第711話 上級職ランクアップ! マリー先輩編!
「マリー先輩に就いてほしいのは、【服飾師】系統の最高峰、万能の服飾師【マギクロスアデプト】だ」
「聞いた事ないんやけど?」
そりゃあこの世界、生産職の上級職いないしな。
「なんで兄さんがそんなん知ってるんか、とても気になるんやけど?」
「まあまあ、それは置いておこう。それより発現条件を満たそうぜ」
「そのセリフ、全然誤魔化そうとしてないやん! もうマジ兄さんや」
マジ兄さんとは?
多分褒め言葉の一種だろう。
「マリー先輩のビルド構成だが、【魔装束職人LV75】に『裁縫』『装飾』『服飾加工』は全てLV10だったよな?」
「もちのろんや。その三つは良い装備を作るのに必須スキルやからな! もちろん兄さんのアレのせいで
うむ。実はマリー先輩と出会った頃、マリー先輩はまだレベルカンストしていなかったらしいのだが、俺たちが納品しまくった度重なるボス素材によってレベルは急上昇、すでにカンストまで上がっているのである! ハッハッハ!
「ちなみにだが、装備を作った数とか覚えているか? 1000着以上欲しいんだが、後上級装備のダウングレード品の作製に成功した経験と
「よう分からんけど、簡単な〈ハンカチ〉や〈スカーフ〉なんかの装備もカウントしていいなら倍は確実に作っとるで? 上級装備はこないだギリ成功したのを作ったし、
「さすがマリー先輩。売れっ子ギルドだな。しかし、
「へ? ここで? 何をや?」
「もちろん
「いやいやいや、正気かいな兄さん!? 針がへし折れるで!?」
「大丈夫だ。予備はある!」
「なんで針の予備なんか持ってんねん!」
そりゃあ、マリー先輩を上級職にする気満々だったから備えていただけだ。
【服飾師】系は
「うわー。ホンマに本気か兄さん。これ、ホンマに発現条件なんやろな?
「大丈夫だ。発現条件だからな」
「はあ。分かったわ。ウチもやる言うたしな。しかし、地面に向かってスキルとか変態過ぎるとちゃうかな。『裁縫』! うひゃ!?」
なんだかんだ言いつつも針を地面に向けてスキルを発動するマリー先輩。
一瞬のエフェクトの後、まるで磁石が反発するように押し戻され、針がポキッと折れた。
「おお、見事にポッキリ行ったな。見事な
「兄さんの鬼畜ぅ!」
それからマリー先輩は10本全ての針を破損させた。これは必要経費だ。問題は無い。
「お、終わったでぇ」
「なら後はこいつだな」
そう言って俺はハンナにも使った心系アイテム。〈信じる心〉を取りだした。
「マリー先輩にこれもプレゼントだ。これで【マギクロスアデプト】が現れるはずだぜ」
「もう意味分からんわ~! まあ、ありがたくいただくけど」
そう言いながらもマリー先輩は俺の手から〈信じる心〉を受け取ると胸に当てて使ってくれた。
光の粒子がマリー先輩の体に溶け込むようにして消えていった。
「うひぃ、なんや、へんな感じやな」
「これで準備完了だな。これで発現条件を満たせたはずだぜ!」
そして測定室の奥に佇む〈竜の像〉へ手を向けてマリー先輩を送り出す。
「ま、騙されたと思うてちょっと行ってくるわ~」
「おう、【マギクロスアデプト】だぞ。それが一番いい
「あいよ~」
いつものノリの良い仕草で片手を挙げながら〈竜の像〉に近づくマリー先輩。
もう片方の手に俺が渡した〈上級転職チケット〉を持ち、〈竜の像〉の頭に手を置いた。
瞬間、いつも通り現れる一覧表。
「うわ、本当に【マギクロスアデプト】なんてあるし」
「それ以外は眼中に無し」
「あいよ~」
マリー先輩は珍しそうにジョブ一覧を眺めていたが、やがて納得したように頷くと一言「【マギクロスアデプト】で」と言いながらジョブ一覧をタップした。
【マギクロスアデプト】の文字がズームアップし、他はクローズアウトして、〈上級転職チケット〉が粒子になって消える。
これでマリー先輩は【マギクロスアデプト】だ。
―――【マギクロスアデプト】。
【服飾師】系で最高峰と呼ばれる万能
服系、軽装系の防具は全てに適性がありハイスペックに仕上げられるために、攻略に必須とも呼ばれていた
これで3種の神器ならぬ3種の生産職のうち2種が揃った。後はアルルだけだ。アルルもそろそろレベルカンストに届くので、3種の生産職は近いうち全てが揃うだろう。ふははははは!
「なんか兄さんがむっちゃ楽しそうな顔しとる」
「もちろんだぜマリー先輩! 【マギクロスアデプト】の〈
「あんがとな兄さん! 実感はまだ薄いんやけど、結構嬉しいわ」
「じゃあ早速〈女武士道シリーズ〉全部作ってみるか?」
「もうちょい余韻に浸らせて兄さん?」
ということで場所をマリー先輩のギルド、〈ワッペンシールステッカー〉に移動する。
すでに例の4種類のレシピはマリー先輩に渡してあった。あのレシピで釣ったようなものなのでマリー先輩に渡すのに否は無い。
俺はこのときのために取っておいたレアボス〈サムライオーガ〉など、必要素材を全部取り出しマリー先輩に渡しておく。
「まだちょっと素材が足りないはずだからまた今度〈サムライオーガ〉を狩って来るとして、とりあえずは簡易でいいから慣れるまで作って解体してを繰り返してくれ。それで手ごたえを得たら本格的な作製だな。本番は全部上級並の素材で〈女武士道シリーズ〉を作る」
「気軽に言うてるなぁ~。でもウチ、もう兄さんに逆らえん身やから、身を粉にして働きます~」
「フッフッフ、俺のために働いてもらうぜマリー先輩」
「あ~れ~そんなご無体な~」
「ハッハッハ、良いではないか~」
俺が今後の展望を告げるとマリー先輩がまるで涙を拭う「およよ」みたいな仕草で冗談を言う。なので俺もノリに乗ってしまうのだ。両手を掴んでクルクル回る。
相変わらずノリが良いぜマリー先輩。
ちなみにだが、生産職には解体系スキルがある。自分で作った武器や防具、アイテムなんかを素材に戻すスキルだ。所謂やり直しスキルだな。
まあ、全部の素材が戻ってくるのでは無く、迷子になって戻って来なくなってしまう素材も無くは無い、それでも素材が戻ってくるというのは大きく、頻繁に利用されていたスキルだ。
まずはこれを使って作製、解体を繰り返し、プレイヤースキルを磨いてほしいとマリー先輩にお願いする。
本格的な上級装備はもうちょっと準備が整ってからだな。素材の問題もある。
いくら〈サムライオーガ〉はレアボスで上級に片足突っ込んでいるとはいえ、あくまで中級ボス。
その素材を十全に使った装備はそりゃあ強いだろうが、上級装備の中では弱い部類になってしまう。それでは上級中位ダンジョンの上層くらいまでしか使えない。
真の上級装備とは全て上級素材を使った装備品だ。それさえあれば上級ボスも楽勝、とはいかないが楽に倒せるようにはなる。
ということで、上級クラスの素材を得て、
「はいストップや! いつまで回っとんねん! いい加減降ろしてや!」
「おっとついつい」
おっと、楽しすぎてマリー先輩の足が浮いてしまった。
そっと降ろしてあげる。
「ふう、話はわかったわぁ。で、これはリカはんの装備なんか?」
「そこがちょっとネックなんだよな」
〈女武士道シリーズ〉はその名前の通り、「侯爵」カテゴリーの武士などが着ることで能力値にいい影響を与える。『刀装備時・STR+60、AGI+40』とかな。
つまり、装備するならリカだ。パメラも良いがまだ下級職なので検討中。
だけど、リカは上級ダンジョンを攻略する初期メンバーに入っていないんだよなぁ。
そうなると、もう防御力だけと割り切って最初はカルアに装備させてもいい。
サムライ装備をしたカルアを想像してみる。
うん。見た目も似合うんじゃないか?
カルア用の装備が手に入らなかったらこれを着せるのもありだな。
何しろカルアが今装備している防具は中級上位ダンジョンの通常モンスター素材で作った装備品なのではっきり言うと弱い。上級ダンジョンに行くには装備の変更が必要だ。
〈姫職〉組の姫職装備は〈装備強化玉〉を使って無理をすれば最悪
〈女武士道シリーズ〉の恩恵こそ得られないが、完成すれば〈エデン〉が所有する前衛の装備で一番いい性能なのは間違いないため、ほかにカルアに良い装備が見つからないときは仮で〈女武士道シリーズ〉を着せようと思う。サムライガールカルアかぁ、リカはどんな反応をするのだろう? 見てみたい気もする。
そう俺はマリー先輩に相談する。
「リカはんとカルアはんではサイズが全然違うやん。作るんならどっちに装備するか決めとかんとあかん」
「あかんか。じゃあ上級ダンジョンに挑む寸前まで保留で」
「それはそれでお預けを食らったみたいでしんどいわぁ」
「難儀だな!」
「全部兄さんのせいやけど!?」
「はっはっは!」
笑って誤魔化す。
ということで〈女武士道シリーズ〉の本格的な作製は未定になった。
別のレシピ全集をゲットするかもしれないしな。
「とりあえず、マリー先輩のSPを振ろう! 今どのくらい残ってる?」
「はあ、まあええわ。上級職になるなんて考えてへんかったかんな、祝儀でもろうた10SPだけや。つうか10ももらえるんか……、これだけでも上級職になった甲斐があるなぁ」
「なら、とりあえず『上級裁縫』に5、『上級装飾』、『上級服飾加工』、『
「…………なんでうちにしか見えないスキル一覧を的確に言えるんやろな?」
「勇者だからな! 効果を説明するぞ」
「もう好きにして!」
うむ、潔い。さすがマリー先輩だ。「好きにして」いただきましたー!!
俺は早速マリー先輩に育成論を伝授していったのだった。
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