうして出来上がった上級並みの素材、真素材を使い、まずは俺の装備を作ってくれ!」


「わかっとるわ! もう、毎回兄さんには肝を取られっぱなしやわぁ。こっちは任せといてや、アルルと合作で特別良いもんを仕上げたる!」


「せや、任せてやゼフィルス兄さん。やり方はうちらの方が分かってるで」


「おう、任せたぜ!」


 ゲーム時代はスキルを使って即完成だった生産品。しかしここリアルでは結構作製に工程があるんだよ。俺だとその辺は分からないので本職にお任せだ。


 ちなみにミスリルは最初から上級素材なので加工精製はアルル任せになるが、それ以外の素材はハンナによってパワーアップだな。


 最初は〈エデン〉が保有するレシピの中で最も強力な良装備、俺用の〈勇銀装備ブレイブミスリルシリーズ全集〉の作製から始めるぜ!


 ということで、伝えたいことを全て伝授した後は生産組に任せ、俺はダンジョン攻略に向かおうと思う! まだまだ素材が必要だ! レシピも必要だ!

 さて、狙うはさらなる上級装備シリーズ、その全集!


 俺たちのギルドの切り札。ニーコの【トレジャーハンター】五段階目ツリースキル『装備全集・・ドロップ率アップLV10』。

『装備ドロップ率アップ』と『レシピドロップ率アップ』を両方LV10にしたときに開放される〈五ツリ〉であるこれを使い、俺はシエラ、ラナ、エステルの上級装備シリーズをゲットしに行くぜ!


 さあいくぞ! 今度は2パーティ合同の〈宵闇の祭壇ダンジョン〉周回だ!



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