第470話 幽霊船で肝試しができるのはファンタジーだけ。




 日も暮れ、辺り一面が真っ暗になり、照明だけが砂浜を照らす。

 時は満ちた。これから夏恒例の肝試しを始めよう!


 みんなには装備に着替えてきてもらった。

 もちろん俺もいつもの〈天空シリーズ〉に着替えている。


「みんな注目! これから〈夜のモンスターハント〉を開催する!」


 イベント名〈夜のモンスターハント〉、隠された別名〈肝試し〉。


 ここ、〈海ダン〉では夏の夜の間だけとある船が登場する。


「この場所から出て南へ数分歩いたところに巨大な船が停泊している。そこにいるモンスターをハントし、ドロップアイテムを集めつつ、船の中にある宝をゲットするのが目的だ」


 まあ、夜の海にモンスターの出る船と聞けばお察しだろう。

 この船は、幽霊船ゴーストシップだ。

 なぜか〈海ダン〉では夏の夜になると全階層で幽霊船が現れるのだ。日が昇ると消えるので完全夜限定だな。


 また、この幽霊船の中には必ず宝箱がある、この宝箱は結構特殊で、もしゲットしても翌日には別の宝箱になって復活している不思議宝箱だ。もちろん毎日宝箱の内容も変わるし、宝箱のレア度も変わるのがおもしろい。


 夏の夜限定のお宝フィーバータイムだ。


「また夜で暗いので、全員にこの〈光源ランプ〉を支給する。それとメンバーだが、ゲーム性を優先して少人数での行動、そして宝箱獲得競争をするぞ。船には大体3個~5個くらいの宝箱があるから、チームは七つくらいに分けようか。宝箱をゲットして戻ってきたチームには豪華景品だ!」


「宝箱ね! 楽しみねハンナ」


「はい!」


 宝箱好きのラナとハンナの笑顔が眩しい。

 それに比べシエラは少し不安そうだ。


「ねえ、ゼフィルス。その〈夜のモンスターハント〉の敵ってもしかして……」


 気づいたかシエラ。

 多分〈海ダン〉に来るときに出現モンスターの予習でもしていたのだろう。

 俺はドキドキしながらネタバラしする。


「モンスターは幽霊ゴーストやスケルトンが多いな。ちなみに船は幽霊船だ」


「…………」


「あ!? 待ってシエラ、首をガクガクしないで!?」


 シエラが無言で俺の首あたりを捕まえてガクガク揺さぶり始めた。

 け、結構力が強いぞ!?

 誰か助けて!?


「えっと、ゼフィルス君が悪いと思うな」


「自業自得よ」


 ハンナが助けてくれなくて辛い。あとラナも。


「シエラ、落ち着け!? 悪かったって、でもほら幽霊に慣れるために頑張るって前言ってただろ!?」


「む……」


 ピタッとシエラが止まる。

 なんだかほっぺが膨れているような気がしなくもないとても可愛い目で凝視される。そのまま数秒ほど無音の時間が続き。


「今回だけだから」


 なんとか首から手は離れていった。

 許されたのか? いや、後で改めてちゃんとお詫びしといたほうがいい気がする。

 俺は固く心に誓った。


 また、スケルトンに幽霊船と聞いて怖がっていたのは少数派だった。

 シエラの他にはあとニーコとアルルも苦手なようだ。


「勇者君、ぼくは海の疲れが体をむしばみ、これ以上は進めないようだ。ここで待機しているよ」


「せ、せやな! うちも生産職やし、待ってた方がええ気がするわ!」


「あ、ニーコは行くの決定だから。宝箱の出現やドロップに補正が掛かるし」


「そ、そんなー」


 俺の宣言にニーコが情けない言葉を吐く。


 そうなるとアルルは1人で留守番となるが、1人は怖かったのかやっぱり付いていくと意見を覆していた。


 そうして全員で目的地へ出発することになる。

 もうここには戻って来ない予定なので〈照明ライト〉やその他全てを回収し、ランタン型アイテムの〈光源ランプ〉の明かりを点けて移動を開始。


 数分で到着した。


「ここ、さっきまで船なんか無かったのに……」


 そこに出現した、打ち上げられた大きなボロボロのガレオン船を前にシエラが微妙に声を震わせていた。

 ガレオン船だけではなく、さっきまでは無かったはずのボロボロの停泊所も不気味さを演出している。


「ボロボロですね。いかにも幽霊が出そうです」


「ひっ! あ、あまりビビらせないでくれたまえ」


 エステルの感想にニーコもビビる。どうやらニーコは結構な怖がりだったらしい。

 アルルもハンナにピトッとくっついていた。


「は、ハンナはんはよく平気やなぁ。怖くないん?」


「えっと、はい。あれより怖い体験をしたら怖くなくなってしまったんです」


「あれより怖い体験って、ハンナはんは意外に場数踏んどるんやな……」


 それ前も言っていたが、ただスライムに襲われただけ、なんだけどな……。

 しかし、今のアルルにはとても頼れる感じに見えるらしい。

 ハンナも照れつつもまんざらでもないようだった。


 ここからは恒例のくじ引きによりチームを決める。


 七チームなのでバランスが偏るのは避けたい。

 現在26人いるので、基本3人の戦闘チームだな。

 非戦闘職のアルル、マリア、メリーナ先輩、カイリ、ニーコはそれぞれどこかのチームに入ってもらうことになる。

 え? ハンナは非戦闘職じゃないのかって? ハンナは戦力だぞ? あれ?

 ……まあいい。


 とりあえずレベルの高い人と、低い人が一緒になる形にチームを組むくじをそれぞれ作る。

 アタッカーなどのポジションはあまり気にしない。

 ここは上層だし、スケルトンはあまり強くないからな。

 カンストメンバーが1人でもいれば無双できるのだ。

 そのため各チームには必ずカンストメンバーを1人は入れる感じにしたが他は適当だ。


「よし、じゃあ各チーム順番に乗り込むぞ! 制限時間は20時30分までの約1時間、では、肝……じゃなかった、〈夜のモンスターハント〉、開始! Aチームいってらっしゃーい」


 各チームにAチームからGチームまでを命名し、Aチームから順番に幽霊船に突入してもらう。


 Aチームが一番戦闘が多くなるが、その分長く探索可能という感じにバランスをとった。

 ちなみに俺は最後、Gチームだ。戦闘は少ないが、その分探索時間も短い。

 メンバーは俺、シエラ、サチ、ニーコの4人。

 少し怖がっているシエラとニーコがいたので探索時間の短いGチームにしてもらった次第だ。


 早速Aチームの、ラナ、パメラ、ノエル、カイリの4人が入ったところで悲鳴が聞こえてきた。


「のわー、なんでスライムがいるデース!? 踏んでしまったのデース」


「きゃー、幽霊船怖いですよー」


 うむ、何やら満喫している様子だ。パメラのあとに聞こえてきたやや棒読みな声はノエルのものだろう。

 あの子、意外とノリが良いんだよな。意外でもない?


 まあ、Aチームには【聖女】のラナがいるからな。幽霊とスケルトンの天敵だ。問題は欠片もありはしないだろう。【シーカー】のカイリもいるしな。


 だからBチームのエステルよ、そんな眼で俺を見つめないでくれ。

 これはゲーム、もとい肝試しなんだから追いかけたりしちゃダメだぞ?


 またニーコとアルルよ……、なんかノエルの声にビビっているが、あれはオバケ屋敷できゃーきゃー言って楽しむのと同じものなので本当に怖がっている訳ではないぞ?

 一応フォローしておく。


 そんな感じに次々と幽霊船にメンバーを送り出していった。


 全員を送り出し終わり、ようやく俺たちも突入する番が回ってくる。




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