第594話 強敵〈百炎のハク〉とミサトの華麗な話術。
少し時間は巻き戻り、場所は変わって元第四要塞付近では、〈3組〉のハクVSラクリッテのぶつかり合いが起こっていた。
「受けてみなはれ――『炎の舞』!」
「ポ、ポン! ――『マジックワイパー』!」
「そないな盾で防ぎきれるものではないんよぉ、ほれほれぇ~」
「む、下がれ下がれ! 巻き込まれるぞ!」
踊るような炎の攻めにラクリッテの対魔法防御は完全に空ぶっていた。
ラクリッテの『マジックワイパー』は魔法攻撃逸らし。ワイパーのように左右に魔法を散らす防御魔法だ。しかし、散らされた魔法はまだハクの制御下にあったため、他の〈8組〉へと襲い掛かったのだ。
レグラムがしっかり指揮してやり過ごすが、〈3組〉を討つどころか近づくのにも難儀していた。
「み、みなさん! ご、ごめんなさい!」
「ラクリッテはんは対人経験が未熟やなぁ。うちらを倒したいんやろ? それでは力不足やわぁ」
「わ、私だって! 『カースフレイム』!」
「炎ではうちに勝てへん、『豪炎狐火』!」
「!! 『ギガントウォール』!」
ハクの挑発に唯一前に出れるラクリッテが反撃するが、ハクのより巨大な炎に飲み込まれてあっさりと消滅してしまう。それどころか炎の波がラクリッテごと仕留めようと襲ってきたのだ。ラクリッテはこれを巨大な盾を顕現させる『ギガントウォール』で防いだ。
「これはいかんな」
レグラムはこのままでは時間が掛かると飛び出すが、
「ハクさんの邪魔はさせないぜ!」
「そこでおとなしくしていろー!」
〈3組〉が飛び出してきて妨害してくる。しかし、
「そこを
「え? あぎゃっしゅ!?」
「え、強っ!?」
レグラムの神速の飛び込みからの一閃にあっけなく吹っ飛んだ。
「もうみなはん、相手は〈8組〉や! 生半可な連携ではすぐに吹き飛ばされんでぇ『炎の大蛇』!」
「ぐ、近づけないか!」
それを見かねたハクがラクリッテを無視してレグラムに炎の大蛇を向かわせる。
レグラムは斬っても切れない炎の蛇に引くしかない。
「あわわ、私を狙ってください!」
「素直すぎるわラクリッテはん! もう……、タンクを無視してアタッカー狙うのは対人戦の常識なんよ?」
「はう、むう。ポン! ――『ドローシールド』!」
「おや?」
レグラムを追い詰めようとする大蛇が突如として引っ張られたかとおもうと、ラクリッテの両手盾に吸い込まれるようにしてぶつかり、衝撃で四散してしまう。
「自分に引きつける防御スキルかぁ。いいもん持ってるやないの」
「むう、まだまだー!」
【ラクシル】は相手の攻撃を引き寄せるドロー系スキルを覚える。あの巨大狸『ミラージュ大狸様』もドロー系だ。それにより何とか大蛇を盾で粉砕することに成功するラクリッテ。
しかし、ハクは物足りない。どんどん手数を増やして〈8組〉へ範囲攻撃をお見舞いしていく。当然ラクリッテは無視だ。
ハクは対集団戦に強い【百炎狐】。相性の差で〈8組〉は完全に攻めあぐねていた。
「甘いわぁラクリッテはん、脇がガラ空きやでぇ。ミサトはんならこないな魔法も防いでくれるえ――!?」
翻弄するハク、しかしその瞬間『攻撃察知』が警報を鳴らしたことで飛び退いた。
「『セイントピラー』!!」
「おおっと? あ!」
見たことのある、地面からの光の柱の攻撃。
声の先を見るとハクが会いたかった、ミサトがそこにいた。
「私をご所望みたいだけど?」
「ミサトはん! うちに会いに来てくれはったんか!?」
「そんなわけないでしょ! もう、あなたの相手は私がするわ! 今度こそ倒すんだから覚悟してね! 『ホーリースパイク』!」
「くぅ、痺れるわぁ。それでこそミサトはんや! 『火炎の渦』!」
ミサトの聖属性攻撃魔法とハクの炎の渦が激突する。
「ミサトちゃん!?」
「ラクリッテちゃん、今のうちに他の〈3組〉をお願い!」
「うん!」
「『シックスフォックス』!」
「『バリアウォール』!」
続いての6体の炎の狐による攻撃を、ミサトが結界を横に広げて全てを防いでしまう。『バリアウォール』はある程度術者の意思で形を変えられるのだ。
盾では防ぎきれない炎の攻撃を、ミサトは容易く対処する。
さらには。
「『シャイニングブラスト』!」
反撃までしてくるのだ。
「こ、これや。これがうちの求めていた強敵、ミサトはんやぁ!」
もうハク大歓喜である。
ラクリッテは自分に攻撃を引きつける系タンクなためにかばう系が不得意な面があった。基本的に自分を中心に防御スキルを発動するからだ。だから自分以外が狙われると弱い。
しかし、ミサトは結界魔法なので広く防ぐことが可能だ。むしろ自分以外、周りを守ることに特化しているのが結界である。範囲攻撃を防ぐために相性が良く、ハクの興味を引きつけるのだ。
レグラムたちはミサトがハクを引き付けている間に〈3組〉を倒していく。
「くっ! 〈8組〉が強いぞ!?」
「さっきまで押されていたのに!?」
「別に〈3組〉に押されていたのではない。ハクの攻撃にやや下がっていたに過ぎない。『電光石火』! 『六耀斬』!」
「な、なんの! ぐはぁ!? いつの間に後ろに……」
レグラムが正面から切り込んだ、と見せかけて後ろに回りこみ、『六耀斬』を使って相手を六連切りして退場させる。
ハクさえいなければ〈3組〉のクラス平均LV、質は〈5組〉や〈8組〉よりもだいぶ低い。ハクだってミサトとの戦闘の合間に〈8組〉へ攻撃を仕掛けようとするが、その全てをミサトが結界で防いでしまう。
連合はというと、リーナとアケミたちががんばってはいるがシエラを抜けず、〈1組〉は〈3組〉方向へ向かわずに南へと緩やかに進路を変更していた。
もう少し〈3組〉を削れれば〈8組〉も〈1組〉と共に南へ付いていき、挟撃から抜け出すことができるだろう。
ミサトが応援に来てから戦況がスムーズに動いている。ミサトを送り込んだのはゼフィルスだ。さすがの人選だとレグラムは感服した。まあ、ゼフィルスがミサトを送り込んだ理由はそれだけでは無いのだが。
「いいぞ! 当初11人いた〈3組〉も今は7人しかいない! このまま削るのだ!」
レグラムはみんなを鼓舞する。〈8組〉も2人やられたが、数は逆転している。
ミサトとハクの戦闘は、激しさが増しまくり、なんだかあっち側だけ盛り上がりまくっていたが、その間に残りの〈3組〉は全滅の危機に瀕していた。
さらに、ここでハクの元にとんでもない報告が届く。というか情報源は目の前のミサトだった。
「ふふん! でも今回は私の勝ちかな!」
「何言うてん、まだまだこれからやわぁ」
「残念でした。あなたが続けたくてももう終わりだよ。〈3組〉拠点はメルト様が向かってるからね!」
これは半分ミサトのブラフだ。
メルトが〈サンダージャベリン号〉に乗り込み、フィールドをぐるりと迂回して向かったのは〈12組〉拠点だ。近くを通りかかるが〈3組〉拠点には向かわない。とはいえ「今のところは」という注釈が付く。
しかしだ。〈12組〉を落としたメルトの部隊が次に狙うのはどこになるのか。
〈51組〉にはすでにゼフィルスが手を出している。もし割り込もうとしたら逆にゼフィルスによってメルトがやられてしまうかもしれない。
故に、メルトたちは次の狙いに〈3組〉を選択するしかないわけだ。
メルトたちが侵攻してくるまで少し時間はあるが、余裕があるわけでもない。ハクたちは早く拠点に戻らないとどっち道退場してしまうだろう。
ミサトに告げられた情報にハクが目を見開いた。
「どうする? ここで相手をしてあげても良いけど、拠点が落とされちゃうよ? メルト様はとっても強いんだから。防衛モンスターも全部倒されちゃうよ」
ミサトの言葉に〈3組〉全体がざわざわする。
〈1組〉としてはここで〈3組〉にお帰りいただいてもいいわけだ。
〈3組〉がお帰りになると、連合は勝ち目が無くなる。
すると残るのは〈1組〉〈8組〉〈3組〉だ。
〈8組〉と〈3組〉が全力でぶつかるのは何の問題も無かった。
ミサトがここで〈8組〉を助けているのも共同戦線の内容が「連合を倒すまで」となっているからなだけで、連合が倒れた後の話はノータッチなのである。〈3組〉が連合に加わったかどうかは〈1組〉〈8組〉からしたら未確定情報なのだ。
ゼフィルスが連合を無視して〈51組〉に向かい、ミサトに〈3組〉リーダーの相手をさせた理由だった。
しかし、ハクにとってはとても看過できない内容で、感情が爆発した。
「み、ミサトはんはうちが嫌いなんか!?」
「へ?」
そして予想外な反応が返ってきた。
「また一緒に激しくバトルしようなぁて、約束したやんか!」
「そんな約束身に覚えが無いよ!?」
どうやらお互いの認識に齟齬がある模様だ。
「むう。それにさっきからメルト様、メルト様って、ミサトはんにとってメルトってのはなんなんや!」
「え? う~ん、未来のご主人様、的な?」
「ピキッ」
ミサトの答えにハクのこめかみがピキッときた。
「よお分かったわ。ほなそのメルトはんとやら、うちが倒してきたるわ」
「え? うん。頑張ってね?」
ミサトの応援を受けてハクはクラスメイトたちに向き直った。
「みんな、拠点へ戻るで。ええか?」
「ええ訳ないでしょう!? 連合との約束どうするんですか!?」
ハクが来た瞬間〈8組〉学生が飛び退いたため、〈3組〉メンバーは警戒しながらもハクと話が出来る余裕が生まれた。しかし、ハクの提案に度肝を抜かれる。
「〈3組〉拠点が落ちたらどっち道負けやん。自分の拠点が脅かされている時まで
「確かにそうですが、このまま我々が引きますと連合は確実に負けますよ」
「ならうちだけでも拠点に戻るわぁ。拠点を守れて連合にも筋を通せる。どや?」
「その場合、俺たちの
「ファイト?」
「うおっし、やったらぁぁぁ!」
「あんじょう気張りやぁ! 拠点はうちに任せときぃ!」
話は纏まったようだ。
どちらにしてもメルトの〈3組〉侵攻は食い止めなくてはいけない。
ハクは涙を呑んでミサト――、ではなくクラスメイトたちに別れを告げ、自分はメルトの迎撃に〈3組〉拠点へと急いだ。
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