第734話 ガント先輩に後輩!? 現在後進育成中。




 月曜日。

 今日は四号車となる〈からくり馬車〉が納品される日だ。


 昨日は〈祭ダン〉の20層までを攻略したが、あそこは最初あまりてごたえが無いので割愛。後半になっていくほど難易度がガンガン上がっていくダンジョンだからな。いや、1層と49層の差が他のダンジョンより極端と言ったほうが正しいか?


 おかげで昨日は20層を攻略したところ割と時間が余ったので、新メンバーを何人か連れて周回レベル上げまでしてしまったほどだ。

 ダンジョン攻略も大事だがレベル上げも大事。


 今日も朝からメンバーのレベル上げをしながら連絡待ちをしていると、昼になって俺たちがダンジョンから一度帰還し、食事を取ったところで俺の〈学生手帳〉にメッセージが届いたのでさっそくガント先輩のギルドへと向かった。


 女性陣にはメンバーの招集を任せておいた。

 今日のお昼は一度転移陣で帰還し、食堂で食べる事とメンバーにはあらかじめ通達してあったので集まれない人は少ないだろう。


 俺は1人、ガント先輩の店に入った。


「ガント先輩、例のアレが出来たって? ――あれ?」


 いつも通り中に入るとそこにはガント先輩はいた。あと、1人見慣れない男子の姿もあった。

 学生服の襟の色は青、同級生だな。身長が高く、両腕の力こぶが太い。誰だろうか?


「――持っていけ」


「いやギルマス、それじゃ通じませんて、えっと〈エデン〉のゼフィルスさんっすよね? 裏の駐車場に完成品が置いてありますんで」


「ああ。えっと君はここの従業員なのか? あとギルマスって?」


 なんだか聞き捨てならないセリフが聞こえた気がして思わず問うてしまったぞ? 聞き間違いかな?


「えっと、そうっす。ども、ケンタロウって言います。ギルド〈彫金ノ技工士〉のヒラやってます。えっとギルマスって言うのはガント先輩のことっすけど」


「……ガント先輩ギルドマスターだったのか!?」


「……フン」


 俺の驚愕の問いにガント先輩は腕を組んで鼻を鳴らしただけだった。どうでも良いと言わんばかりだ。

 マジか、新事実が発覚! ガント先輩は〈彫金ノ技工士〉のギルドマスターだったのか!?

 あと、地味にここのギルド名が発覚。今まで知らなかったんだよ。表に看板無いし。


「ギルマス、お得意さんに言ってなかったんすか?」


「必要が無い」


「いやあるっすよ!? 〈彫金ノ技工士〉は実力主義っす! つまりは一番腕の良い職人がギルドマスターってことっす! そのギルドマスターが直々に装備を作製するんすから説明する必要はあるっすよ!?」


 説明口調で話すケンタロウ君の言葉に俺はなるほどと頷く。

 あとケンタロウ君はガント先輩とは違い口数は多いようだ。ちょっとありがたい。


 しかし、ケンタロウ君の思い届かず。

 ガント先輩は職人気質、その答えはこうだった。


「俺を超えてからにしろ」


「ギルマスの意見を覆したかったら自分を超えてからにしろってことっすか? むむ、良いっすよ。ギルマスなんて踏み超えてやるっす!」


「……フン」


 ケンタロウ君は結構言う事を言う子らしい。しゃべり方は下っ端っぽいが。

 ガント先輩はまた鼻を鳴らして腕を組んでしまったが、どことなく満足そうにしている気がするな。

 そんなことを考えていたらお客を放置していることに気がついたケンタロウ君が慌てだした。


「ああ! すみませんっす! お見苦しいものをお見せしたっす。えっと納品でしたよね、こちらにどうぞっす。――あれ? ギルマスは来ないっすか!?」


「任せる」


「むむ、分かったっす。じゃあゼフィルスさん、こちらへどうぞっす」


 どうやらガント先輩は店番継続らしく、ケンタロウ君が四号車まで案内してくれる事になった。

 2人で店を回り込み、裏へと向かう道中、少しケンタロウ君に話を聞いてみた。


「ケンタロウ君、なんでガント先輩、ギルマスが店番なんてしてるんだ?」


 俺は最初から気になっていたことを聞いてみた。

 どう見てもガント先輩は接客に向いていないぞ。


「ああ、あれはギルマスの趣味っすよ。面白い品の発注依頼を誰かに取られないように受付しているんっす」


「誰かに取られる?」


「ギルマスは難易度が高い依頼ほど燃える性格みたいっす」


「なるほど」


「後は僕たち後輩にあったものを選んでくれたりするっすね」


 何のことはない。依頼の選定が理由だったらしい。面白い依頼を率先して受けるために店番をするなんて、職人気質のガント先輩らしいなと思う。後、意外に後輩の面倒見も良いらしい。


「ん? それならケンタロウ君が店にいたのはなんでだ? いつも店番はガント先輩1人のハズだろ?」


「ああ、それなら、今回の〈からくり馬車〉の作製は自分も手伝ったからっす」


「ケンタロウ君がか?」


 俺はやや驚いてケンタロウ君を見る。

 彼は1年生だろう。〈からくり馬車〉は確かに初級ダンジョン産ではあるが、すでに作製が出来、尚且つガント先輩が認めるほどの腕なのかと驚いたのだ。


「ギルマスにはよくしてもらっているっす。これほど実力が付いてきたのもギルマスがよく指導してくれるおかげなんす」


 ふむ。どうやらガント先輩にとってケンタロウ君は弟子かなんかの位置づけらしい。

 最上級生らしく、後進を育てているようだ。


「なるほどな。ということはこれからもケンタロウ君にはお世話になるだろう。これからもよろしく頼む」


「え? は、はいっす! こちらこそ〈エデン〉とは今後ともご贔屓にお願いしますっす!」


「ははは」


 立ち止まり、俺より高い身長をブオンと風を切る勢いで頭を下げるケンタロウ君に少し笑いが漏れた。

 しかし、これは朗報だな。

 これからも〈馬車〉作製、否、今後上級ダンジョンに進出すれば上級ドロップでアレらが落ちる。その時に〈彫金ノ技工士〉で最も腕の良いガント先輩が卒業していたら作れる人がいなくなってしまうという最悪の事態になるところだった。


 良き後進が育ってくれている事に安堵する。

 うむうむ、これからも仲良くしようなケンタロウ君。


 そんな感じで話していると、あっと言う間に駐車場へ着いていた。


「おお! これはまた、ユニークだな!」


 なんだかここに来る度に「おお!」と言っている気がする。毎回それほどの出来栄えなんだ!


「うっす。水の流れのようなもの、思わず攻撃してきそうなものをご指名だったっすから、ちょっと迷走したっすが、ポンプを付けてみたっす!」


 そう、その〈最上級からくり馬車〉四号車の先端には二つのポンプが付いていた。


 これまでも〈サンダージャベリン号〉には雷の形をした角のような一角を。

〈シャインブレイカー号〉には二つの、ロケットの先っちょが付いているような見た目をしている。

 これは一目で見分けるためのオプションだな。かっこよさ重視。


 そうして今回の四号車〈シーストリーム号〉には今にも水を発射しそうな二つのポンプがくっついていた。

 うむ、ハイドロポンプとか発射しそうで強そうに見える。

 これを操るロゼッタはタンクだ。なんだかイメージ的に硬そうな馬車に見えてきた気がするな(気のせい)。


 ちなみに水の流れをイメージしたオプションを付けて欲しいという要望はロゼッタからだった。

 どうやらロゼッタは盾による受流しを水の流れにたとえたようなのだが。別の意味で硬そうな馬車の仕上がりになってしまったな(ゼフィルス目線)。


「こんな感じで良かったっすか? 土管が二つ付いているようにも見えるっすけど」


「ドカンと撃ちそうで良いじゃないか。とりあえずこれは貰っていくな。まあ、オプションに変更があったらその時はよろしくということで」


「了解っす~」


 なんだか生返事なケンタロウ君に断り、俺は〈シーストリーム号〉を〈空間収納鞄アイテムバッグ〉の中に収納したのだった。


 さあ、お披露目に行こう!




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