第639話 中級上位ダンジョンカット! 最奥へ到達!




「すまん。遅くなった」


 臨時講師をした日の放課後。

 一応余裕を持った集合時間に設定しておいたはずだが、俺は30分遅刻していた。

 新しい生徒たちの質問攻めが予想以上に激しかった。


〈育成論〉の内容を吸収しようという意欲は嬉しいのだが、もう〈転職〉まで日が無くて生徒たちが焦っているのだ。この職業ジョブならどんな育成をしたほうが効果的か、の答えを求めてくるので困ったものだ。

 まあ気持ちは分からんでもない。来週はダンジョン週間なのでお休みだから、今日が〈転職〉前の最初で最後の講義だったのだ。俺もそれが分かっているので出来る限り基本的なことを1日で叩き込んであげた。


 俺が披露する〈育成論〉は考え方を伝えるだけ、どう育成するのかは本人次第だ。

 一度決めたら戻せないので、やっぱりこうしておけばよかった、こっちの方が自分に合っていた、なんて言われても困るしな。


 しかし、生徒たちの食いつきは俺の予想を超えてすごかった。

 良いことだ。うむうむ。

 それでも時間をオーバーしているのだからどれだけの賑わいだったのか想像してほしい。

 ちなみに、質問して取り囲んできたのが全員女子だったのは遅れた原因には関係ない。


「相変わらずゼフィルス先生は人気がありますわね」


「うぐ」


 リーナが片手を頬に添えた仕草でにっこりと言う。笑顔に影が掛かっている気がしてちょっと怖い。気のせいだと思いたい。


「もうゼフィルスは私たちの事をこんなに待たせて、後でしっかり清算してもらうんだからね!」


「はいゼフィルス殿、今回ばかりはラナ様の意向に従ってもらいます。――ですがラナ様もあまり欲張りすぎてもいけませんよ?」


「わ、分かっているわ。エステル、ちょうどいい案配を考えましょ?」


 なんだか俺の知らぬところで妙な約束が進行してる!?

 まあ、少しくらいなら付き合おう。


「ぼくはアイテムを見る時間があったので遅れてもらっても問題は無いよ。むしろ今日はもう休みにしないかい?」


「時間が無いので却下だな」


「そんな~」


 ニーコは平常運転だった。

 しかしニーコよ、俺は知っている。

 ニーコはボス部屋に行く道中、〈サンダージャベリン号〉の中でちょろっとアイテムの研究をしていると。

 時間あるやん。少しだけど。


 ニーコの場合、ダンジョンに連れて行くとき道中は〈馬車〉でショートカットする場合がほとんどだ。ニーコの能力はボスで真価を発揮するからな。

 だから地味にアイテムの研究時間は有ったりすることを俺は知っている。


 とりあえずリーナの機嫌を宥めつつ、今日も〈鎧獣よろいじゅう鉄野てつのダンジョン〉の最奥を目指す。

 昨日登録した20層にショートカットした。


「あ、ボスが復活しているわね」


「今日はスルーだ。エステル、頼む」


「はい。『オーバードライブ』!」


 20層フィールドボス、〈猪鎧獣・ドンファング〉が復活していたがこれは今日スルーして進む。

 ボスがこちらに気が付いたがもう遅い。というよりショートカット転移陣が入口門の近くにあるせいで走ればフィールドボスと戦わなくて済むのだ。

 今日は時間が無いので〈ドンファング〉は残念ながら去らばした。


 そうして俺たちは21層に到着する。

 何気にリアルな中級上位ダンジョンでは21層から先は初めてだ。


 このダンジョン、〈鎧獣よろいじゅう鉄野てつのダンジョン〉は外部装甲に覆われた獣型モンスターが多いダンジョンで、その防御力は中々にエグい。これを削って倒すためにMP消費量がばかにならないダンジョンだ。


 巨大な洞窟、というかトンネルのような構造をしており、馬車がすれ違えるほどには大きな空間の通路がある。

 そしてあちこちに『発掘』ポイントが設置されており、良い鉱石類が手に入るのだ。


 このダンジョンのモンスターや下層の鉱石類を使った装備は中級装備の中でもトップクラスで、アルルから「行くなら是非色々採ってきてな」と頼まれてしまった。

 とはいえボス周回がメインなので時間が余ったら、と言っておいたが。今日はちょっと無理そうだ。


 途中出てくるモンスターは攻撃力も防御力も高く、普通に挑むのなら最下層までにどれほどMPを食われるか分からない。


 しかし〈サンダージャベリン号〉に掛かればまったく問題ない。

 他のモンスターを全スルー(轢いたりいたり)して、一気に最奥を目指した。

 こんな方法が使えるのも中級までだけだが、できることは活かさないとな。

 だが物足りないのも事実なので今度改めてじっくり攻略しようと思う。アルルにも鉱石採ってきてやりたいし。



 そうして俺たちは最奥の50層に到着する。

 結局、道中のモンスターは全てスルーし、ボスも40層フィールドボスの〈鉄熊てつくまじゅう・アルガグマル〉をはっ倒してショートカット転移陣を開放するくらいしか戦っていない。徘徊型ボスとも出会わず、ほとんど万全の状態を保ったまま、一行は最奥まで到着していた。


「時間は18時過ぎか。夕方だしやっぱり1戦で切り上げかな」


「え~、もうちょっと戦いたいわね」


「その代わり明日はフルで戦えるさ」


「楽しみね!」


 少し不満げだったラナだったが、明日は全力全開でやることを諭すと途端に元気になった。

 そんなラナが好きです。


「じゃあ、ここのボス説明をするぞ」


 そして恒例のボス説明。


「まず今回の狙いだが、レアボス〈金箱〉産装備、〈放蕩ほうとう獣鉄剣じゅうてつけん〉の入手を目指す!」


「〈放蕩獣鉄剣〉、ですか?」


「聞いたことがありますわね」


「ふむ。またとんでもない名前が出てきたね。ぼくが必要だったのはこれだったわけだ」


 エステル、リーナ、ニーコの順に三者三様の反応を見せる。

 


 ――〈放蕩獣鉄剣〉。

 通常攻撃をするだけで相手に弱デバフが掛かるという非常に強力な大剣だ。しかもこのデバフは重複する。つまり攻撃すればするほど相手が弱っていくという代物だ。

 中級上位ダンジョンレアボスの激レア装備にふさわしい性能だな。

 それだけではなく、これはとある上級職の発現条件に必要な物でもある。


 その名は――【怠惰】。

 人種カテゴリー「猫人」の大罪系職業ジョブ。上級職、高の上。


 Aランクギルド〈獣王ガルタイガ〉が欲している、〈白の玉座〉との交渉で求めてきた装備である。




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