第463話 〈海ダン〉到着。目的地はプライベートビーチ!




「ここが、海!」


「すっごくキレイなのです!」


魚材ぎょざいの海辺ダンジョン〉、通称〈海ダン〉の門を潜った瞬間、目の前に広がる砂浜と海という景色にラナとルルのテンションがマックスになる。


 もちろんそれは他のメンバーたちも同じだ。


「はぁ~、キレイなところ~」


「水が澄んでいますね。それに遮蔽物も無くとても開けていて、このような景色は初めて見ます」


 ハンナが感嘆とした声を出し、エステルが護衛騎士としての視点から景色を評価していた。


「本当に湖じゃないんだー。果てが見えない~」


「でっかい水溜りデスね!? 大きすぎるデスよ!」


 ミサトとパメラは海の大きさに驚いているようだ。

 まあ、海を初めて見たらそういう反応だよな。


 また、この海はモンスターを発見しやすくするためか、はたまた泳ぐために適した水質の仕様にするためなのか、水は非常に澄んでいて透明度が高い。

 キレイなブルーをしていて思わず飛び込んで泳いで遊びたい! と思わせる海だ。

 それにダンジョンなためか、島の入り江的な秘境を思わせる雰囲気がとても良い感じだ。

 ロマンをくすぐる光景だった。


 一通り全員が感動にひたり終わったところで俺たち男子、メルトとセレスタンが先導し、目的地まで連れて行く。

 ……あれ? 今気が付いたが男3人だけ? 少ないなぁ。レグラムが帰ってきてくれていればなぁ。

 まあ、こればっかりは仕方ないか。


 そんなことを思っていると何か違和感。

 …………? なんか忘れているような? 気のせいか?


「ねえゼフィルス早く行きましょう。待ちきれないわ!」


 しかし、そんな違和感もラナや他の女子たちからの催促の前に儚く霧散した。


「おう、そうだな。こっちだ。少し歩くぞ。第2層に良い感じの救済場所セーフティエリアがあるんだ。隠し通路から行ける場所だから人がいない、完全にプライベートビーチだぞ」


「それは楽しみね」


「他の人にあの姿を見られるのは、ちょっと恥ずかしかったから、安心したよ」


 俺の言葉にシエラとハンナから喜色が浮かぶ。


 ふっふっふ。

 俺に抜かりはない。


 そうして第2層に降りて周りを警戒しつつ、少し距離のある切り立った崖に向かう。

 ここに隠し部屋があるんだ。


 この先には隠された入り江、ビーチがあり、中には宝箱が設置されているために隠し部屋の1つとも言える、屋外だから部屋じゃないけど。


 そして隠し部屋という空間は、実はモンスターがポップしないのだ。

 故に救済場所セーフティエリアの一種という捉え方ができるのである。


 それに加えここはなんと入り江で、ビーチなのだ。

 もう利用する手しかないだろう。

 外側からは切り立った崖に囲まれて見えないので女子たちも安心。見えていたら宝箱が外から発見されてしまうための処置だろうが、それが良い方に働いてくれていた。


 しかも隠し部屋なので鍵で開けるタイプの扉だ、閉めてしまえば外から開けるには〈隠し扉の万能鍵(銀)〉を使わないと入れない。(中から開けるのは自由)

 ここの宝箱は誰も開けていなかったので、この空間はまだ未発見のはずだ。

 安心して楽しめるだろう。


「さて、ご案内だ。カイリ、リーナ、周囲に敵及び他に人はいるか?」


「『索敵』! 『人間探査』! こっちは反応無しだね」


「『モンスターウォッチング』! 『人間観察』! 『観測の目』! こっちも同じですわ。人はまったくいません。モンスターもかなり距離がありますわ」


「了解だ。セレスタン、扉を開けてくれ」


「かしこまりました」


 カイリとリーナに周囲に人が隠れて見ていないかを入念にチェックしてもらう。

 目撃者がいるとこのビーチがプライベートじゃなくなってしまうからな。

 周囲に人がいないと分かったのでセレスタンに指示を出す。〈隠し扉の万能鍵(銀)〉を使い外壁に隠されていた鍵穴に差し込んで回すと外壁の一部がスライドする形で洞窟が現れた。この向こうが入り江である。


 うむ、ラナたちがワクワクしているのが分かるぞ。


「ここから先はモンスターはいないし、どうぞ好きに探索してくれ。気が済んだら集まってくれよ」


「分かったわ! みんな、私に続きなさい!」


 ラナが先導して洞窟の向こうへ進むと、女子はきゃっきゃとはしゃぎながら急ぎ足で付いていく。

 俺も行くか。と思ったところで取り残されている女子に気が付いて足を止める。


「あれ? ニーコ、付いていかなくていいのか?」


「いやはや、ぼくは運動が苦手でね。海については興味は尽きないが、ただの研究者のぼくでは彼女たちに付いて行くのは厳しいのだよ。体力的に」


「何を年寄りくさいことを。一緒にダンジョンに潜っているのだから余裕だろ?」


「気分の問題だよ。さすがに泳ぐとなると体力を残しておかないと。帰りがとても不安だよぼくは」


「ま、動けなくなった時は〈馬車〉にでも積んで運ぶさ」


「そうか、そうだね、その手があったか。その時は頼らせてもらおう」


 ニーコが掌の上にポンッと手を打った。

 これで帰りも安心だろう。


「ああ、それと勇者君、一つ忠告だ。無いとは思うが、君は女子が水着を着てきたらちゃんと褒めることを忘れないようにするんだよ? 君に見せたくて水着を選んだ子も多いんだからね」


「お、おう。わかった。考えとく」


「よし。頼んだよ。ではぼくたちも行くとしよう」


「ああ。じゃ、扉閉めるな」


 ニーコの憂いが消えたようでとりあえず何よりだ。なんか釘を刺されてしまったが……、気をつけるようにしないと。


 俺はスライドドアを閉めるようにして扉を閉めると、ニーコと共に入り江へと向かった。

 すでにセレスタンとメルトは先に行って準備を始めているみたいだ。

 さて、俺も参加しないとな。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る