第592話 追っ手のラムダ、戦力割り振りと希望と覚悟。




 ゼフィルスがした作戦は単純明快。

 この第四要塞、第三要塞がある箇所に戦力を集中させるよう決戦の地として振る舞い、リーナの手が回らないようにあちこちで戦端をめぐらせ、予備戦力も含めて全部がこの場所に集中したところで、回り込んだ別働隊、エステルの部隊が別の要塞(第一要塞)を食い破って拠点を落とすという囮作戦だった。


 単純だが非常に効果的であり、致命的になりうる一手だ。

 これに必要なのが、戦力を回り込ませるところをリーナに見せないこと。


 ここで初動の時に〈竜の箱庭〉マッピングからフィールドの南側半分を守りぬいたのが活きてくる。

 たとえシズとカルアの奇襲が失敗しても、〈天下一大星〉の囮が失敗しても問題はない。

 目的は〈竜の箱庭〉を少しの時間、そうマッピング圏外までラナ、エステル、メルトたちが消えるのがリーナにバレなければ良かったのだ。


 後はマッピング範囲外を通り、中央山を反時計回りに回り込んで第一要塞、〈12組〉拠点を狙う。するとリーナはこれが分かったところでどんな作戦を練っても間に合わない。

 いや、間に合っても詰む。そういう必殺の一手だった。


 さらに連合には悪いことに、まさかの〈天下一大星〉による大活躍で貴重な戦力8人と第四要塞を失ってしまったのだからゼフィルスがこの機を逃すはずも無く、リーナにはさらに苦しい戦力の分散を求めさせたのだった。


 現在〈1組〉〈8組〉は六つの部隊に分かれている。


 一つは〈1組〉主力。シエラを筆頭とし、ミサトと仲良し三人娘のサチ、エミ、ユウカ、そしてクラスメイト2人で計7人。リーナとアケミたちと戦うメンバーだ。


 一つは〈8組〉主力。レグラムを筆頭とし、ノエル、ラクリッテなど10人。〈3組〉と争っている。


 一つはエステルが馬車で率いているラナ、メルトを含む8人の精鋭。そして本命の作戦でもある。第一要塞を突破し、〈12組〉拠点を狙っている。


 一つはゼフィルス、リカ、パメラの部隊。

 少数での突破に加え〈51組〉の拠点を速やかに狙う。


 一つはカルア、シズの部隊。

〈5組〉拠点を狙い、スピードで翻弄。連合のかく乱を狙い、出来れば拠点も取りたい。


 最後は微笑みの筋肉部隊。

 第三要塞を攻めつつ陽動担当。第四要塞で力を見せ付けたことにより派手に警戒されているのがまた良し。第一要塞の防衛担当を釣ることに成功する。



 これにより、対〈1組〉〈8組〉用に戦力を固めておきたかった連合はやむを得ず主力を分けざるを得なくなった。


 リーナは『ギルドコネクト』ですぐに第二要塞の人員へ要塞を放棄して良いからと〈12組〉の拠点へと向かわせた。第一要塞も、防衛人数は援軍を出してしまったために残り2人しかいない。どう考えてもエステルたちの猛攻は止められないだろう。

 この2人にはどうにか頑張って時間を稼いでもらえるように指示。その間に連合からラムダたちを走らせた。



 ラムダはリーナに指示された後、すぐに部隊を纏め上げて進軍した。

 しかし、どう頑張っても数が足りない。数的有利は断念せざるを得ない状態だった。

 主力から連れて行けるのはせいぜい10人、ドワーフはその固さでリーナを守り抜くために残った。主力が壊滅なんてことが有れば本当に勝ち目が潰えるからだ。


 この精鋭10人を〈5組〉拠点、〈51組〉拠点、〈12組〉拠点に割り振らなくてはいけない。非常に難しい難題だった。

 ラムダは走りながらも考え、振り分けを悩んだ、しかし制限時間はすぐ目の前だ。

 もう〈5組〉の拠点が迫ってきている。すぐに決断しなければならない。


 将来的に見て、〈1組〉〈8組〉と戦うには四クラスの戦力が必要不可欠だ。どこも陥落させるわけにはいかない。

 ここでどこかのクラスを見捨てれば、巡り巡って戦力不足で負けることになるだろう。

 全部の拠点を守るために最適な配置はどの人数なのか、〈51組〉にはおそらく勇者が向かっている。出来れば〈51組〉へ多く戦力を送りたいところだった。


 しかし、万が一それで〈5組〉が落ちればラムダたちは退場してしまう。そうなれば〈51組〉はどっちみち退場だ。

 だが〈12組〉も疎かにはできない。今主力で戦っているアケミたちは〈12組〉リーダーだ。もし突然消えることになれば主力も消えかねない。しかも、今別働隊の上級職ラナとエステルが東から接近中だ。〈12組〉拠点には戦力を集めなければいけなかった。


 ラムダは悩む。とそこでトモヨがフォローするように言った。


「〈12組〉は私を入れて2人でいいよ」


「何? だがそれでは」


「ううん。〈12組〉は第二要塞からも援軍が受けられる。だから〈51組〉が終わったら、助けに来てよ、ラムダ」


「!!」


 ここでラムダは自分が勇者を倒せないかもしれないと、弱気になっていることに気が付いた。

 そうだ。勇者を打ち破り、〈51組〉を真っ先に開放してから〈12組〉へと自分たちが向かうのが理想だと、ラムダは目から鱗がこぼれる思いだった。


「あ、ああ! そうだな! 俺は上級職! 唯一勇者と戦える戦力だ。分かった、トモヨよ、少しの間〈12組〉を頼む! 絶対に勇者を倒して駆けつける!」


「あ、もし勇者君を捕縛できたら頂戴ね?」


「そんな余裕があるか!」


「あははは」


 トモヨのジョークに少し緊張した空気が薄れた。そのことにラムダは感謝する。別に倒さなくても捕縛する、動けなくする、などいろんな選択肢があるのだと思い出したのだ。

 改めて副官のハイウドに向く。


「ハイウド!」


「はっ!!」


「君は3人で〈5組〉拠点へ向かえ! 俺は5人で〈51組〉拠点へ向かい、勇者を倒した後〈12組〉へと応援へ向かう! トモヨは2人で〈12組〉にて時間を稼げ! みんな、この局面、なんとしても乗り切るぞ!」


「「「おお!」」」


 こうして連合がどう動くのかが決まり。ハイウドは〈5組〉拠点へと向かっていく。

 ラムダとトモヨたちは北へと進む。


 ゼフィルスたちのいる〈51組〉には、上級職に就くラムダが向かい、そこが片付いたら〈12組〉拠点を目指すこととなる。

 しかし、相手はあの勇者だ。ラムダも、ここが正念場だと分かっていた。

 引けない、負けられない戦いがすぐ目の前にある。MPハイポーションはもう残り2本しかない。しかし、節約して勝てる相手ではない。ここで使い切る!


 自分はSランクギルド〈キングアブソリュート〉に所属し、もうすぐ上級ダンジョンに踏み入れる。

 噂で聞くかぎり勇者と攻略階層はほぼ同格。


 勝つか負けるかは不明瞭だ。だが、自分も負けるわけには行かない。

 それにヘカテリーナの最後の切り札もある。勝てる可能性はある。


 ラムダは4人のメンバーを連れて、全力で〈51組〉の拠点へ走るのだった。


 ゼフィルスとラムダがぶつかるまでもう少し。



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