第482話 警報警報!〈妖怪・後一個足りない〉出没中!
現在〈エデン〉が確保している〈上級転職チケット〉の数を申し上げよう。
共通で持っている数は、3枚だ。
後、俺が個人的に隠し持っているのが1枚。これを知っているのはハンナだけだな。
〈エデン〉では、〈上級転職チケット〉はある程度数が集まる予定なので、順番に使っていこうという方針だった。当初は。
そのタイミング的にはカンスト時を予定していたのだが、あの時はDランクになったばかりに加え、目前に期末試験が控えていたためダンジョンにも潜ることができず使えなかったんだよなぁ。
もしあの時〈上級転職チケット〉を使っていたら、おそらくダンジョンにいけない鬱憤が爆発し、期末試験に集中できなかっただろう。もしかしたらメンバーの誰かがテストで悲惨な結果になっていたかも分からない。
そのため見送ったわけだが、その後も夏休みがネックになった。
帰省組がいたため、さすがに彼ら彼女らを無視してお先に〈
〈
げふんげふん、それは置いといてだ。
ゲームの時とは違い、ここはリアル。みんな心があるので蔑ろにはできない。しっかり筋を通す必要があった。
そのため、今まで先送りにしていたが、すでにメンバーは全員帰省から戻ってきているし、そろそろ頃合だろう。むしろ今まで我慢してもらっていて悪かった。
しかし、順番に、という方針ではあるが、ここ最近困ったことが発生していた。
恐れていた事態が起きていたのだ。
警報警報! 現在〈妖怪・後一個足りない〉、出没中!
ダンジョンは5人パーティが基本。
現在〈エデン〉と俺が持っている〈上級転職チケット〉の数は合計で4枚。
上級ダンジョンを攻略するにはパーティが全員上級職でなくてはならない。
故に後1枚足りないのだ。〈上級転職チケット〉が。
なんということだ。
これがあるからゲームというのは怖いのだ。
ゲームなどでは、本当に後1つで終わるのにそれがなかなか出ない、集まらない、という現象が、まるで都市伝説のごとき発生することがある。それも頻繁に。
これを俺たちゲーマーは、〈妖怪・後一個足りない〉の仕業だと言ってとても、とても恐れていたのだ。
もうガクブルである。
そうして現在、まさに俺たち〈エデン〉もその〈妖怪・後一個足りない〉に襲われている真っ最中である。
なんとこの夏休み、もう数え切れないほどダンジョンに潜り、そして周回に勤しんでレベル上げに勤しんだにも関わらず、〈上級転職チケット〉のドロップ数は、
―――ゼロ。
もう、意味がわからないよぅ、と言われても仕方が無いだろう。
実はこの夏休みで〈金箱〉自体はとても出た。もうかなりの数がドロップした。
こっちには我らが御神体〈幸猫様〉と〈仔猫様〉がおられ、さらに〈金猫の小判〉まであるのだ。そりゃ〈金箱〉は出る。
―――にも関わらずだ!
件の〈上級転職チケット〉は
これが妖怪の恐怖! 〈妖怪・後一個足りない〉の仕業である!
恐ろしい。
シエラもメルトも、ここ最近の〈上級転職チケット〉のドロップの悪さに焦燥感にも似た思いを感じていたに違いない。2人がそわそわしていたのはそういうことだ。故にオークションに釣られてこんなことを言い始めたのだろう。
しかしだ、我らゲーマーには対抗手段がある。
いや、これを対抗手段と言っていいのかは意見が分かれるであろうがとにかくだ。
その名も〈物量攻撃、妖怪は死ぬ〉、である。
要は「当たるまでやれば出る」!!
そういうことだ。
ゲーマーはときたまこんな格言を残したりする。
よく頭が悪いと言われるのが玉に瑕だけどな。
そしてその準備もようやく整ったのだ。
我が〈エデン〉の下部
故に、そんな高いお金を払ってオークションで競り落とさなくても、ダンジョンで周回していれば、「いつかは出るよ」、そういうことだ。
問題は2人にどうやって納得してもらうかだな。
「落ち着け2人とも、別にオークションに頼らずとも手に入るから。ニーコを連れてダンジョン周回をしたほうがいいと俺は考えるぞ」
「しかし、夏休みの結果を見ろゼフィルス。〈金箱〉ドロップ数、中級ダンジョンだけで68個。普通なら5枚以上の〈上級転職チケット〉がドロップしていてもおかしくはない。にもかかわらずゼロというのは異常だぞ。それに消費したミールはまた稼げばいい。俺はオークションに賛成する」
いつそんなデータをまとめたのか、メルトが夏休みに各メンバーがドロップした〈金箱〉の一覧を紙で見せてきた。あ、これはマリアがまとめたのか?
というか68でゼロとかマジで妖怪が怖い……。
「そうね。たまにこういうことが起こるというのは聞くわ。欲しい物ほど手に入らない、だったかしら? このまま〈上級転職チケット〉が手に入らなければ〈エデン〉の躍進も止まるわよ。私たちはすでに半数が
まあシエラの言い分も分からなくはない。
要は不安なのだ。ギルドが上に行くには上級職が必要不可欠、それなのにあれだけ〈金箱〉がドロップしたのにも関わらず〈上級転職チケット〉が出なかったという事実が2人を、いやギルド全体を不安にさせている。
もしかしたらこのまま一生ドロップしないのではないか? そう思ってしまっているのだ。ゲーマーもそれはよく思うことなのでとてもよく分かる。
その後もいくらか意見交換をしたが、やはり2人はオークション参加を賛成しているようだ。他のメンバーも心なしかソワソワしている。
うーむ、頭脳派2人が向こう側、というか俺1人が反対側というのが、ちょっと分が悪いな。
このまま周回を続ければ手に入ると思うんだが。
仕方ないな、ならば安心させるためにとっておきの切り札を出すか。ミール、QP、大事。稼ぐのだって時間が掛かるのだ。
時間は何より大事なのである。
「わかった。ならば交換条件をだそう」
「交換条件?」
「ああ」
メルトの聞き返しに頷きながら、俺は〈
それは、俺個人が所有する、みんなに隠していた〈上級転職チケット〉である。
それを見たメルトが驚愕に目を見開いた。
「な! それは!」
「もし1週間以内に〈上級転職チケット〉が手に入らなかったら、〈エデン〉にこれを提供しよう。オークションで手に入れるより安上がりだろ?」
〈上級転職チケット〉の規則は売買の禁止である。しかし聞くかぎり寄付や、無償でギルドメンバーへ使うのは禁止ではない。
「ちょっとゼフィルス、なんであなたがそれを持っているの?」
シエラは思いのほか驚いていない。しかしその代わり特大のジト目が来た。
やふー!
「前にちょっとな。これを提供してもいいから今回のオークションの参加は見送ってくれ、それならいいだろ?」
「……ふぅ。まったくあなたは……」
シエラはため息を吐いて首を振った。なんだか頭痛でもあるのか頭を押さえはじめたが、どうしたのだろうか?
「ふむ、オークションの物と合わせれば5枚になるが……」
「それなら俺からの提供は無しだな。これはさっき言ったとおり交換条件だ」
「そうだな。俺は構わないぞ。ゼフィルスからの提供なら確実に手に入るのだ。迷うことはない」
「了解したわ。どっちみち分の悪い参加だったのだもの、ゼフィルスの提案に甘えましょう」
「そうか! よかったぜ、じゃあ早速〈上級転職チケット〉集め
「……ふう、そう言われると思わずついて行ってしまいたくなるのがゼフィルスよね」
「今まで有言実行過ぎたのがな……。ゼフィルスの言うことだ、本当に一週間で〈上級転職チケット〉をドロップしそうで怖いな」
シエラとメルトが小声で呟いているが、全部聞こえているからな。
ふふふ、そんなに褒められると照れるぜ。
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