第513話 また妖怪か! まったく妖怪にも困ったものだ。
連携を試すつもりが蹂躙になってしまった。
いや、これは連携が十分出来てきている証、と考えよう。
決して〈ランク8〉のモンスターが弱すぎるというわけではないはずだ。まだ上層だけど。
しかし、思った以上に簡単に倒せたのも事実。
ラナが気が抜けたような感じで声をかけてきた。
「なんだか拍子抜けね」
「これでも結構強いんだぞ? 〈ブルオーク〉や〈ホブゴブリン〉のような一段階上の鬼人型モンスターって。俺たちの四段階目ツリーのスキルが強すぎるんだ」
何しろ上級職の高位職、高の中以上の五人パーティである。
下級職が基準の中級ダンジョンでは明らかにオーバースペックとしか言いようがない。
「最下層までこんな感じの強さなの?」
「それは違うぞ。10層ごとにモンスターはパワーアップしていくからな。とはいえ40層から50層クラスの敵でもこのパーティでは苦戦はしないかもしれないが」
中級ダンジョンは50層まである。10層ごとにモンスターの雰囲気は変わっていき、より強力に変化していく。30層からは〈
上級職の中位職クラスであればそれなりに苦戦するだろう。だがこのパーティだとなぁ……ちょっとどころじゃなく、豪華すぎるんだ。
何しろ〈ダン活〉でも上級部門・公式
「とりあえずみんな強いのがいけない!」
「そんな『いけない』、初めて聞いたわよ」
ラナがなかなか良いツッコミをくれて俺はご満悦になった。
俺たちは途中隠し部屋に寄ったりしながら少し遠回り気味でフィールドボスがいるであろうエリアまで向かう。
「ん。お宝発見!」
「カルアでかしたわ! 色は何!?」
「銀」
「〈銀箱〉!!」
途中の行き止まりでカルアがお宝を見つけたらしい。
俺がありそうなポイントをカルアに見に行ってもらった結果だ。ふふふ。
3箇所ハズレだったが4箇所目で当たりを見つけたらしい。
ラナのテンションがぎゅおいーんと上がったのが分かった。
俺もテンションが上がる。
「ん、あそこ」
「み、みんなで見に行きましょう。大丈夫、宝箱は逃げないわ!」
ラナがまるで自分に言い聞かすようにして先導して進む。
シエラもくすりと笑い、エステルはニコニコの笑顔だった。
カルアより先に出ちゃいかんだろうに道知らんだろうラナ。と思ったのだがしかし、先導するラナはまるで吸い寄せられるかのように宝箱のある行き止まりへと進んでいく。エスパーか?
「見つけたわ!」
とうとうラナが宝箱を発見する。
すげぇ。
いや、よし。さっさと開ける人を決めてしまおう!
「よし、開ける人を決めるぞ! 開けたい人は挙手!」
「「「はい!」」」
ラナが飛び付きそうな雰囲気だったので俺は恒例の『開けたい人は挙手』を実行した。
手を挙げたのは三人、ラナ、カルア、そして、俺だ。
相変わらずシエラはあまり興味なさそうで、エステルはラナが楽しめれば良いという考えのようだ。
「なんだか懐かしいわね。昔は今のカルアのポジションにハンナがいたのよ」
「だなぁ。カルアはナイス挙手。良い反応だったぜ。――ラナ、今回はカルアに開けさせたいと思うんだがいいか?」
「ん。いいの?」
「いいわよ。カルアが見つけてきたんだしね。でも隣で見させてね」
「ん。おけ。じゃあ早速」
ご機嫌なラナが一発でカルアが開けるのをOKした。
なんだか成長を感じる。昔は宝箱の取り合いだったからなぁ。
今も取り合いしていることと俺もそれに参加していることには目を背ける。
カルアが宝箱の前に膝を付くと、俺が右、ラナが左に陣取った。
シエラとエステルも興味はあるので、カルアの後ろの位置で見ている。
「ん、開ける。パカリ」
口でパカリ言っちゃうんだ!?
というツッコミはもちろん無しで、俺たちは開けられた宝箱にのみ集中した。
中に入っていたのは――。
「これは、薬ビン?」
「いっぱいある」
「〈回復薬の息吹〉かな。息吹系ってパッと見分かりづらいんだが、この霧吹きみたいな形状で緑色の薬ビンならHP回復だ」
〈銀箱〉の中には〈ハイポーション〉のさらに上位の〈回復薬の息吹〉が10本入っていた。
回復用アイテムだ。
「これは、結構いいものだぞ! 〈回復薬の息吹〉っていうのは味方パーティのHPを300回復してくれるすんばらしい効果がある。しかも使い方は、トリガーを引けばいいだけだ。飲む必要が無い。しかもかなり距離があっても回復してくれる」
「なるほど、それはいいものですね」
「離れたところから味方を回復できるのね。ヒーラーがいないときやクールタイムで回復が使えないとき、MP切れのとき、ヘイト調整で回復が使えないとき、使いどころはいくらでもあるわね」
今まで傍観していたエステルとシエラが俺の説明に反応していち早く話に加わってきた。なかなかいい食い付きだ。
しかし、カルアにはそのすごさが分からない様子だった。
「ん、これ、そんなにすごい?」
そんなカルアにエステルが説明役を買って出る。
「この〈回復薬の息吹〉はパーティ回復なのです。そのため回復量だけ言えば1500。この数値だけでも凄まじいですが、ポイントなのは飲まなくても良い。という点ですね。タンクや前線を支えるアタッカーが回復のために抜けてしまうと戦線が崩壊することがありますが、遠距離から回復できるのであれば戦線を維持できます」
「ゼフィルス、これの量産は出来ないの?」
「レシピが無いからなぁ」
この〈回復薬の息吹〉のレシピがゲットできるのは中級上位ダンジョンの最下層のボスからだ。
レシピが無いため、まだ量産は出来ない。
素材はこの〈鬼ダン〉でゲットできるんだけどな。
「そう」
「残念ですね」
俺の答えを聞いたシエラとエステルが残念がる。
「もう、大丈夫よ。こんなアイテムに頼らなくたって私がいるわ」
「そうですね。私たちにはラナ様がいます。これで安心です」
しかしラナの一言でエステルはすぐに復活した。
この〈回復薬の息吹〉は切り札として残しておこう。もしくはどっか欲しいギルドに売ってもいい。これは高く売れるからな。
宝箱タイムを終えて、俺たちはまたボスへ向かって道を戻った。
「でもなんで宝箱ってこう、行き止まりにあるのかしらね」
「そうですね。道の真ん中にでもあればありがたいのですが。なぜ
素朴な疑問とでも言うようにラナが不思議そうに言い、エステルも手を頬に当てて首を傾げた。
その答えは簡単だ。
「一説によれば妖怪が隠しているという話だな」
ゲームではあまりにお馴染みすぎて妖怪という認識すらされていないが、これも立派な妖怪の仕業だ。
――〈妖怪・あの宝箱が見つからない〉。
こいつが仕事をしていると言われている。
RPGなんかでは、プレイヤーから見えない隠しアイテム、画面上見えないけどその位置を探るとなんかアイテムを発見した。なんて現象が起こるが、それはこの妖怪がアイテムを見えないように隠しているからだと言われている。
「そうなの? まったく困った妖怪ね」
「まったくだ」
たまに隠し宝箱を見逃すことがあるからな。困った妖怪である。
そんな雑談をしながら一行は、ボスのいるエリアへと足を踏み入れていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます