第478話 リーナも加わり、夏祭りトリプルデート?




 体育館に入ったところで出くわしたのは、友達と共に行動していたリーナだった。

 赤を基調として色々な花の絵が描かれている浴衣を着ている。縦ロールのリーナがそれを着ると高級感が半端ない感じがする。端的に言って、非常にグッド! かなり似合っていた。


 またリーナのほかに3人の女子がいて、なぜかビックリした様子でこちらを見つめている。


「きゃー! 〈エデン〉の男子メンバーよ!」


「あ、あなた落ち着きなさい、ご迷惑でしょう!? でもこれがイケメン揃いの〈エデン〉男子……」


「そ、そうよ! いくら本物を間近に見たからってちょ、ちょっと取り乱しすぎよ! 冷静に、冷静に……、握手してもらっても良いですか!?」


「……ふう。申し訳ありませんゼフィルスさん、この子たちも悪い子ではないのです。ただちょっとミーハーといいますか……」


 騒ぐ同行者にリーナがため息を吐いて謝ってきたが、別に問題は無い。


「いいや、少し驚いたが気にしてないさ。――な?」


「ああ。このギルドにいると注目されるのにも慣れる」


「俺は最初から気にしていない」


 俺、メルト、レグラムの順で答えるとリーナが安堵した表情だ。


「そう言っていただけると助かりますわ」


「ご、ごめんねリーナさん。少しテンション上がっちゃって……」


「もう、わたくしの大事な、その、ギルドメンバーなのですから、気をつけてください」


「てへっ」


 一瞬「大事な」の部分でこっちをチラッと見て、すぐに視線を戻して友達に注意するリーナ。


 とりあえず一段落した様子なのでリーナに彼女たちのことについて聞いてみる。


「リーナ、彼女たちは?」


「ええ、わたくしのクラスメイトの方々ですの。これでも高位職の〈転職〉先が見つかっている優秀な方々なんですのよ」


「……ほう?」


 そう言ってリーナが紹介してくれるのは〈戦闘課1年51組〉に在籍している子たちらしい。3人のうち2人はそれぞれ「騎士爵」「犬人」のカテゴリーを持っていた。

 もう1人は、パッと見ではカテゴリーが見当たらないな。分かりづらいのか、ノーカテゴリーなのか……。

 ふむ。いや、初対面でじろじろ見るのは失礼か。


 こほん。ともかくリーナはこの時間、クラスメイトと出店を回っていたようだ。


 こちらも、初対面であるレグラムの奥さん……、ではなく婚約者のオリヒメさんをリーナに紹介する。


 すると、何かに気がついたミーハー女子がリーナの肩をがっしり掴んだ。


「リーナさんちょっと来て! 至急!」


「へ? なんですの!?」


「いいから。――ごめんなさい勇者さんたち、ほんの少しだけリーナさん借ります、そこでほんの少しでいいので待っていてください」


 そう告げたかと思うと自分たちの輪の中にリーナを引き込んだ。

 内緒話をしている様子だ。

 その話し声はうっすらとしか聞こえない。


「――これは、トリプルデート――チャンス――」


「え! ですが――――いいので――――?」


「――構わないでしょ―――――ためだもん!」


「――応援――――!」


「――りがとう―――ますわ―――、わたくし行ってまいります」


「お~、がんばってリーナさん!」


 本当に少しの時間で内緒話は終わったようだ。

 なぜかミサトとオリヒメさんがにっこり笑顔を浮かべたまま俺のほうを見ているのが気になる。

 ミサトはともかくオリヒメさんはあの内緒話が聞こえたのだろうか?


「お、お待たせいたしましたわ。その、ゼフィルスさんさえよろしければ、ご一緒させていただけませんこと?」


「え? それは構わないが、でもいいのか? 友達と回ってたんだろ?」


「いいのいいの、リーナさん連れてってあげて~」


「リーナさん、ファイトですよ」


「応援しているからね!」


「と、そういうことですの」


 どういうことなの? と聞くのはなんだかいけない雰囲気だ。

 友達3人はなぜかリーナに手を振ってそのまま人ごみに消えたので、俺たちはリーナを加えて6人で行動することとなった。


「えーっと、じゃあよろしくなリーナ?」


「はい。よろしくお願いいたしますわ。ゼフィルスさんたちはどこを回ろうとしていたのですの?」


「とりあえず昼食も兼ねて食べ物系を中心に適当に見て回ろうと思っていたんだ」


「あ、もうお昼ですものね。でしたら評判の良い出店がありますわ」


「お、じゃあ最初はそこに行こうか?」


 先に体育館に来ていたリーナがオススメの出店を紹介してもらった、メルトたちに聞くと異論は無いとのことなのでそこに行くことに決まる。

 元々男の食べ歩きをしようと思っていたのだ。目に付いたものへガンガン行こうぜのプランだったので問題ない。


 そのまま食事をぱくつくコースへと向かうと思われた、が。


「いやぁ、男3人で回るはずだったのが飛び入りでミサトにオリヒメさんが加わって、なんとなく肩身が狭かったんだ。だからリーナが来てくれて少し助かった」


「それは良かったですわ。その、こう言っては友達に悪いのですが、わたくしも楽しませていただいていますわ」


「そう言ってもらえると俺も嬉しいな。少し悪いことしたかなと思っていたからな。……しかし、これはする必要あるのか?」


 俺の視線が自然と腕に向かう。


 現在俺はリーナをエスコートして体育館を歩いていた。

 男の腕に女性が手を添えているアレだ。

 そして、なぜかオリヒメさんとミサトも同じことをしている。オリヒメさんはもちろんレグラムに、そしてミサトはメルトに、だ。

 なお、これの発案者はオリヒメさんだった。


 俺の疑問にオリヒメさんがさも当然のように言う。


「夏祭りですもの、やはり女性は、素敵な殿方からエスコートされてみたいものなのです。人数も男女で半々なのですから、ちょうどよかったです。青春の1ページですよ。私だけがエスコートしていただくのも悪いですし、他の方の青春も味見してみたいですし」


 最後のが本音か?


「うーん、メルト様にエスコートされるのって新鮮! いいね、こういうの」


「ミサトはちょっと目を離すとちょろちょろいなくなるからな。確かにちょうどいいかもしれんな」


「もう、メルト様ってば本当は嬉しいくせに、素直じゃないんだから~」


 メルトとミサトは仲良さげだな。

 何気にメルトのエスコートに違和感が無い。

 レグラムも慣れた様子でオリヒメさんをエスコートしていた。オリヒメさんの方も慣れた様子だ。くっ、二人共イケメン度が高いな!


 ならば、俺も遅れるわけにはいかない! 気合いを入れてエスコートしよう!

 ちょっとドギマギする気持ちを全力で抑えて平常心へと持っていき、リーナをエスコートする。

 男は平常心だ。右往左往してはいけない。特に女性と一緒のときは!

 エスコートとか初めての体験だが、そんな弁明は全力で呑み込んだ。


 なんか本当にデートっぽくなってきた気がする。これは気のせいなのだろうか?

 と、そこでちょっとしたトラブルが発生する。


「――あっ!」


 躓いたリーナがバランスを崩したのだ。

 瞬間、俺の『直感』と『超反応』が発動。『超反応』の効果で体が勝手に最適な危機への対処に動く。

 俺はクルリと振り向き体ごとリーナの前に出て、倒れ込むリーナをぽふんと受け止めたのだった。しかも、なぜか両手がリーナを抱きしめるように背中に回しているおまけ付きで。


「……何この『超反応』やばい。――それはそうとリーナ、大丈夫か?」


「は、はい! ありがとう、ございます、わ……」


【勇者】の『超反応』の効果が勇者すぎる件!!


 浴衣も汚さずに済んだのは喜ばしいことだと思う。

 しかし、なんだか支えた拍子にリーナを抱きしめるみたいな構図になってしまったのはいかがなものだろうか?

 リーナが俺の胸にすっぽり入ったまま、俺の顔を見上げて真っ赤になっている。お礼の言葉も尻すぼみになって消えるほどだ。――か、可愛い。平常心が今にも崩れそうになる……。


 しかし、それを見ていたオリヒメさんの次の言葉になんとか平常心を保つことに成功する。


「まあ。おほほほ、リーナさん大胆ですね。レグラム様、あれ、私にもやってくださいませんこと?」


「……後でな」


「もう、そこはいつもみたいにかっこよく、『任せるがいい』と言ってほしかったですよ」


「時と場合にもよるだろう、今は人が多い。見ろゼフィルスたちを、周りからとんでもなく注目されている」


「見せ付ける意味もあるのですよ? 私、レグラム様を誰にも渡したくないんです」


「それを言われると弱いが……」


 俺たちのトラブルが引き金になってなぜかオリヒメさんとレグラムがいちゃついていた。


 なんだろうこの雰囲気。

 案外悪くないんだよなぁ。

 これがオリヒメさんの言う青春?


「あ、あの、その、これは…………」


 腕の中で大人しくなってしまったリーナ。

 なんだかとても新鮮な経験だった。



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