第484話 〈金箱〉周回! ニッコニコにしてやんよー!




「さあニーコ様の出番だー! 〈金箱〉を頼む! 俺たちを笑顔にしておくれー!」


「わははははー、任せたまえ、ニッコニコにしてやんよー!!」


 俺のキラキラした眼差しにニーコがノリノリで銃をぶっ放す。


 かっこよく決めポーズを取りながら、右手に持つハンドガンで〈キングダイナソー〉に通常攻撃を打ち込み、最後ほんの少しだけ残っていたHPを削り取った。


「ジュガ……ガ……」


 ニーコの止めの一撃によりHPが尽きた瞬間ピタリとその場で停止し、そのまま膨大なエフェクトを発生させて沈んで消える〈キングダイナソー〉。


 ちなみにニーコにトドメを刺させたのはニーコのスキル、『ラストアタックボーナス』を発動させるためだ。

 このスキルは文字通り、ボスのトドメをニーコが刺すと、ドロップに補正が掛かる。〈銀箱〉〈金箱〉がさらに出やすくなるのだ!!

 ニーコの『ラストアタックボーナス』はLV10、カンストだ。それはもう特大の補正が掛かるぜ。


 狙ってボーナスが増える系のスキルはマジで重宝するんだ。

 普通は『幸運』値を上げてあくまで確率で勝負だが、この『ラストアタックボーナス』は条件が限定されている分、条件をクリアした者への報酬は大幅に増える。


 今回の宝箱だって当然――、


「〈銀箱〉が2つだね……」


「もう一周行ってみよう~!」


 まあ、こういうこともある。

 一応〈銀箱〉もレアだし、普通は1つのところ、2つ宝箱がドロップしているので大きな当たりではあるのだが、残念ながら〈銀箱〉には〈上級転職チケット〉は入っていないのだ。


「ニーコ様、次こそニッコニコにしてください!」


「任せたまえ! しかし、様付けは遠慮するよ、なんだかシエラくんの視線が怖いからね」


 ニーコは普通の扱いが希望のようだ。

 チラリとシエラを見てみるが、俺には普通に見えるぞ? 気のせいじゃないか?


 とりあえず〈銀箱〉とドロップを全部回収してもう一周しよう。

 ふふふ、〈金箱〉よ、そんな逃げなくてもすぐに捕まえてあげるからな。




 その後もできるだけ〈キングダイナソー〉、通称〈ダイおう〉を弱らせてニーコに最後のとどめ役を頼み周回する。

 ニーコの『レアドロップ率上昇LV10』は〈銀箱〉以上のドロップ率を非常に高めるスキルだ。〈銀箱〉と〈金箱〉の出る確率が超が付くほど高くなり、そこに『ラストアタックボーナス』も加わって〈銀箱〉は5回に3回くらいは見るようになった。


 普通〈銀箱〉が出る確率って2割くらいなんだけど、今ではそれが超幅ちょうはばに上がり〈銀箱〉は6割を超える確率で出るのだ。すんげースキルである。さすが【コレクター】。ドロップに極振りだぜ!!

 もちろんこれは〈幸猫様〉、〈仔猫様〉、〈金猫の小判〉の効果も重複した結果の数値だ。つまり5回に1回くらいは〈金箱〉がドロップするようになっている。

〈金箱〉ドロップ率2割とか超ヤバい!


 おかげで先ほどから〈銀箱〉と〈金箱〉がウハウハだ。

 夏休み前はマリー先輩に在庫が空っぽになるくらい買い占められたからな。ふふふ、また売りに行こう。

 きっとお高く買い取ってくれるだろう。


 しかし、本命の〈上級転職チケット〉が出ない。

 やはり〈妖怪:後一個出ない〉に取り憑かれているようだ。

 くっ、なんてことだ。


 無欲、無欲になるんだ俺。心を落ち着かせ、〈金箱〉を開けばきっと妖怪もお仕事をしなくなるに違いない。

 俺は仏の精神で次にドロップした〈金箱〉を開いた。


「ダメだー。〈ダイナソーアックス〉とか斧使いいないー」


 またダメだった。

 今回〈金箱〉に入っていたのは両手斧、〈エデン〉に斧使いはいない。

 せっかく〈恐竜キラー〉が付いている武器だが、売るの決定だな。


 くっ、なぜだ。俺は仏の精神で宝箱を空けたというのに!(それが欲望ある者のセリフです)


「もう一つの宝箱はどうだった?」


 俺は二つドロップした〈金箱〉、そのもう一つを開けていたアイギスに聞く。


 なんだかアイギスが〈金箱〉を開いた状態で固まっているのだ。


「そのゼフィルスさん、〈上級転職チケット〉、来ちゃいました」


「ん~?」


 俺は諦めかけていた事もあって一瞬だけアイギスの言っている意味が分からず、ほんのちょっと首を捻り、そしてアイギスが宝箱の中身を取り出してチケットを広げるようにして見せてきたところでクワッと目を見開いた。


「来たかーー!」


「きゃー!」


「そうはさせないわ!」


 俺がアイギスに飛びつこうとしたところでそれを読んでいたかのようにシエラが盾を翳して割り込んできた。俺はシエラの盾に思いっきり激突する。


「アウチッ!」


「あなたがクルクルすることなんてお見通しよ。何度注意しても改めないのだからまったく」


 シエラの見事な盾捌きにより俺はその場でマットに沈む。

 いや、すぐにガバッと起き上がってシエラを見つめた。


「シエラよ、あんまりだぜ。俺のテンションを返せ」


「言いがかりだわ。ゼフィルスこそ今何をしようとしたのかしら? まさかアイギス先輩の腰に手を回し、強制ダンスをするつもりだったのではないかしら?」


「くっ……」


 全て読まれている。

 シエラのジト目が若干つり上がりつつあるように感じた。

 これ以上は不利か。

 くっ、まさか俺のクルクル踊りが封殺されるとは!

 俺は少し目を逸らし、冷静に見せかけながらそっと起き上がった。


「アイギス先輩も気をつけて。ゼフィルスはこう見えていきなり冷静さを欠く場合があるの。主に激レアドロップを手に入れた時とか。そうするといきなり抱きつかれ、強制的にダンスさせられるわ」


「えっと、私は別に構わないですけど」


「私たちが構いますので」


「あ、はい。了解しました」


「あれ? 同意があればやっても良いんじゃないか?」


「何か言ったかしらゼフィルス? そういえばアイギス先輩を呼び捨てにしているなんてずいぶん仲が良くなったのね?」


「お、おお……。夏休みに、な?」


 あれ? なんだか藪を突いてヘビを出してしまった光景を幻視してしまう。


 俺、なんかやっちゃった?


 なんだかさっきまで大人しかった『直感』が警報を鳴らし始めたんだけど。


 しかし、そこに救いの声が割って入る。


「じゃれあいはそこまでだ。続きは後でやってもいいだろう。まずはこの〈上級転職チケット〉の使い道を話し合うぞ」


 それは珍しく興奮しているように見えるメルトの声だった。

 そうだ。〈上級転職チケット〉が手に入ったんだ。

 これは非常に大きい。


 俺たちゲーマーは勝利した!

 ついに『妖怪・後一個足りない』は退治されたのだ!!




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