第599話 第一要塞陥落。爆走する馬車に立ち向かう二盾。




 時間は少し巻き戻る。

〈サンダージャベリン号〉に乗り、フィールドのほぼ真北に位置する要所、東と西の交流を分断するように建てられていた第一要塞に攻め込もうとしているのは、エステル、ラナ、そしてメルトたち〈8組〉の8人だった。


 彼ら彼女たちの部隊は、手薄となった隙にこの第一要塞を打ち破り、そのまま〈12組〉の拠点を落とす作戦だ。


「見えてきました。要塞です」


 エステルの言葉に〈サンダージャベリン号〉の正面窓から覗き込むメルトたち〈8組〉。

 ちなみにラナはエステルの隣の助手席に座っている。


「むふふ、慌ててるわね!」


「さすがに〈馬車〉に乗って回り込んでくるなんて予想外だっただろうからな。要塞の人員は……二人しか見えないぞ?」


「時間の関係から見て伏兵の配置は不可能です。それで要塞にいるのは今見えている人員で全てだと思われます」


「……恐ろしいな」


 ラナが要塞の様子を簡潔に言い当て、メルトもそれに同意ながら単眼鏡で要塞の状況を確認したが、疑問を残し。エステルの無情な答えを受けてメルトが同情の視線を要塞へと送った。


「では手筈どおりに行きます。〈8組〉の皆様はご準備を」


「「「「「おー!!」」」」」


 エステルの、作戦準備の声に〈馬車〉内の〈8組〉がいい返事を返す。

 リーダーのメルトも負けじと指揮を取り始めるが、


「みんなドアの近くに集まれ! 〈馬車〉が要塞前にたどり着き減速したら飛び出すぞ! 出遅れるなよ!」


「メルトがな!」


「あはははは!」


 メルトの職業ジョブは完全な後衛の【賢者】だ。

 前衛陣がメルトをからかうと、メルトも反撃に出る。


「ほう? では活躍の場は要らないと? 全部俺が持っていってもいいのだぞ?」


「まあまあメルトちゃん、落ち着いて落ち着いて」


「誰がメルトちゃんだ!」


 メルトの身長はひゃくよんじゅう○○ぴーだ。

 おかげでメルトはクラスの女子から妙にからかわれている。小さな少年が精一杯背伸びしているように彼女たちには映るらしい。男としては微妙な意味でメルトはクラス女子から人気があった。


 しかし、そこにエステルの声が飛ぶ。


「メルト殿、そろそろです。準備はいいですか?」


「! あ、ああ、もちろんだ」


 女子にからかわれていたとはもちろん言えず、メルトはエステルに返す。

 これでも優勝候補の〈8組〉だ。その時になれば自然と動くことは出来る。

 メルトの返事どおり、すでに〈8組〉の準備は完了していた。


「では行きます。――『ドライブターン』!」


 エステルのスキルにより〈サンダージャベリン号〉がスピードを増し、強烈なターンをキメるようにして要塞からの攻撃を避けていく。〈バリスタ〉を撃たれたのだ。

〈サンダージャベリン号〉はエステルの装備品。命中すると全てエステルのHPが肩代わりするほか、足が止まったり大きなダメージを受けるとノックバックなんかもすることがあるので出来るだけ攻撃は避けるに限る。


「いいわよエステル! その調子よ!」


「ラナ様の応援があれば敵無しですね!」


 ラナの応援に気合いが入るエステル。

 多少掠る程度の被弾をしつつ、しかしエステルの〈サンダージャベリン号〉はあっという間に要塞の側まで接近したのだった。


 要塞の防衛担当は数が少なかったのもあるが、〈サンダージャベリン号〉の速さにまったく追いつけておらず、驚愕をあらわにする。


 しかし、驚愕するのはまだ早かった。

〈サンダージャベリン号〉が要塞に接触するくらい車体を近づけて減速すると、そのドアが突如として開き、メルト率いる〈8組〉が飛び出して要塞を攻撃し始めたからである。


「な、何あれー!!」


 要塞担当もこれには度肝を抜かれた。

 部隊の送迎。

 電撃戦とも呼ばれるそれは、1年生には未知の戦術過ぎた。


 エステルはメルトたちを送り届けると、要塞担当たちが〈馬車〉を攻撃するかメルトたちを攻撃するか迷っている間に素早く離脱する。


 そうして数マス、〈バリスタ〉でも届かない距離まで離れると停止し、ラナの出番だ。


 ―――遠距離支援回復攻撃。


 メルトたち〈8組〉だけでも手を焼いていた要塞担当たちは、この後に起こる上級職の猛威にさらされることとなり、


「行くわよー! ――『大聖光の四宝剣』!!」


「ちょ、何あれ何あれ何あれーー!?!?」


「ちゅどーん」という衝撃音と共に要塞は大ダメージを受ける。

 どうにかしたいがラナに手を出すすべも無く徐々に削られていき、頑張って奮闘していた要塞担当代表は退場。

 その後、ラナの支援回復を受けて勢いを増したメルトたちにより、第一要塞は落とされてしまう。


 そして再び〈サンダージャベリン号〉に乗り、消耗を回復しながら予定通り、そのまま〈12組〉拠点まで侵攻したのだった。



 ◇ ◇ ◇



 第一要塞陥落。

 そして〈12組〉拠点への電撃侵攻、予想していなければとてもでは無いが対応できるものではない。


 しかし、ドワーフたちによって要塞を強化しまくっていたのが功をそうし、二盾使いのトモヨは何とかエステルたちが来るほんの少し前に〈12組〉拠点へ辿り着こうとしていた。(図I-2)

 だが、そこへリーナの『ギルドコネクト』のお知らせが届き度肝を抜かれることになる。


「ええ!? もう第一要塞が突破されたの!?」


「『はい! すぐにでも〈12組〉拠点にやってきますわ! ラムダさんもゼフィルスさんと戦闘を始めました。なんとか持ちこたえてくださいまし!』」


「くぅ、やったるわー!!」


 トモヨは思わず叫んでいた。

 ここに残っていた戦力は第二要塞から全員を引き上げ、自分たちを合わせても8人。やっとエステルたちと同数である。


 後でラムダが到着する予定とはいえ、相手には上級職に加えリーダーメルトもいるらしい。果たして耐えられるのか、あの時は最善の選択肢を選んでラムダをかっこよく送り出したけど、心もとない戦力だった。しかもだ、


「来た! 〈ダンジョン馬車〉が来てるよーー!!」


「速いよ!?」


 一緒に来た斥候系の女子が1マス南へ偵察に行って(図I-3)、すぐに引き返してそう言った。


 トモヨたちがここに到着してから30秒も経過して無い。

 あまりにも速すぎる。まさにギリギリの到着だった。


 防衛モンスターの召喚はリーナの指示でバッチリ出来ている状態だが、もう敵は残り2マス、否、すぐそこまで迫っていた。第一要塞から〈12組〉拠点までなんて〈ダンジョン馬車〉ですぐだ。当然である。そして、とっても性急なことに、あの突撃してくる馬車を誰かが止めなくてはいけないようだ。


 トモヨが真っ先に前へ出る。


「わ、私が止めてくる!」


「と、トモヨー!?」


「みんなは私が〈ダンジョン馬車〉を止めたら攻撃して!」


 もう話している時間も惜しいとトモヨはこちらに向けて爆走する〈ダンジョン馬車〉に向かってダッシュした。


 もう、距離はほとんど無い。怖い。

 自分に向かって突撃してくる〈ダンジョン馬車〉は、むちゃくちゃ怖かった。


 だが、トモヨは気張る。


「ここで私が倒されたら、拠点が陥落しちゃう! そんなの絶対ダメだから、止まってーー!! ユニークスキル『大防御だいぼうぎょ』!!」


「行きます! ――『アクセルドライブ』!」


 トモヨが両手の盾を地面に突きたてて固定し、がっちり防御の構えで待ち受けた。

 エステルも『アクセルドライブ』を使い、突撃する構えを見せる。

 そして激突。


「ズザザザザァァーー」っと盾とトモヨが地面を滑る音が響いた。


 が、それもすぐに収まる。

 ――〈ダンジョン馬車〉が停止したことによって。




「まさか、〈サンダージャベリン号〉が止められるなんて!」


「やるわねあの子! すごいわ!」


 エステルが驚愕の声を出した。ラナも思わず賞賛する。

 そう、なんと『アクセルドライブ』中の〈サンダージャベリン号〉はトモヨによって止められていた。


 これはトモヨがユニークスキルを選択したためだ。ユニークスキルとただのLV1スキルの『アクセルドライブ』では格と威力が大きく異なる。

〈馬車〉装備とはあくまで送迎用。実は戦闘では、特にボスや対人ではダメージを与える事も出来なかったりする。人を撥ねることは出来るがダメージは皆無なのだ。人が轢かれると危険だからである。

 故に、こうして壁になられると止められることが度々あるのだ。


 トモヨは知らないことであったが、見事な選択と足止めだった。


 ゼフィルスがこれを見ていたら手放して喜んで拍手まで送っていたことだろう。


 トモヨの活躍により〈ダンジョン馬車〉の一撃は見事に止められていたのだから。



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