第626話 再び遭遇タバサ先輩。否、今回は偶然ではない?
「久しぶり、ゼフィルスさん。やっぱり会えた」
「よかった。今度は俺だと認識していたな」
あの時は完全に俺が誰かも分からずすがり付いてきたが、今回は一応まとものようだ。
あと横にシエラがいるのも心強い。あの時みたいに冷や汗ドキドキしなくていいし。
「タバサ先輩? こんな時間にこんなところで何をしているの?」
シエラがド直球に聞いた。
確かに、それ一番気になるところ。今回2回目だし。
「ギルド、やめることにしたのよ」
そして返って来た言葉がこれだった。
以前のやめたい、ではなくやめることにした、だ。
うん。大丈夫じゃなさそうだな。
「とりあえず、移動しようか」
放置するとやっぱり大変なことになりそうなので、シエラにアイコンタクトで許可を取って連れて行くことにした。
お持ち帰りではない。シエラの前でそんなことしないぞ!
そうしてやって来たのは貴族舎のラウンジの個室の一つだ。
ここなら完全防音なので聞かれたくない話にはうってつけだからだ。
到着すると、早々にタバサ先輩が上品に椅子に座り、続いて向かい側にシエラが、これまた上品に座る。上品率が高い!
俺も上品を意識したほうがいいのだろうか?
とりあえずシエラの横に普通に座った。
「それでタバサ先輩、教えてくれるかしら? 教えてくれないならこの前のように〈秩序風紀委員会〉に来てもらうことになるけれど」
「あの時は大変だったのよ、やめてもらえる?」
シエラから聞いた限り、むっちゃ抵抗していたらしいからな。
タバサ先輩は3年生。会うのは2回目だ。
1回目は家出少女でシエラに1日預かってもらい、翌日〈秩序風紀委員会〉に引き渡されたそうだ。
「返答次第よ?」
「わかったわ」
そういえば、1回目の時はギルドやめたいって家出しときながら結局どこのギルド所属とか聞いてなかったんだっけ。
このままだと本当にシエラはやると思われたのか今回は素直に頷くタバサ先輩。
「改めて、私は〈支援課3年1組〉タバサ、所属ギルドは……今はまだ〈テンプルセイバー〉よ」
「……〈テンプルセイバー〉」
ちょっとビックリする名前が出てきた。
なんだか最近縁が深いな。先ほどの縁は何かの手違いで絶たれてしまったが。
「そのギルドを辞めてきた、ということ?」
「今学園に申請しているところ。もうすぐ脱退できる、と思う」
「学園に援助を求めたの?」
シエラが驚いたように聞く。
ギルドの脱退というのは本来難しくない。普通なら1週間前くらいに脱退したい旨を告げ、引継ぎなんかをしてから、〈ギルド申請受付所〉でギルドマスターの承認を得た脱退の書類にサインを書けばいいだけだ。
抜けたいと叫ぶメンバーを無理矢理引き止めてもいいことにはならないため、普通は脱退を認めるギルドが大半だ。
しかし、ギルドマスターが
こういうときは色々やり方があるが、双方で話が纏まらなければ、最終的に学園に助けを求めることが出来る。そうなるとギルドの評価や名声はかなり落ちるし、学園側からギルドに指導も入る。場合によってはギルドマスターをチェンジするよう指導も入る。そのため、あまり使われない文字通りの最後の手段だ。今までお世話になった思い出深いギルドを突き落としたいなんて普通は思わないからな。
そこまでタバサ先輩が決断しているって、〈テンプルセイバー〉はマジ何をやらかしたんだ?
「噂には聞いていたけれど、やっぱり〈白の玉座〉を賭け物にされたのが原因かしら?」
「んん?」
「そう。それが一番の理由」
「どういうことだシエラ?」
「……私もあの後ある程度調べてみたのだけど、今ラナ殿下が使っている〈白の玉座〉、あれは元々タバサ先輩が使っていたものだったのよ」
「ええ?」
衝撃の事実発覚。〈白の玉座〉は元々タバサ先輩が使っていた装備だった?
俺は今度こそ本気でビックリした。
どうやらシエラはタバサ先輩のことを少し調べていたらしい。
あ~、え~? そんなことある!? そんな心境だ。
「そうなのかタバサ先輩!?」
「うん」
思わず聞いてしまったセリフに淡々と頷くタバサ先輩。
あ~、そりゃダメだわ。
家出少女になるのも分かる。
しかし、よりによって〈白の玉座〉の元持ち主か。こんな偶然あるのか。
あ~、なんだか色々繋がった気がしてきたぞ。
ということはあの果たし状の内容も見えてきた気がする。
ふむ、予想するなら〈決闘戦〉で再び〈白の玉座〉を賭けてほしい、ということだろう。
メリーナ先輩が売れない旨をいろんなギルドに出したとも言っていた。その一つが〈テンプルセイバー〉だったっぽいな。
まさか〈決闘戦〉を仕掛けてまで手に入れようとしてくるとは。
それ、結構最終手段だぞ?
メリーナ先輩から教えてもらった情報によると、〈白の玉座〉の価値は先のクラス対抗戦より天井知らずに高くなり続けているらしい。
等価交換やミールでの支払いがもはや難しいほどの額だそうだ。
どうしても、本当にどうしても欲しいと言うのならば〈決闘戦〉しかない。
ゲーム〈ダン活〉時代もあったのだ、〈決闘戦〉じゃないと手に入らない限定装備や限定アイテムが。難易度が上がるほどレートも上がって、報酬も良くなる。
ただ負ければ賭けたアイテムや装備がさよならになってしまうが。
その時はまたボス周回だな。涙なくしては語れない話だ。
しかし、そうなると賭けるものが問題だな。レートが釣り合わなければ〈決闘戦〉自体成立しないし。
これは俺が乗らなければ流れる話だ、ということは〈テンプルセイバー〉は俺が乗るほどのよほどの物を賭けてきたのだろうか? なんだか果たし状の内容がかなり気になってきたぞ。
「なるほど、事情は大体分かったわ」
そんなことを思い悩んでいるうちにタバサ先輩の話は終わっていたようで、シエラが難しい顔をしていた。
「それでタバサ先輩はなぜあんなところにいたのかしら? 目的は?」
「ゼフィルスさんに会えるかなって。一度会ったことのある場所だったし」
「今日は偶然、たまたまあの時間に通ったのよ。よくそんな方法で会えると思ったわね」
「私、昔からこういう偶然には強いほうなの」
偶然に強いとはなんだろう? そんな言葉が思い浮かんだがシエラとタバサ先輩の話に割り込まないよう口をつぐんだ。
シエラはなんだかこめかみを押さえてしまったが、大丈夫だろうか?
実際に会えているところがタバサ先輩のすごいところなのだろう。
「それで? 今日は明確にゼフィルスと会うために……、待っていたのはどういう理由なのかしら?」
偶然の出会いを「待っていた」と言うのに多少苦労したシエラがタバサ先輩の目的を再度問うた。
「うん。ゼフィルスさんにお願いがあります。どうか私をギルドに加入させてください。絶対に役に立ってみせます」
タバサ先輩はとても真剣で強い目をしてそう言った。
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