第609話 〈8組〉による包囲戦、そして最終局面へ。




〈8組〉による包囲。

 正面にはラクリッテとレグラムが前に出て防御。〈1組〉を誘い込み、左右から囲もうとする。


 この展開、前に出ているパメラとエステルが居る位置がポイント。

 メルトはゼフィルスの側でやり方を見てきたため、パメラとエステルが先行して切り込ませ、カルアを温存するのは想定内だった。

 そうしてその相手を【ショタヒーロー】と【雷狼】にさせつつ、徐々に後退。

〈8組〉のリーダーであるメルトの居る位置に近寄らせる。


 ここで〈1組〉がマスを越えてくると、まずはパメラとエステルとの合流をしてくるのは本能みたいなものだ。


 このタイミングでメルトはさらに指示を出し、【ショタヒーロー】と【雷狼】を下げつつ防御に秀でるラクリッテ、そして補佐としてレグラムを前に出し防御の陣形を執り、本命の左右の部隊から挟み撃ちで包囲した。


 しかし、これだけでは〈1組〉は崩れない。


「――『守陣形しゅじんけい四聖盾しせいたて』! ――『カバーシールド』!」


「なに! 盾が割り込んで、ぐあ!?」


「くっ、某の突撃が止められただと!」


 それはシエラの自在盾。味方をかばう四枚の盾により数人の突撃が止められ、さらにはその隙に反撃までされてしまう。


 それにそれだけでは無い。


「ならば大技ではどうだ! ――『上段の構え』! ――『一の太刀・木蓮』!」


「その攻撃は大振りすぎるな。――ユニークスキル発動『双・燕桜』!」


「ぐはぁ!?」


 リカも部隊を率いる【もののふ】を吹き飛ばし動揺を誘う。


「さすがの指揮だなメルト! だがそれで俺たちを止められないぜ! ――『聖剣』!」


「ああ!?」


 ゼフィルスも〈四ツリ〉スキル全開で突っ込んでくる。

 包囲を受けているはずなのに、〈1組〉の揺らぎは少なかった。


 だが、〈8組〉にとってここが勝負どころなのは間違いない。

 メルトは声を張り上げる。


「全員ユニークスキルを惜しまず使え! ここで全てを出しきるつもりで畳みかけるんだ!」


 その言葉に〈8組〉全員がユニークスキルを発動していく。

 それを見たゼフィルスはちょっと焦った表情を浮かべた。


「げっ、ユニークスキルの連打とか有りかよ! こっちも負けるな! 全員ユニークスキルで対抗だ! ユニークスキル発動――『勇気ブレイブハート』!」


 ゲーム〈ダン活〉時代、相手がユニークスキルを連打してくることや、ユニークスキルで一斉攻撃をしかけてくるなんてことはほとんど無かった。基本的にユニークスキルとは個人の必殺技だ。

 あくが強すぎてこういう集団同士での戦闘では同時・・に使うのは不向きだった。操作性的に、一斉攻撃なんてしても連携と陣形が崩れるだけ。キャラによって攻撃方法がまったく異なるため、操作しきれないのである。


 しかしここはリアル。同時攻撃ではなく各個人が最適な配置で使いタイミングは本人の判断で行なえる、操作性の問題がなくなるのだ。つまりリアルだと連携しつつ良い距離感で使うことができる。陣形も崩さずに使ってくる。しかも後先考えず温存せず使ってくる。何それ怖い。

 ゼフィルスもゲームでは味わえなかったユニークスキルの連打に、こちらも全力で返した。


 しかし、包囲されている状況からのユニークスキル打ち込みは思いのほか脅威だった。


「ユニークスキル――『アポカリプス』!」


「それだけは打ち落とすぜ! ユニークスキル――『勇者の剣ブレイブスラッシュ』! このタイミングだああ!!」


「アポカリプスを打ち払っただと!?」


 メルトのユニークスキルは非常に強力だ。故にゼフィルスが優先してたたき落として相殺する。マジか、剣でそんなことできるの!? と言わんばかりにメルトが驚愕の表情だ。


 しかし、その他はそう上手く相殺することはできなかった。


〈1組〉のユニークスキルと〈8組〉のユニークスキルがぶつかり合い、お互いに大きく被害を出す。


「む、無念なり~デース」


 まずパメラが退場。乱戦では回避特化のパメラでも多くを被弾することになり、装甲が低いために真っ先に退場していくことになった。


「あ、やば!?」


「サチー、後は任せたよー」


 続いて仲良し3人組の内2人、エミとユウカが退場してしまう。

 さらには。


「あそこだ! ミサトヒーラーを狙え狙え!」


「オーケー任せて! ユニークスキル――『雷の化身』!」


「合わせるよ! ユニークスキル――『ナンバーワン・ヒーローは僕だ』!」


「わわわ。ちょっと待ってよメルト様!? ユニークスキル『サンクチュアリ』! 『リフレクション』! 『ニードルバリア』! ってきゃああぁぁ!」


 そしてヒーラーのミサトも、なぜかヒーラーなためメルトに真っ先に狙われ、複数のユニークスキルに結界も破壊されて退場してしまう。

〈8組〉も【中佐】【もののふ】を含め7人の退場者を出した。しかし、その甲斐あり、なんと初の〈エデン〉メンバーからの退場者を出させる偉業をなした。会場は大盛り上がりだ。


 ゼフィルスは最後の最後で正面からの野戦で決着を決めようとしたのだ。

 会場の盛り上がりに満足そうにしていた。


 しかし、そこでゼフィルスは部隊に異変が起こっていることに気づく。

 回復が間に合っていないと。

 ヒーラーのミサトと、回復の出来るエミが退場したとはいえ、明らかに回復が来ていない。


〈1組〉には【大聖女】のラナがいる。ラナが居るのは初期に〈1組〉が居た位置。つまり2マス隣だ。少し距離が離れているとはいえ回復が全然追いついていない。


 ゼフィルスが後ろを振り返ると、2マス先ではラナが3人の何者かの攻撃にさらされているのが見えた。護衛のシズがラナを守るために奮闘していた。そのせいで回復が滞っていたらしい。


「伏兵か! メルトめ、思い切ったことをしたな!」


 伏兵に〈1組〉の回復の要であるラナを討ち取らせようとしたのだろう。しかしあの人材はどこから持って来たのか。ここにいるのは7人を討ち取られ残り6人になった〈8組〉。その人数は退場した人を引いても3人が抜ければさすがに分かる。つまりあの3人は〈8組〉の拠点を防衛していると思われていた者たちだ。

 ということは〈8組〉はクラスメイト全員をここに投入してきたのだ。


「メルト、俺が拠点に行かないと見て全員を投入してきたな!」


「これくらいしてでもラナ殿下を討ち取らなければ〈1組〉には勝てん! 拠点防衛に戦力を振るよりマシだ! どうせ攻め込まれたら負ける、ならば全力攻勢するまでだ!」


 メルトの気迫の返しにゼフィルスの頬が緩む。


〈1組〉の弱点ウィークポイントを、メルトは最高の形で突いてきたのだ。

 しかし、ラナとシズを舐めてもらっては困る。

 たとえ3人を相手にしたとしても、【大聖女】は伊達では無い。そう簡単にやられはしないぞ! すぐに援軍を指示する。


「エステル! ラナが襲われてるぞ、助けに行け!」


「!! ラナ様が!? すぐに参ります!」


「行かせないよ――『雷双閃らいそうせん』!」


「ここを通りたければヒーローである僕を倒していくがいい。――『ジャスティス・オブ・僕――」


「お退きなさい! ユニークスキル『姫騎士覚醒』! 『ドライブ全開』! 『ロングスラスト』! 『トリプルシュート』! 『ロングスラスト』! 『プレシャススラスト』! 『ロングスラスト』! 『トリプルシュート』! 『レギオンスラスト』!  『ロングスラスト』! 『プレシャススラスト』! 『閃光一閃突き』! 『戦槍せんそう乱舞』!」


「え? ちょ、ま、きゃああぁぁ!?」


「き、消え!? しょ、しょんなばきゃなぎゃあぁぁ!?」


「ラナ様ー今行きます! ――『オーバードライブ』! ラナ様―――」


 勇敢にもエステルの前に立ちはだかっ、いや立ちはだかろうとした【雷狼】と【ショタヒーロー】は、『姫騎士覚醒』からの『ドライブ全開』をキメたエステルの四方八方による滅多刺しにより瞬殺され、退場していった。2人で10秒だった。


 エステルはそのまま全力でラナの元へ向かって行く。ラナを襲った3人はどうなるのかは、定かでは無い。


「…………」


「…………」


 あまりのエステルの迫力に、ゼフィルスもメルトも無言となる。とりあえず、これでラナは助かるだろう。

 しかし、ゼフィルスもメルトに言っておかなければいけない事がある。


「メルト! 数々の作戦見事だったぞ」


「はぁ、その全ては打ち破られたけどな」


「まあ、それはしょうがない。だってレベルが違うし」


「そうだけどな、もう少し上手く出来そうな気はした。ゼフィルスよ、後で反省会に付き合ってくれ」


「おう、かまわないぜ」


 メルトはゼフィルスに杖を向けている。

 ゼフィルスの雑談に応えるということは、目的は時間稼ぎだろう。ユニークスキルのクールタイムが明ける時間を待っているのだ。


 最後まで戦い抜こうとする姿勢がゼフィルスは大好きだ。


 ユニークスキルの打ち合いから、大きなぶつかり合いを経て、〈8組〉はもう残り4人。

 メルト、ノエル、ラクリッテ、レグラムだけだ。他はやられてしまった。


 対する〈1組〉はさらに【シャドウ】の少女がやられて、ラナ、エステル、シズがいないので残り7人。いや、アランはなるべく服を脱ぐなと言われているため後方に下がってキレッキレのポーズで待機しているため。実質残り6人。

 ゼフィルス、シエラ、カルア、リカ、セレスタン、サチだけだ。


 野戦になれば〈1組〉が有利なのは明らかだったが、やはり明確な差が出た形だ。


「いや、割と快挙じゃないか? こっちは5人もやられたぞ」


「それはゼフィルスがまっすぐ突撃して来たからだろう。それでもこっちも9人、いや別動隊を含めれば12人やられた」


「エステルが向こうに合流したからな。『姫騎士覚醒』の効果は切れていたはずなんだが、人が吹っ飛んでるな」


 ラナの方を見ると、エステルとシズ、そして守られるはずのラナが〈8組〉の別動隊を相手に圧倒していた。すごいな。最後だからか全力全開を感じる。

 あのぶんならすぐに勝って終わるだろう。万が一ラナが退場することになったらエステルとシズが怖いのでどうか勝ってくださいと、ちょっとだけ願うゼフィルスだった。


「さて、そろそろクールタイムは終わったか?」


「……ああ。ここからが最後の勝負だ。ゼフィルスよ、付き合ってくれ」


「もちろん、望むところだ!」


 今一度、お互いの陣営に分かれて並び、最後のぶつかり合いが始まった。




 ―――――――――――

 後書き失礼いたします。

 長かった〈拠点落とし〉も明日で終わります!

 明日は最後の決戦です!

 その後は掲示板回にいく予定です!



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