第713話 〈リンゴダン〉再び突入! リンゴメダルの力。




 水曜日から始まった〈リンゴダン〉攻略は、放課後に10層ずつ攻略していくというハイペースで順調に進んでいき、本日金曜日。

 俺の〈育成論〉講座が終わった後に集まって、ようやく〈リンゴダン〉の下層41層から先へ攻略するところだった。


「ここが41層なのね!」


「完全に農園ね。下層とは思えない風景だわ」


「ん、美味しそうな果物、たくさん実ってる。採っていい?」


「この前みたいに油断しないでくださいねカルア。ここは中級上位ダンジョンの下層なのですから、索敵もお願いしますよ」


 4人が41層の風景を見渡しながら感想を述べる。


 ここまで順調そのものだった。

 30層のFボスは闇系統を使う暗黒の枯木〈ダークリンウッズ〉。

〈恐怖〉や〈呪い〉などの状態異常にしてくるいやらしいボスだ。

 とはいえ状態異常に高い耐性を持つシエラの敵では無い。


 全体に〈恐怖〉をばらまく『ダークリンゴ大合唱』と〈呪い〉のリンゴ弾『オレオ食ラエ』だけ気をつけて『インダクションカバー』で防いでもらえれば大した相手ではなく、状態異常に気をつけながらサクサク攻撃していき、最後はラナがこれこそ本当の樹木の姿よと言わんばかりに『聖光の宝樹』を使って光樹木VS闇樹木対決で打ち破っていた。


 40層のFボスは〈メタリックリンウッズ〉という金属の樹木だ。

 え? 本当に樹木なの? と思うかもしれないが俺にもよく分からない。むしろ樹木の形をした金属の塊かもしれない。これがメタル化? 経験値いっぱいもらえちゃう? しかし残念ながら普通のボス並しか経験値もらえないんだよなぁ。


 しかもこれまで魔法系統だったのにメタリックになってからは砲撃が中心になり、枝がパカッと開いた(折れた?)かと思うと空洞の開いた枝がこんにちはしてズドンッしてくる。

 枝なんて360度生えているから死角無しに撃ちまくってくる厄介な敵だ。


 一列縦隊を組んでシエラに防いでもらいつつ、

 シエラの後ろに並んで正面から突撃ジェットストリ◯ムアタックして近接戦闘に持ち込みこれを撃破した。


 それが水曜日と木曜日の放課後の話だ。


「ねえゼフィルス! 黄金のリンゴの木を見つけたわ! 早速〈オカリナ〉を吹いて頂戴! いえ、むしろ私が吹くわ!」


「なんども言うけどそれは黄金じゃ無くて金色なだけの木だからな?」


 目ざといラナがいきなり〈ゴールデンアップルプル〉が逃げ出しにくくなる金色のリンゴの木を発見していた。さすがだ。

 俺は〈空間収納鞄アイテムバッグ〉からレアモンスターを呼び出す〈オカリナ〉を4個・・取り出す。


 以前は1個しか持っていなかった〈オカリナ〉だが、〈テンプルセイバー〉の持ち物に2個あったのと、他のダンジョンを攻略中のリカたちがゲットしてくれた1個で、〈エデン〉の持っている〈オカリナ〉は計4個になっていた。


 この2日間、ずっと限界まで使ってはオカリナの回数を回復しての繰り返しで、ラナの大好物である〈芳醇な100%リンゴジュース〉を乱獲しまくり、16本という驚愕の数をゲットしている。

 まあ、そのうち4本はラナたちのご機嫌取りに消えたのだがな。

 今日も2本ほど消えそうな勢いだ。まあ、これは採取班の特権ということで。


 しかし「こんなにあるのですから売ってしまいましょう」と目を光らせる【マーチャント】のマリアを鎮めるのがとても大変だった。売ったことがラナにバレたら大変なことになってしまうよ!?

 とはいえオカリナの回数代の件もあるため1本ほどオークションに流したのはラナには内緒だ。オカリナ代の予算はこれで確保できたので良しである。


 すでに手慣れた動きでラナがオカリナを吹くと、いつの間にかレアモンスターの〈ゴールデンアップルプル〉がそこに存在していた。


「『音無し斬り』!」


「―――!?」


 そしてカルアが音も無く仕留める。

 いつもの光景だ。そしてドロップが落ちる。

 それをいつも通りにルンルンと上機嫌で回収しに行こうとしたラナだったが、その途中でその足が止まってしまう。


「あれ!? リンゴジュースがないわ!?」


「お?」


 ラナからの叫びが農園に響いた。

 レアモンスターからのドロップというのは、その討伐の難易度の高さからそう種類はなく、超高確率で1種類しか落ちない。

 さすがの開発陣もレアモンスターまで20種の素材が落ちるとか設定したらどうなるか分かっていたようで助かる。


 しかし確率があるということは、他にもドロップするかもしれないということでもある。それが今落ちたらしい。

 マジで!?


「おお~~! めっずらしい! メダルだぞメダル! 〈ゴルプル〉のメダルだ!」


「本当ですか!?」


 ラナより先に飛びついた俺がそれを取って上へと掲げると、意外にもエステルから驚愕の声が届いた。

 ラナはきょとんとした顔だ。これが何か分かってないらしい。


「ほら見てみろエステル」


「ほ、本当ですね。〈メダル〉なんて初めて見ました」


「これは滅多にドロップしないからな」


 珍しく慌てたようにやってきたエステルに、手のひらサイズのやや大きな金メダルを見せる。


「ねぇねぇゼフィルス、エステル、それは何なの!? 私のリンゴジュースは!?」


「ふっふっふ、説明しよう。リンゴジュースなんて目じゃないぞ? これはレアモンスターからのドロップアイテムの一つで、そのドロップしたレアモンスターと遭遇しやすくなるという、超有能な激レアアイテムだ! これさえあればオカリナが無くても素で〈ゴルプル〉とエンカウントしやすくなるぞ」


「な、なんですって!?」


 俺は胸を張ってジャジャン! とばかりにラナにメダルの効果を説明する。

 そう、このメダルはゴールデン系モンスター特有のアイテムで、持っているだけでドロップしたレアモンスターと遭遇しやすくなるという破格の効果を持つ代物だ。

 これまでレアモンスターは超低確率エンカウントなため、遭遇したければ〈オカリナ〉を吹く以外では難しかったが、これがあるなら道中たまに遭遇するような低確率エンカウントくらいまで出現率が上がるのだ。


 そしてこのメダル、正式名称〈ゴールデンアップルプルのメダル〉は文字通り〈ゴールデンアップルプル〉の出現率を上昇させてくれるアイテムなのである。マジやべぇ。


 ゲーム〈ダン活〉時代、これを持たせてサブパーティをオート探索に行かせると、レアモンスターのドロップを採ってきてくれたんだよなぁ。


「これは王家にも無いものです。ゼフィルス殿、言い値で買い取りましょう」


「マジで?」


 別の意味でもやべぇだった。

 いや、ラナやユーリ先輩を見ればよく分かる。王族がこのメダルを超欲しがっているのが。

 おおう、とんでもないものをドロップしてしまったようだ。

 王家も持っていないとか、そりゃレアモンスターからの激レアドロップだからなぁ。別の意味も多分にありそうだが。

 しかし、せっかくの激レアドロップ、売ってしまうのは勿体ない。これゲーマーのさが。さてどうしよう。


 俺が言葉に詰まったタイミングでエステルの言葉に待ったを掛けたのは、意外にもラナだった。


「ちょっとエステル待ちなさい。これを買い取るということは所有者が私では無くなるということじゃない! そんなの許せないわ!」


「! そうでした。あまりの価値ある品に目的を見失っていたようです。失礼いたしましたラナ様」


 ラナのセリフにエステルがはっとした。

 なるほど、確かに今はラナが気兼ねなく使えるが、例えば王家で買い取ってしまうと持っていかれてしまうということでもある。ラナも使えるだろうが、ラナが好きに使う事は出来なくなるわけだ。

 それにギルドの保管物であればギルドメンバーは好きに使える。ギルドメンバーにリンゴジュースを取ってきてもらうこともできる。

 多分、そういうことだろう。さすがラナである。


「おお、サンキューラナ」


「いいのよ。それよりそのメダルは私が持つわ。貸して!」


「それくらいなら問題無いぜ」


 ということでメダルはラナが持つ事になった。

 ラナの顔がとっても緩んでいる。そして、


「カルア『ソニャー』よ! 〈ゴールデンアップルプル〉がいるわ!」


「ん、いる? 『ソニャー』! ん、あっちに4体反応」


「4体! 行くわよカルア、私に付いてきなさい!」


「ら、ラナ様お待ちください。私もお供しますから」


 どこかで見たような反応で突撃指示を出したラナがカルアの手を掴まえて自ら先頭で突撃していった。すぐにエステルもそれに続く。

 だがいくら出やすくなっていると言っても低確率だ。そう簡単にいるわけが……。


 と思っていたらなんと、ラナは〈芳醇な100%リンゴジュース〉を1本抱えて戻ってきたのだった。


 初っぱなからラナの運が強すぎる!!




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