第709話 マリー先輩の度肝を抜け! そして勧誘しろ!
マリー先輩だけを連れて2階の倉庫部屋へと向かうと、俺は〈
「マリー先輩に見せたいのはこれだ!」
「ふおお、3枚!? こんなにもかいな!? しかも、全部うちの
マリー先輩に見せたレシピは3種類。
どれも〈
瞬間、目にも留まらぬ速さで俺の手元のレシピが消える。当然マリー先輩の手の中だ。
は、
レシピは全部〈金箱〉産。
あの時ニーコの【トレジャーハンター】のスキルで半分以上装備がドロップするよう調整はしていたが、ところどころで出たレシピだな。
この世界ではレシピは貴重。レシピが無いと生産職は物を作れないからな。
そして俺が取り出したこれは、
「兄さん、これ全部貰ってもええのんか!?」
マリー先輩がレシピを3枚とも掴み、離さないといわんばかりに俺を見る。しかし、
「ええわけないって、どれか一つだぞ?」
俺はそれを却下した。
「な! え~~~~!? 兄さんそんな殺生な!? こんなん見せられてどれか一つ選べなんてそりゃないで!?」
マリー先輩がとんでもなく信じられないことを言われたと言わんばかりに驚くリアクションをする。さすが、いいリアクションだ。しかし、それでこれ全部をあげるわけにはいかない。
「さすがに全部はなぁ、というか1枚でも破格の取引だからな?」
「そりゃわかるけどーー!」
何しろレアボス〈金箱〉産レシピだ。どれだけ金を積んでも欲しがる者はいる。
それがアドバイスだけで1枚もらえるんだぜ? 3枚? 無理無理。
1枚でも取引を持ちかけたのは今後のことも考えてだ。店が軌道に乗るまでのアフターフォロー代も含んでる。
それでもやはり、かなり破格な取引であることには違いない。普通は欲しくても金を積んでも手に入らない方が多いらしいからな。俺とマリー先輩の仲だからこそこの取引を持ちかけたとも言える。マリー先輩は絶対欲しがると思っていたからな。そして、俺にはもう一つ狙いがあった。マリー先輩には他にやってほしいことがあるからな。
そして、案の定マリー先輩は3枚とも超欲しがっていた。
3枚のうち2枚が体装備で、1枚が足装備だ。全部毛皮系で作れるためマリー先輩の
ちなみにこれの『レシピ解読』は〈テンプルセイバー〉から受け取ったアイテム〈レシ見ちゃん〉によって判明しているためマリー先輩には初公開だったりする。
ふっふっふ、ドッキリ大成功だぜ!
マリー先輩はレシピを抱きかかえ、絶対に離さないとばかりに身を引き始めた。じりじりと後退している。どこへ行こうというのかね?
俺もじりじりと距離をつめる、なんだろうこの遊び? ちょっと楽しい。
「待った、兄さん分かったわぁ。そんなら1枚は
食いついたな! 狙い通りの展開。
ふっふっふ、だがまだダメだ。俺はニヤけそうな顔を気合でキリッとさせてマリー先輩をじらす。
「残念だが、それは売り物じゃないんだ。いくら金を詰まれても売れないな。選んでもらった1枚以外は回収する」
「な、何やて……」
マリー先輩の声が震えた。
わなわなだ。
「そ、それならこれならどうや――」
それから何度か手を替え品を替え、マリー先輩が交渉してきたが俺は首を縦に振ることはなかった。
「ぐぬぬ~、今日の兄さん超いけずや!」
とうとうマリー先輩からぐぬぬ発言来ました! さて、そろそろかな?
「分かったよマリー先輩、ならこうしよう。こっちの条件を飲んでくれたら3枚ともマリー先輩に渡そうじゃないか」
「何やて!? ぐ、ぬぬぬ、そ、それでその条件とはなんや?」
まるで悪魔に魂を売り渡しそうな決意を帯びた目で俺を見つめるマリー先輩。
うむうむ、マリー先輩も俺が無理難題を吹っかける気だと思った様子だ。そんなことはない、こともない?
そう、俺はマリー先輩にとっても重要な交渉をしたかったためにこの場を用意したのだ。
俺の誘導に見事に誘いこまれたマリー先輩。先ほどよりさらにじりじり後退し、ついに壁まで追い詰められる。
おかしいな。なんだか俺、
余計な気に惑わされないよう気を引き締め、俺はマリー先輩にさらに追い討ちをかけた。
「マリー先輩にはこれを、おっと手が滑ったああぁぁ!」
〈
それがレシピであると見抜いた瞬間、床へ落ちる前にそのレシピが消えた。目が追いきれないほどの速さでマリー先輩が回収したのだ。さっきまで俺から距離を取って壁際にいたはずなのに、いつ俺の側まで近寄っていたのかはわからない。
そしてレシピを確認したマリー先輩がわなわな震えた。
「こ、これはなんや兄さん!? こりゃまさか、レシピ全集!? しかもこれレアボス〈金箱〉産やないか!? どうなってるんやーー!?」
今日一番のマリー先輩の叫びだ。
うむうむ、本当にいいリアクションだ。
そう、俺がうっかり落とし、マリー先輩が拾ったそれは〈女武士道シリーズ〉のレシピ全集。
通常レシピというのは防具の場合、どこか一箇所のみしか得られない。すなわち頭、体①、体②、腕、足だ。
それが全て
何しろシリーズ装備を揃えたらシリーズスキルが開放されるのだから。
さらには全身をシリーズ装備で統一して揃えるのは並大抵のことではなく、羨望の的になるほどなのである。
「うちの肝が全部取られてまう~~! もう煮るなり焼くなり好きにされるんや~」
そんな上級装備のレシピ全集を見せられたマリー先輩はすでに諦めの境地のようだ。
全面降伏である。素晴らしいリアクションだ。
だが、そこまで大げさなことを頼むわけではないので安心してほしい。
俺は自分の〈
それは竜の絵が描かれた一枚の紙、
―――〈上級転職チケット〉。
これはギルドで手に入れたものとは違う、俺個人の持ち物だ。そして俺が一番最初にゲットしたチケットでもある。
初心者ダンジョンの最奥の隠し部屋の中にあった、あの1枚。
俺はこれを誰に使おうか、ずっと前から決めていた。
ギルド〈エデン〉が目指すのはSランクギルド、学園の頂点、そして学園ダンジョン最高峰である最上級ダンジョンの攻略だ。
それには当然上級職の生産職が作った装備やアイテムが必須となる。
しかし、この世界には上級職の生産職は皆無だった。なら自分で見つけ、育てるしかない。
最低限必要な生産職は3種類。
【錬金術師】系統。これはハンナ担当だ。
【鍛冶師】系統。これはアルル担当だな。
そして最後、【服飾師】系統、これをマリー先輩に頼みたいとずっと思っていた。
この3種の
だからこそ俺はマリー先輩が欲しかった。
ハンナ、アルルと違い、〈エデン〉のギルドメンバーではないマリー先輩にギルドの〈上級転職チケット〉は使えない。だが俺が個人で持っているものを使うことは出来る。
〈上級転職チケット〉は法律で売買が禁止されているが、寄付や、無償での他人への使用は禁止ではない。
なので俺がこれをマリー先輩に使う事は何も問題は無いわけだ。
うん。無償無償。つまりはタダ。タダより高い物はないけどな。でっかい貸しと借りが出来るだけだ。問題無いな!
そして俺は、マリー先輩を勧誘した。
「マリー先輩。上級職【マギクロスアデプト】に就いて、〈エデン〉専属になってくれないか?」
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