第489話 現在シエラの発現条件こなし中。




 もう夜もいい時間ではあるが、俺たちは貴族舎に来ていた。

 途中カルアは女子寮に帰らせた。

 話が難しかったのか、うつらうつらしていたからな。

 明日ちゃんと覚えているか心配だ。


 ハンナも今日は帰った。

 カルアを送り届けてくれるらしいので安心して見送った。


 そうして残った俺、シエラ、ラナ、エステルは、ここの寮住まいの学生たちがお茶会をするときなどに使うティールームというところに来ていた。

 本当はラウンジを使おうとしたのだが、夏休み最終日ということで親睦を再び温めあう学生たちが多いので空いていなかったのだ。


 ティールームはなんとか1箇所空いていたのでここを使わせてもらう。


「それで、これはなんなのかしら?」


「シエラが〈上級姫職〉になるのに必須なもの、だな!」


 現在、普段ならしゃれたティーなどが置かれるおしゃれなテーブルの上には、その場にそぐわない武骨な盾が四つ置いてあった。

 小さな木製の丸盾で、分類上は小盾になる。名前は〈無限盾〉だ。


 ちなみに小盾とは俺が装備している〈天空の盾〉などの小さな盾のことだ。

 シエラのカイトシールドは大盾に分類されるし、ラクリッテのタワーシールドは両手盾に分類されている。

 俺の【勇者】は盾は小盾までしか着けられない制限、というわけだ。

 当然小盾が最も弱く、両手盾が最も性能が良い。


 シエラがいぶかしげに一つを手に取る。

 ラナも同じような表情だ。エステルは困ったような顔である。

 なんでそんな顔なの?


「はあ。もうあなたの言うことに疑う気持ちも無いのだけど、本当になんで知っているのかしら、ね?」


 ジト目でばっちり俺を見つめるシエラ。これはなかなかのジト目だ!


「上級職の高位職の発現条件なんて王家でも掴んでいる数はとても少ないのですが……」


 片手を頬に添えて溜め息でも吐きそうな憂いを帯びた表情をするエステル。


 ふふふ、取りあえずその答えは決まっている。


「【勇者】だからな」


「はあ……。その返し、なんだか久しぶりね……」


「もうまったくゼフィルスは、仕方ないからそれで誤魔化されてあげるわ」


「…………」


 シエラは溜め息を吐き、ラナはなんだかツンデレ風味だった。


 エステルはとても詳しく聞きたそうにしていたが、結局呑み込んだようだ。


 三人とも例の上級職高位職の発現条件に集中する。


「それで、ねえゼフィルス。私は?」


「ラナは明日だな。今はそんなに時間ないし」


「えー、今日はシエラだけなの?」


「ま、そういうことになるな。悪いが、明日には教えるから我慢してくれ。今日はどんな感じなのかだけ見ていてくれ」


「むむ……」


「――ラナ様、ここでわがままを言わないのが良妻かと思います」


「そ、そう? え、エステルがそういうなら、これ以上何も言わないことにするわ」


 お、今日は大人しく引き下がるラナ。

 いつもなら「ちょっとくらいならいいじゃない!」くらい言いそうに思っていたのだが、ラナも成長しているな。

 なんだかエステルがこそこそ耳打ちしていたようだが、内緒話だろうか?


「それでゼフィルス、この盾をどうするの?」


 シエラが片手に持った丸盾をこちらに見せながら可愛く首を傾げるので、今はシエラの〈特殊条件〉のクリアに集中することにする。


「その〈無限盾〉には面白いスキルが備わっていてな。スキル名『全身装備可能(盾)』、どんな装備枠でも装備できる盾なんだ」


 つまりこの〈無限盾〉は頭装備でも、足装備でも、体装備だって好きな装備枠を使って装備することができる。

 頭装備に装備するとおでこに盾が付いて顔が見えなくなったり、体①と体②を両方使って装備すると、裸族の胸に2つの盾を着けた変態が出来上がったりする。


 ゲーム〈ダン活〉時代ある意味で有名な盾だった。

 昔〈ギルドハウススクショ観覧会〉でこの〈無限盾〉を全身に身に着けた50人の変態ギルドメンバーを撮ったスクショが優勝した事もあったのだ。

 もちろん非公式でだが。あれは面白かった。なぜか爆発と組み合わせてあって変態たちがそこら中に吹っ飛んでいた光景が〈ダン活〉プレイヤーたちのツボに直撃したのだ。

 そこから〈無限盾〉は一気に名前が知られることになった。


 まあ、性能は〈木箱〉産なのでとても弱いのだけどな。


 しかし、この〈無限盾〉には他にとても素晴らしい使い道がある。


「シエラはまず〈白牙しろきばのカイトシールド〉を装備してくれ。そしてこの〈無限盾〉を右手、腕、アクセ①、アクセ②に装備してほしい」


「いいけど……」


 シエラは少し訝しげにしながらも、俺の言うとおりに〈空間収納鞄アイテムバッグ〉から〈白牙しろきばのカイトシールド〉を取り出し、〈無限盾〉も身につけてくれた。


「ゼフィルス、ちょっとこれ変じゃないかしら?」


「え? そ、そんなことはないと思うぞ?」


 盾を5つ装備したシエラ。

 両手に一つずつ、右腕に腕枠を使って1つ。両肩にアクセ①アクセ②を使って2つ装備していた。

 ショルダーシールドとか、ちょっとカッコイイと思うよ。うん。


「エステル? なんで目を逸らすのかしら?」


「いえ。なんでもありませんよ?」


「ラナ殿下?」


「そ、その、うん。肩の部分とか、カッコイイと思う、わよ?」


「はあ。ありがとうございます」


 エステルは視線を逸らし、ラナは何とかフォローしたことで、シエラもため息を吐きつつまた俺のほうを向く。


「それでゼフィルス、これからどうすればいいのかしら?」


 言外に早くしてと言われている気がしたが、きっと気のせいだと思いたい。


「お、おう。ここからはいつも通りだ。その状態でモンスターを倒す。数は300体。スラリポマラソンだな。数が多いからエステル、ラナ、手伝ってくれ」


「かしこまりました」


「え? 私も?」


 ということで早速〈初級錬金セット〉を取り出し〈『錬金LV1』の腕輪〉を装備してスライムを量産しまくり、それを『モンスタースロー』の要領でシエラに投げまくった。

 シエラは跳んできたスライムを盾でポンポン軽く弾くだけだ。


 ラナにも投げてもらうと「これ、意外と面白いわね!」というお言葉をいただいた。楽しかったらしい。


 そうしているとすぐに作業が終わる。


「これ、なんだか懐かしいけれど……、本当にこんなのでいいのかしら? 上級職の高位職の条件、なのよね?」


「あ~分かるわっ。なんだかゼフィルスのやることって、ありがたみがなさ過ぎて不安になるのよねっ」


「ラナ様、そうはっきり申し上げないほうがよろしいかと」


「まったく、これは素晴らしく考え抜かれた最高効率の作業だっていうのに。とりあえず第一段階は終わりだな。今日はもう夜遅いし、明日この続きをやるぞ。そしてシエラは明日には〈上級転職ランクアップ〉だ」



ーーーーーーーーーーーー

ということで続きは明日。本日ここまで、明日も+3話!

新連載【ゲーム世界転生〈ダン活〉EX番外編~ハンナちゃんストーリー~】も

本日2話更新! よろしくお願いいたします!!

https://kakuyomu.jp/works/16816927859237911616

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