第605話 メルトVSハク激突。原因はミサトにあり?




 少しだけ時間は巻き戻り、ここはフィールド北側、元第一要塞のやや東(図T-5)。

 全力で〈3組〉拠点へ向かっているメルトたちにも魔の手が忍び寄る。それに気がついたのは真ん中を走るメルトだった。


「む! 人影!」


「――『豪炎狐火』!」


 詠唱に反応し、メルトが即座に防御魔法を発動する。


「敵襲だ! ――『マジックシールド』!」


「きゃあぁあ!!」


 白に近い炎の爆発。

 ギリギリ防御魔法が間に合ったメルトだったが、全員をかばう事は出来ず、前を走っていた1人が吹っ飛んだ。


「あらあら、防がれてしもたなぁ」


「……〈百炎〉か」


「またおおたなぁ、メルトはん。ちょっと相手ぇしてくれへんかぁ?」


 そこに登場したのは〈3組〉がリーダー。

 LVカンストに届いていると囁かれる、このクラス対抗戦でも指折りの実力者。


 ――〈百炎のハク〉だった。


 全員が戦闘隊形に移る。

 相手は、たった一人だった。〈8組〉全員で相手をすれば倒せるだろうが。


 しかし、なぜかハクはただならぬ雰囲気を纏っていた。


「ああ。うちが用あるんはメルトはんだけなんやわぁ。悪いんやけど2人きりにしてくれはりますぅ?」


「何ですって!」


 ハクの言葉に今さっき吹っ飛ばされた女子がオコだった。

 当たり前だ。じゃあ自分は何のために吹っ飛んだのかとなる。


 しかしそれを抑えたのは、ご指名を受けた本人のメルトだ。

 メルトが手で軽く制するとクラスメイトを黙らせ、自分が前に出た。


 なぜここにハクが1人でいるのかは分からないが、ここで全員でぶつかれば少なくない被害が出るだろう。被害によっては〈3組〉拠点へ攻め込む戦力が足りなくなってしまう可能性があった。

『メルトが〈3組〉の攻略に失敗したら私が貰っちゃうんだからね!』メルトの脳裏にラナの言葉がぎる。


 だからこそ、ここでハクがメルトを指名というのは逆に好都合だった。


「ここは俺がやる。全員〈3組〉の拠点へ向かえ」


「む、むむむ~」


 女子は唸った。これでも〈8組〉のメンバーだ。メルトの話も分からないわけじゃない。

〈百炎のハク〉の噂は聞いている。この名前の由来となったユニークスキルのことを思えば自分たちがいるべきではなく、メルトに任せるべきだと分かるのだが、もう一声、納得できるものが欲しかった。


「悪いが、これは決定事項だ。『メガヒーリング』!」


 メルトはクラスメイトの女子に回復魔法を使って減ったHPを回復させる。

 それに唇を尖らせつつも女子は納得したようにそっぽを向いた。


「むう。分かったよ。みんな、行こう」


「そっちは任せたぞ。――さて〈百炎〉よ。俺たちが向かうのはあんたの拠点なんだが、追いかけては来ないんだな?」


「かまへんわ。ちょーっとメルトはんとお話したらすぐに追わせてもらいますさかいに」


「…………」


〈8組〉のメンバーがハクに確認するが、ハクは背後にゴゴゴゴォと何かが見える波動を発しながらメルトだけを見てそう答えた。


 なぜか目の敵にされているメルト。

 メルトには身に覚えがなかった。

 でも〈8組〉メンバーは何かを察した。


「えっと。じゃあメルト君、頑張ってね」


「生きて合流しろよ」


「女子の相手には注意しろよな」


「モテ男は辛いな~」


「メルト君モテモテだね~」


「……身に覚えがないんだが。というかお前たち後で覚えておけよ」


〈8組〉クラスメイトたちはメルトをからかうとすぐに〈3組〉拠点のある方向へ駆け出したのだった。



 ハクとメルトが睨み合う。いや、メルトの方はやや困惑気味だ。本当に身に覚えが無いのだ。〈8組〉全体の話なら、わからなくはないが、メルト個人となると分からない。


「一つ聞いてもいいか?」


「……どないしまひょなぁ?」


「いや、何か言いたいことがあるんじゃないか? 言ってみろ」


「ほう~?」


 メルトとしても一応理由は知っておきたかった。最初は〈3組〉クラスメイトの仇かと思ったが、それならば〈8組〉のメンバーを〈3組〉拠点に行かせるのはおかしい。

 なら、仲良さそうだったキールを退場させたことか、とも思ったがキールを倒したのはラクリッテとレグラムだ。メルトがこうも敵意を抱かれる理由ではない。


 そうなるとお手上げだ。

 さすがのメルトも、身に覚えの無い敵視を受けるのは嫌らしい。


 そして、その答えは意外すぎるものだった。


「ミサトはんや」


「……は?」


「ミサトはんがメルトはんをべた褒めしよってん」


「…………だから?」


「しかもや、メルトはんを未来のご主人様と抜かしおってんで! ご、ご主人様ってなんや!」


「…………」


 ハクの訴えにメルトの脳はどうやらエラーを吐いたらしい。


「(こいつ、ミサトに騙されてる)」


 メルトの思いはこの一言に尽きたのだった。



 処理が出来ず固まったメルトにハクはサイドステップをして場所を調整しつつ魔法を使う。


「メルトはん、うちとミサトはんのバトルお楽しみを奪うやなんて、許さんでぇ! 成敗してくれるわ! おいでやグラ! ――『グラ・シャ・フォックズ』!」


「身に覚えがないわ!! 俺がいつなんの邪魔をした!」


 メルトの抗議は聞こえない。

 発動したのは炎が具現化した、強力な巨大狐の突撃スキル。

 単純な炎だけでは無い。炎が具現化しているために威力は普通の魔法の比ではない。

 ユニークを除いて、ハクの最強攻撃魔法だった。

 体長10mを超えるそれが、やや空中から躍りかからんとする光景は、ダンジョンでボスモンスターに慣れているはずの学生すらもややビビる。対処するのに正常な判断を下しにくい圧力のある攻撃。


 しかし、処理落ちしていたメルトもさすがにこんな攻撃魔法を放たれれば再起動もする。


「砕け――『ホーリーブレイク』!」


 メルトが杖を向けると巨大な聖属性の光の光線が発射される。


 ぶつかる巨大狐と光の奔流。

 それは空中でせめぎ合ったかと思うと、徐々に巨大狐を呑み込んでいく。


「な、まさか!」


 その光景に余裕よゆう綽々しゃくしゃくだったハクの表情が驚愕に目を見開く。


「俺を舐めるな!」


 メルトのその声と同時に炎の巨大狐は聖属性の光に呑み込まれて消滅してしまう。


 本来ならハクの『グラ・シャ・フォックズ』は下級職の魔法の中でも最大級の威力を誇る。

 さらにハクのINT値も補正込みで900を超えるため並大抵の攻撃では相殺できない。魔法LVも当然10だ。

 しかしそれを、メルトは一発で相殺まで持っていった。


 これは相殺特化である『ブレイク』系の『ホーリーブレイク』の能力もあるが、メルトのINTもまた、〈エデン〉では補正込みでトップの数値を誇る。基本ステータスではシェリアに敵わないが、【賢者】にはステータスブースト系の『魔法力上昇LV10』がある。これで1.6倍の補正。

 さらに装備の補正値も加わりメルトのINT値は850を超える。


 さらにはパッシブスキルである『古式詠唱』も加わる。これは〈魔法〉の〈格〉を上げるパッシブスキルだ。

 例えば普通の〈スキル〉〈魔法〉よりユニークスキルの方が強い。攻撃同士が激突したとき、格の差で相殺にできず、ユニークスキルが勝ることが多い。


 また〈スキル〉〈魔法〉のLV・・も重要で、LVが上がるほど格も上がる。

 LV1の〈スキル〉ではLV10の〈スキル〉を相殺することが難しいのはそういうことだ。

 これがLV5とLV10なら割と相殺出来る。ゼフィルスが多くのスキルをLV5まで上げているのもまたそういうことだ。


 しかし、この『古式詠唱』はその格を上げてくれるため、相殺しやすい効果を持っていた。〈魔法〉の種類が多く、防御スキルは皆無で、ほとんどの〈魔法〉を使用可能アクティベートだけで済ます【賢者】には必須な相殺スキルだ。


 これにより、メルトはハクの最強攻撃を『ホーリーブレイクLV1』で相殺することに成功したのである。







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