第506話 少しずつ日は進む。もうすぐクラス対抗戦。




『にゃんにゃんにゃんにゃん!』


「反応が近いぞ! この近くにお宝が隠されているに違いない!」


 俺はトレジャーハンターになった気持ちでメンバー全員に通達する。

 しかし、その遊びも残念ながら終わりの時間が近づいていた。


「何やっているのよゼフィルス……」


ニャウジング〉で探索していたら呆れた声が届いた。

 正面にいるシエラから。


「お宝発見!」


「……ん、もう、誰がお宝よ」


 無事お宝を発見したぞ!

 俺たちトレジャーハンターは目的を達成したんだ!

 シエラが突然お宝認定されて少し照れた顔をしているが、その照れ顔こそがプライスレスお宝だ。なんちゃって。


「帰って来られましたね。さすがはゼフィルス殿です」


「便利なんですよ〈ニャウジング〉。後でエステルさんも使ってみてください。やり方は私でよければ教えますよ」


「はい。ハンナさん、よろしくお願いします」


 無事にさっきの場所に戻ってこられて安堵するエステルにハンナが〈ニャウジング〉をオススメしている。

 俺はさっきからにゃんにゃん反応している〈ニャウジング〉を停止し、ハンナに返しておいた。


 そこに敵を屠ったラナが合流する。


「ちょっと、エステル何よそれ! かっこいいじゃない!」


「どうでしょうラナ様、少し練習して戦闘でも支障なく活動できるようになったのですよ」


 ラナがエステルの自在に走行する〈足特装型〉を見て感激していた。予想通りだ。


「エステル、なら一緒に戦ってみましょうよ! もっとそれをよく見せて」


「もちろん構いません。行きましょう」


「あ、カルア、モンスター探知を頼める? やっぱりカルアがいないと見つけづらいのよ」


「ん。――『ソニャー』!」


「おーい、もうすぐで時間だから、ほどほどにな~」


「わかったわー」


 早速ラナがエステルとカルアを連れて狩りに出向こうとするので忠告をしておく。

 みんな楽しすぎてなかなか帰るに帰れないな。


 俺はその間ハンナと採取を楽しみつつ、シエラの盾についてアドバイスを送る。


 シエラはユニークスキル『多くを守りし四聖の自在盾』の効果で、普段の九つの装備枠とは別枠で小盾をさらに四つ装備することが出来る。


 装備の数値の反映は『多くを守りし四聖の自在盾』がLV10の時点で小盾の能力値の2分の1が加算されるため、小盾四つ装備しておけば小盾二つ分の防御力を得ることが可能な凄まじい能力だ。


 今は例の〈無限盾〉、では無く、〈白牙しろきばのカイトシールド〉に合わせて白をベースとした四つの小盾をシエラは左右の腰とももの後ろ辺りに装備していた。

 これが『四聖操盾しせいそうじゅん』時には空中に展開する。


 その時にどういうスキルのコンボがあり、どういう状況で有効なのか。またスキルを展開したとき盾がどんな動きをするのかも試しながらアドバイスしていった。

 シエラには当然のように「なんで知っているのかしら」的な視線で見られたが、「勇者だからな」と胸を張って乗り切った。



 そうしているとあっと言う間に時間は過ぎていき、もう本当に帰還の時間となってしまう。

 はしゃぎまくった上級職の練習もそろそろ終わりとし、今日はこれで引き上げることにした。


「? 来たときより人が多い気がするわね」


「だな。あ、あそこにもいるな。一応シエラとエステルの新装備は外しておこうか」


「はい。分かりました」


 帰り道、なぜか多くの人がダンジョンに挑んでいるのがちょっとだけ気になった。

 上級生の皆さん、あんなに必死になって、どうしたんだろうか?


 そんなことも思ったが、すぐに話題は上級職の新スキルのことなどに移り、明日はどんな練習をするかなど、話題は移っていったのだった。

 やっぱり放課後だけでは時間が全然足りないな。

 週末が楽しみだ!




 翌日からは通常授業だ。

 二学期となり、クラス替えにクラス対抗戦を控えた教室内は少し緊張感があった。主に男子。

 正直、〈エデン〉のメンバーはクラス替えをしても1組だろうなとは思っているため、みんなはいつもと変わりないけどな。



 この世界は実力主義という名のレベル主義。

 素行そこうに問題がないなら、基本的に高位職でレベルが高い者が上位の組に抜擢される。


 ちなみにサターンたち男子はレベルだけみれば一年生でも俺たちの次にトップクラスを爆走中。


 ――だった。


 しかし、夏休みという膨大な時間を彼らは活かすことが出来ず、レベルは50くらいに留まっている。


 まあ、例年のデータを見る限り一年生9月の時点でレベル50というのは相当高い数値ではあるのだが、悲しいかな今年の一年生は実力が例年とはまったく異なる。


 原因は高位職だ。

 現在、一年生の3分の1に近い数が高位職だ。組数で言えば〈戦闘課50組〉までが高位職、例年だと〈戦闘課7組〉くらいまでだったのが、今年は約7倍の数の高位職がいるのだ。


 高位職は強い。中位職や低位職と比べてダンジョンの難易度が段違いだ。

 故に、かなりのスピードで攻略することが出来、同時にレベルアップも捗る。

 サターンたち〈天下一大星〉のメンバーもそうやってガンガン前に出て強くなっていった。なお、筋肉さんたちは不明だ。(筋トレからは目を逸らして)


 そして夏休み、サターンたちが停滞している間に他の一年生高位職たちはもう、ガンガンレベルを上げた。例年にないスピードで。

 何しろ例年とは違い、高位職だけで結成されているパーティなども多いのだ。初級ダンジョンなんて楽々進めてしまうだろう。

 初級ダンジョンが終われば三段階目ツリーが開放されているだろうし、三段階目ツリーの〈スキル〉〈魔法〉が充実すれば中級下位チュカの攻略も容易い。


 おかげで今、二年生が悲鳴を上げているとマリー先輩がとても良い笑顔で教えてくれた。とても儲かっているご様子だ。俺も夏休みは儲けさせてもらった。


 長くなったが、つまり、すでにサターンたち〈天下一大星〉のアドバンテージはもはや無い。

 むしろLV50に達した一年生もそれなりにいるのだ。同じクラスのミューなんてLV62まで上げてきている。

 それを知ったときのサターンたちの顔は、ちょっと言葉では形容できない、なんかこう悲しみに包まれたような感じだった。頑張れとしか言えない。


 サターンたち〈天下一大星〉はさらに赤点と、過去に二度しょっ引かれた経緯がある。

 これで1組に残れるとしたら、レベルを上げ、『クラス替えの適性テスト』という名の臨時テストで高得点を取り、かつクラス対抗戦で活躍して優勝し、1組である事が問題無いと内外に示すくらいの成果が必要だった。


 1組に食らいつくため、今サターンたちは頭に鉢巻きを身につけ、メガネを掛けたガリ勉モードで猛勉強中である。…………誰だろうこいつら?



 俺たち〈エデン〉、そして〈アークアルカディア〉は特に問題は無いのでダンジョンでレベル上げをしつつ、とりあえずは来週のクラス対抗戦に備えるだけでいい。

 終わったらまたテスト対策もしないといけないな。


 目指せギルドメンバー全員1組!




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る