第679話 大きな波紋?本当の【筋肉戦士】ギルドの誕生。




 ギルドの吸収、もしくは合併は割とよく行なわれている行為だ。


 サターンたちの〈天下一大星〉も二つのEランクギルドを吸収して作られていたしな。


 落ちぶれたギルド、最低人数を割ってしまったギルド、そんなギルド同士が手を取り合って合併するというのは低ランクギルドでは良くある話だ。

 もしくは延びしろがあるギルドだが、少数しかいないギルド同士が手を組んで合併したりとかな。卒業生が出て15人に減ったBランク同士が合併するなんて話もある。


 吸収の場合はランクが上がった時が多い。加入できる上限が増え高ランクのギルドが低ランクのギルドをそのまま吸収する形だな。本来なら親ギルドが下部組織ギルドを吸収するというやり方が一般的だ。


 または分散吸収という方法もある。

 元々30人いたBランクギルドだったが卒業生が出て16人まで減少、ギルドのランクを維持できるだけの実力も無く、ギルド内のバランスも崩れて分解してしまい、いくつかのギルドによって吸収されることだな。しかしこれだとギルド自体が消滅してしまうので、吸収というより引き抜きになるのかもしれない。


 そして今回は完全に〈マッチョーズ〉のギルドごと吸収したいという話だった。

 つまりは〈マッチョーズ〉が持つ全てが〈筋肉は最強だ〉ギルドに吸収されるということである。

 なるほど、確かに1億の価値はあるかもしれない。


 俺が知るかぎり、現在〈マッチョーズ〉は壁にぶち当たっている。

 上級生や高ランクギルドからの助けも無くあのレベルまで自分たちを仕上げたのは見事と言うほかないが、最初こそ新進気鋭で勢いのあった〈マッチョーズ〉も次第に勢いが減少。攻略階層は中級下位ダンジョンで止まっているし、他にAランクやBランクギルドに引き取られた人たちはもっとレベルも攻略階層も高くなって追い越されてしまっている。


〈マッチョーズ〉たちが5人でギルドを維持するのも大変だろう。

 人数が少ないため、〈10人戦〉が必要なDランクギルドにすら上がれない。

 なぜか〈マッチョーズ〉は【筋肉戦士】オンリーでギルドを作ることに拘っているからな。

 そしてなぜかは知らないが以前〈筋肉は最強だ〉ギルドの誘いを断ったとも風の噂で聞いた。確かその時は〈マッチョーズ〉には一年生だけでギルドを作りたい目的があったとかなんとか。


 この依頼、はてさてどうしたものか。中々に難易度が高い。というか時間がかかりそうだ。

 とはいえ、アランに〈筋肉は最強だ〉に加入してもいいのかその意思があるかを確かめることくらいはしてもいいだろう。ダメ元だ。


〈天魔のぬいぐるみ〉なら他にも2箇所あるんだ。

 ダメだったら、学園長に貸しを返してほしいと頼んでみる。それもダメならガルゼ先輩に連絡してみよう。


 マッスラーズのマッスル先輩には期待はしないでくれよ、と言ってギルドを退出させてもらった。

 なぜか盛大な集団マッスルポーズで見送られたよ。


「さて、セレスタン、このままアランのところに行ってもいいか?」


「もちろんです。アランでしたらこの時間は」


「ああ、多分あそこだろうな」


 俺とセレスタンは同時にとある方向へ足を進めることになった。



 そうして到着した場所は、今や通称〈筋肉ロード〉なんて名付けられてしまったとある急勾配きゅうこうばいのある道、一応階段も備え付けられているこの道は、なぜか筋肉を育てるのに最適なスポットとして今注目を集めているのだ。

 もちろんゲーム時代にそんな設定なんか無かった。


 そんな道で今日も兎跳びで急勾配の上りに挑戦する筋肉5人がいた。言わずもがな〈マッチョーズ〉である。


 俺とセレスタンは邪魔しないように階段で上へと上がり彼らの到着を待った。


「そういえばここってこんな作りしてたんだな」


「おや、ゼフィルス様は来たことがなかったでしたか?」


「……唯一の道が通りにくくてな」


 実はこの急勾配の天辺はとあるやしろが建っている。それ自体はゲームで見たことがある。イベントで使うからな。

 しかし、リアルで見たのは実はこれが初めてだったりする。理由はあれだ。この道の名前のとおりだ。なんか通りづらかった。


 そんなことを思っていると、どうやら筋肉5人が急勾配を上りきったようだ。


「「「「「おお! ゼフィルス、セレスタン、今日もいい筋肉だなグッドマッスルだ!」」」」」


 グッドモーニングみたいに言うな。その挨拶は流行っているのか?

 兎跳びで急勾配の坂道を上りきったアランたちが立ち上がって片手を挙げて挨拶してきた。全員揃って見事すぎる! これが筋肉連携?


「アランたち、修行中にすまないが少し話を聞いてもらってもいいか?」


「ん? いいぞ。ちょうど休憩しようとしていたところだ」


 それにしては息が上がっていない。どんな鍛え方をしているのだろうか?


 というわけでアランたちに先ほどマッスル先輩が話していたことを告げる。

 すると、なぜか全員が涙を流した。


「そうか、そうか。ついにマッスル先輩は夢を叶えるのか」


「お、おう」


 まるで感動しているとばかりにちょっと遠くを見ながら涙を流すマッチョ5人に俺はちょっとだけ引いた。


「それで〈マッチョーズ〉のお誘い――」


「お受けしよう」


「――だが、って即答かよ! というのか良いのか?」


 予想外の答えに驚いて思わず聞き返してしまった。


「うむ、我らだけでは目的に到達できぬとようやく分かったからな。我らもあの時は驕り、浅はかだったのだ。あのクラス対抗戦で分かった。我々に足りないものは仲間だったのだ。マッスル先輩には何度も声を掛けてくれたのに悪いことをした」


 そう言うアランの視線は、俺をしっかり見つめていた。

 即答したにしては、並々ならぬ実感を感じる。

 しかし、一つ言わせてもらえるとすれば、足りないのは【筋肉戦士】以外の職業ジョブだと思う。


 アランの話は続く。


「それに俺をギルドマスターの後任にしたい旨、確かに承ったぞ。しかと任をこなすと先方に伝えてほしい」


「マジか」


 アランがかっこよく頷いた。話が簡単についたぞ、どうなってるんだ?

 とそこで控えていたセレスタンがアランに告げる。


「アラン、僕たちは先に行っています。あなたたちも先輩に扱かれながら付いてきてください」


「セレスタン、いや〈微笑みの筋肉部隊〉リーダー。本当はあんたの下に付きたかったよ」


「僕にはゼフィルス様がおりますので」


「ふ、言ってみただけだ」


 お、おう? なんだかアランとセレスタンの間に友情っぽい何かが見えた気がした。

 いったい何があったんだ!?



 しかし、話は纏まったので、俺とセレスタンはすぐに〈筋肉は最強だ〉ギルドに〈マッチョーズ〉の全員が吸収に同意したことを告げに向かった。


 その道中、セレスタンがなぜ〈マッチョーズ〉がマッスラーズの誘いを断り続けたのか、その理由を教えてくれた。


「アランたち〈マッチョーズ〉は〈エデン〉のライバルになりたかったのですよ。周りからの期待もあったようですが、一年生だけでギルドを作った〈エデン〉に対抗し、自分たちも一年生だけでギルドを作らなければフェアではないから、と」


「え? そんな理由があったのか?」


 それは初耳だった。俺は、ギルドを作った当初は上級生にギルドを乗っ取られるのを警戒して一年生だけでギルドを作ったが、別に上級生を入れないと決めていたわけではない。ちゃんと〈転職制度〉を作ってから上級生も迎え入れた。


「はい。とはいえ〈エデン〉との実力差も大きく開く一方で限界を感じ、マッスラーズに加入することを決めたようですね。我々が聞きに行かなくても、そのうち自然と〈マッチョーズ〉とマッスラーズは一緒になったでしょう。マッスラーズもそのことを肌で感じ、Bランクギルドですのに在籍25名と〈マッチョーズ〉の5枠分を残していたみたいですからね」


「……そうだったのか」


 知らなかったぜ。

 いや、しかし、考えようによっては簡単な依頼になったから良かったのか?

 あれ? これで〈天魔のぬいぐるみ〉が手に入る?


 俺たちはその足で〈筋肉は最強だ〉ギルドに入り、なぜか歓迎ムードの筋肉さんたちが出迎える中、マッスル先輩に〈マッチョーズ〉が加入に同意したことを告げた。


 雄たけびが上がった。


「おおっしゃー!!」


「これで30人揃ったぞ! 全員が【筋肉戦士】だ!」


「俺は【筋肉戦士】になるぞー!!」


「ありがとうゼフィルス氏、これで俺のギルドはますます強くなれる」


 本当にそうなのだろうか?

 そう思ったが口には出さない。


 本人たちが盛り上がっているのだから水を差す真似はしないよ。

 が、がんばって。とだけ伝えておいた。


「ようしみんな! 今日は前祝いのスペシャル訓練コースだ!」


「おおっしゃー!!」


「スペシャルメニューだ! さすがギルマスだ!」


「マッスラーズ! マッスラーズ!」


 やべぇ。なんだか盛り上がってるけどなんで盛り上がっているのかわからねぇ。


「ゼフィルス氏、では約束の〈天魔のぬいぐるみ〉、持っていってくれ」


「お、おう。ありがとうマッスル先輩。これで俺のギルドも強くなれるよ」


「はっはっは、お礼を言うのはこちらだろう! これだけ盛り上がったのは久しぶりだ! ゼフィルス氏、こちらこそありがとう」


 そう言って出してきた手を握り締め、こうして俺とセレスタンは無事、二つ目の〈天魔のぬいぐるみ〉を入手したのだった。

 次はこれを使う人材を決めなくてはならないな。早速ミサトに連絡を取るとしよう。


 ちなみに後日、正式に〈筋肉は最強だ〉ギルドに〈マッチョーズ〉が吸収されることが学園ニュースによって発表された話は学園で波紋を生んだ、がそれはまた別の話。




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