第732話 ついに〈エデン店〉オープン! 詰めかける波!




 マリー先輩にカルアの装備をお願いして、ついでに改めて採寸とかもろもろもした。

 カルアも新しい自分の装備が出来ると聞いて猫耳と猫尻尾がピコピコくねくね動いていたのが可愛かった。


 マリー先輩も、今まで作っていた上級装備の試作品とは違い、誰か専用の装備を作るのだとあってとてもはしゃいでいたな。

 とはいえ上級素材はまだまだ集まらないので準備が出来次第作製、ということなため本格的に取り掛かるのはもう少し先になる。マリー先輩にはそれまで腕を磨き続けてもらおう!


 ちなみに残りのレシピの解読もちゃんと忘れず行なったぞ。〈銀箱〉で当たったレシピや〈光の中精霊〉のレシピは残念ながら全集ではなかったが、それでも〈光の中精霊〉ドロップは料理系のかなりレアなレシピだった。こっちは中級レシピだな。それでも〈金箱〉級なのでとんでもないものだが。


 しかし残念ながら【調理師】系はギルドに在籍していないのでこれはしばらく埃を被ることになるかな、と思っていたのだが、このレシピの活躍する機会は意外とすぐにやって来た。


 マリー先輩に依頼をした翌日の日曜日、急な来客があったのだ。


「お隣さんとハンナちゃんに挨拶に来たよー」


「あれ? ミリアス先輩?」


「あ、ゼフィルス君だ。久しぶり~、それとCランクギルドへのランクアップおめでとう~、お店も今日からオープンだよね、これ、お祝いの品だよ。みんなで食べてね~」


 そう言ってバスケットをくれる元気溌剌な女子の先輩は、2年生〈調理課〉のミリアス先輩だ。

 実は俺たちのギルドハウスの隣に建つギルドハウスは、俺たちがいつも打ち上げをするときにお世話になっている料理専門ギルド、〈味とバフの深みを求めて〉が使っていたりする。


 その俺たち〈エデン〉の窓口としていつも依頼を引き受けてくれたり料理を作ってくれるのがこのミリアス先輩だ。

〈ダンジョン生産専攻〉ではハンナがお世話になっているらしく、打ち上げの注文などもハンナがしているため俺は会うのは久しぶりだった。


 ギルドハウスに引っ越したときに周りのギルドハウスには挨拶に行ったのだが、その時ミリアス先輩は不在だったからな。


 そんな回想を思い浮かべていると後ろからドタバタと足音が、そしてハンナが出てきた。


「ミーア先輩、いらっしゃいませ!」


「あははは! ハンナちゃんそれお客様に言うセリフだよ~もっと普通で良いよ~」


「えっと、そうですね。今日はよく来てくださいました? 今日からよろしくお願いします?」


「もうハンナちゃん硬いよ~リラックスリラックス~」


 ハンナが飛び出さんばかりに出てきたと思ったらなんだか恐縮しているように見える。

 いや、緊張しているらしい。実は今日から店がオープンなのでハンナは朝から緊張しまくっているのだ。


「さて、改めてゼフィルス君、今日から〈エデン〉のお店をお借りするミリアスです。よろしくお願いいたします」


 そう、実はミリアス先輩はハンナが所属する生産パーティの1人なのだ。つまり、この〈エデン店〉の従業員の1人ということになる。

〈エデン店〉は〈助っ人〉組の他にハンナの生産パーティが運営するのだ。

 丁寧に挨拶されたので、俺も丁寧に返礼する。


「こちらこそ。まだまだ駆け出したばかりの1年生ギルドですが、どうかミリアス先輩からご教授願えれば幸いです」


「うふふ、それは任せておいてね。ハンナちゃんをいっぱしの商売人にしてみせるわ!」


「それは心強い!」


「2人が結託してる! もう、冗談はほどほどにね!」


 あながち冗談ではないんだけどな。

 ミリアス先輩なら本当に実行してしまいそうだぜ。

 ミリアス先輩はこう見えて、学園の生産部門をつかさどる三大ギルドの一つ、〈生徒会〉会計に席を置く傑物なのだ。

 その腕前は疑う事無しである。


 そんなことを考えながらも親交を深めていると、さらに2人の女子がギルドをたずねて来た。

 1人はリーナとはちょっと違う縦ロールを持つお嬢様、もう1人は目をバッテンにしてハンナよりさらに緊張しているように見えるロリッ子だった。


 2人ともハンナの生産パーティの一員で、確かアルストリアさんとシレイアさんだったな。俺も面識があるので片手を上げて挨拶する。


「お、アルストリアさんにシレイアさん、久しぶり~」


「あ、お久しぶりですわゼフィルス様。お邪魔いたしますわ」


「はひゅ!?」


 すると2人も返して、いや、シレイアさんは盛大に噛んでいたな。返せていなかった。


「ゼフィルス様、改めてご挨拶を。わたくし〈ダンジョン生産専攻・錬金術課〉に所属し、ハンナさんとパーティを組ませていただいております、アルストリアと申しますわ。今日からお世話になりますわ」


「お、おなじゅく〈錬金術課〉! ハンナしゃまとパーティを組ませていただだだだ、ます! えっとシレイアです!」


 アルストリアさんは上品に片手でスカートを持ち上げる優雅な動作で一礼、シレイアさんはグーにした手を胸の前でぎゅっとして目をバッテンにしながらテンパっていた。すごいテンパり具合だ。後半よくわからなかったぜ。

 丁寧に挨拶されたので返礼する。


「これはご丁寧に。このギルドハウス所有のギルド〈エデン〉がギルドマスター、ゼフィルスです。こちらこそよろしくお願いします」


 ハンナのお友達兼パーティメンバーであるため丁重に返した。

 これもギルドマスターの仕事の一環だ。


 するとハンナも出てきて2人と仲良く挨拶を交わす。


「アルストリアさん、シレイアさん、いらっしゃい。今日からよろしくね」


「ハンナさん、改めてよろしくお願いしますわ。それにしてもご自分のお店を1年生で出すことができるなんて、凄いですわね」


「えへへ、これもギルドのみんなのおかげですよ」


「ハンナ様、今日からよろしくお願いいたします! 精一杯頑張ります!」


「はい、一緒に頑張りましょう!」


 おお、テンパっていたロリッ子もハンナの前では落ち着いていた。それほど仲が良いという証拠だろう。ハンナは1人〈生産専攻〉に行ってしまって大丈夫かと心配していたが、向こうでもしっかりやっているらしかった。


 そこにミリアス先輩も加わりキャッキャと今日のお店のオープンについて話し合い始める。仲が良いんだな。ハンナが知らないところで俺の手から離れてしまったようで少し寂しい。


 俺は邪魔だろうし少し後方にでもいて見守ろうと決める。


「それで、あちらの方々はギルドメンバーでしょうか? 挨拶をした方が良いのでしょうかハンナさん?」


「あ~。はい。なんかみんな気になっているみたいですから。紹介させていただきますね!」


 アルストリアさんの視線の先には我ら〈エデン〉のメンバー達が興味津々で覗き見しているところだった。やっぱりみんなハンナとその友達が気になるらしい。

 というわけでハンナが全員にパーティメンバーとギルドメンバーを紹介する事になった。人数が多いので大変そうだ。


 そんなこんなでちょっと落ち着かないバタバタ挨拶ではあったが、最終的にはマリアとメリーナ先輩を捕まえてお店の準備を進め、なんとかオープンする事に成功したのだった。


「いらっしゃいませ! 今日は〈エデン店〉のオープン日ですよー!」


「ハンナさんが作られたポーション類が本日は20%オフで販売ですわ!」


「お買い得だよ~、みんな買っていってね~」


「ほ、他にも武器、鎧の品揃えもあります!」


 ハンナ、アルストリアさん、ミリアス先輩、シレイアさんが、店がオープンしたことを告げると、それまで遠巻きにこちらを窺っていた学生たちが一気に店に入ってきた。


「お、おおおお! ここがハンナ様の新しい店!」


「う、売り子の制服が可愛い!!」


「やべぇ。拡散しないと!」


 ハンナたちの制服、衣装は〈エデン店〉のものに変更されていた。

 インフォーマルな服装にカラフルなエプロンを来ている姿だ。それぞれハンナはピンク、アルストリアさんはイエロー、シレイアさんはグリーン、ミリアス先輩はブルー系のエプロンを着ていて華やかになっている。


 店の内装を見る者もいればハンナたちの格好を見る者もいた。

 最初に来たお客さんはまず商品よりも気になることが多い様子だな。

 オープンしたてだし、買い物よりリサーチ優先というところだろうか?


 そんなことを思っていると、1人のお客さんがレジへと真っ直ぐに飛び込んできて注文してから、雰囲気が一変する。


「うおおお〈ハイポーション20個〉と〈MPハイポーション30個〉くれ!」


「なっ!? こっちは〈スピードポーション〉が切れたんだ! 50個くらい買えないか!?」


「お、おいもう少しじっくり余韻を。ええい〈毒消しポーション〉を40個くれ! これから〈毒茸ダン〉に行くんだ!」


 どうやら入店していた人たちは見物人ではなく、ハンナたちのポーションが狙いだったらしい。1人を皮切りにして全員が一気にレジへと押し寄せてきたのだ。

 ぜ、全然大人しくねぇ!

 すぐにマリアとサトルが列の整理に走った。


「お、落ち着いて、列を作ってお並びください!」


「列はこのようにお願いします! お待ちの間、この注文票に希望の商品名を書いてお待ちください!」


 日曜日の朝ということで、一瞬でもの凄いお客さんが詰めかけ、店は一気に客だらけになった。どうやらハンナの店は予想以上に大人気だったらしい。


 しかし、そんな大混雑でもハンナたちのパーティメンバーは次々お客さんを捌いていく、すげぇ。

 ちなみに〈エデン〉メンバーは巻き込まれたら敵わんとさっさと部屋の中にすっこんでいる。


「は、ハンナのネームバリュー、予想以上に凄いわね!?」


「私も驚いたわ。初日からこんなに人が来るだなんて」


「ここは立地的にそんな良いところでは無いですからね。C道でも端のほうですし」


 ラナ、シエラ、エステルが例の光景を見て感心と驚きの感情を込めて言う。


「ルルは行ってはいけません。揉みくちゃにされ、へたをすれば商品と間違われて買われてしまうかもしれないです」


「シェリアお姉ちゃん!? さすがに買われはしないと思うのですよ!?」


 おお、こっちではルルがツッコミを入れていた。珍しい光景だ。


「とりあえず、お店はしばらくハンナたちに任せよう。我々では荷が重いというものだ」


「リカ殿に同意します。私たちは私たちの仕事をするといたしましょう」


 リカとシズは専門家に任せておけば良いという考えのようだ。その考えには同意だな。


「でも、〈エデン〉がどれだけハンナさんに支えられているか、分かる光景だったよね」


「は、はい。いつもハンナさんが作ってくださるポーションに助けられています」


 ノエルとラクリッテはお客側目線のようだ。

 確かに、本来なら今お店に来ているお客のように俺たちはどこかでポーションを調達しなければならなかっただろう。

 しかし、ハンナの生産力のおかげでそれをせずに済んでいるのだ。

 ハンナには感謝しかないな。〈エデン〉はハンナによって支えられている。


 一先ず〈エデン店〉の出だしは順調だ。

 まだアルルの作品には目を向けられていないが、それも時間の問題だろう。

 もう少し店内の様子を落ちついて見ることが出来れば自然と売れていくだろうしな。……どのくらい先になるかは分からないが。


 さて。お店のほうはハンナや〈助っ人〉組に任せ、俺たちはシズの言うとおり、俺たちのやるべきことをやろう。

 つまりはダンジョン攻略だ。


 おっと、その前に連絡しておかないと。


「あと再度通達だ。今日の夜は改装していたギルドハウスの完成と〈エデン店〉オープンのお祝いをするから、参加出来る人は来てくれよ」


「「「「「はい」」」」」


「よし、じゃあ早速、今日の行動開始だ」




 ―――――――――――

 後書き失礼いたします。


 読者様へとても大切なお願いです。

 この間より、宝島社主催「このライトノベルがすごい!2023」のWebアンケートが開催されています! 

 もしこれにランクインできれば、〈ダン活〉はさらに盛り上がること間違いありません!


 少し前にも「ラノ好き」で〈ダン活〉が新作2位のランキングをいただいてから、書店さんでは第3巻の入荷がとても増えたと報告があがるほどでした!


「このラノ」の知名度はそれを大きく超えていきます。

 作者は、〈ダン活〉をもっと盛り上げていきたいです!


 どうか、どうか「このライトノベルがすごい!2023」のWebアンケートに〈ダン活〉1位の投票を、よろしくお願いいたします!


 明日は掲示板回です!




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