第440話 ギルドマスターとサブマスターを決めよう。
〈アークアルカディア〉から〈エデン〉への昇格試験が終了した。
今回アイギス先輩を初めとした4人が〈エデン〉に加わる。
それはいい。それはいいのだが、ちょっと困った問題が浮上した。
「ギルドマスターとサブマスターを決めなくちゃいけないが……、誰にするべきか……」
「優秀な人材を引き抜くとこういうことがあるよね」
俺の呟きに相槌を打つのはミサトだ。
現在、昇格試験が終わった翌日木曜日、午前中の授業合間の休み時間だ。
悩んでいるのは〈アークアルカディア〉のギルマスとサブマス問題。
〈アークアルカディア〉もEランクになったので、本来ならば1週間後の期限までにサブマスターを決めて〈ギルド申請受付所〉に申請しなければならない。
しかしだ、今回ギルドマスターを務めてくれていたアイギス先輩を〈エデン〉に引き抜いてしまったのでギルドマスターとサブマスターの両方が不足する事態となってしまっている。
「新しい募集はかけられないのか? 前に最終面接まで残った人たちとか」
「時期が悪いんだよね。夏休みが目前だから、今から募集かけて採用しても向こうの脱退手続きが難航するんだよ。フリーの人でも余っていれば別だろうけど、ギルマス、サブマスが務められる人材が野放しになっているなんてあり得ないしね」
「そうだよなぁ」
「募集をするにしろ、今はどこも帰省とか夏休みのための準備で忙しいし、というか明後日から夏休みだし、とても前みたいに何日もかけて面接している時間も無いしね。募集はやっぱり夏休み明けに大々的にする方が良いかも。〈エデン〉がCランクに昇格していれば知名度が上がってなお良しだね」
なるほどと、ミサトの説明に納得する。さすがプロフェッショナルスカウトマンのミサトだ。
しかし、となると現在いる〈アークアルカディア〉からギルドマスター、サブマスターを暫定的にでも決めておく形になるのか。
〈アークアルカディア〉の業務を任せられる人材は、いるかね?
仲良し三人娘は良くも悪くも並寄りだ。上に立ってあれこれ指示する姿は、ちょっと思い浮かべられない。
カイリは真面目だが、今は少し自分の能力に自信が持てていない。
例のギルドバトルでもあまり活躍できなかったし、ダンジョンでも罠が設置されている中級ダンジョンまでまだ行っていないため自分の能力を活かす場がないのだ。
もう少し育成して中級行って活躍させれば自信も持てるだろうが、今は難しいだろう。
アルルもリーダー向きではない。
彼女は生産専門って感じだ。最近はレベルが上がって〈二ツリ〉が解放されたため、凄く生産に熱中している。ハンナの時を思わせるな。
それにアルル自身、誰かの弟子というか、未熟という意識がある。マリー先輩のところとか他の鍛冶職人ギルドにも入り浸っていたそうだからな。
本人が親方を務められる腕になるまでは上に立つ事なんてできない、といった感覚のようだ。
それに、俺も彼女には鍛冶に集中してもらいたいという思いもある。
リアルな世界では生産に時間が掛かるからな。ハンナは大量生産にパラメーター振りまくっているから別だが、アルルは剣一本仕上げるにもそれなりに時間が掛かる。
最後に残ったニーコだが、彼女は【コレクター】に就いている研究者だ。
そのことから分かるように深い知識を持っている。ギルドの運営をするうえで様々な仕事もこなせるだろう。
指示だしもできなくはない。しかしあくまで研究者なので、ギルドマスターという感じではないが。
でもなー……、今のメンバーの中では一番ギルドマスターの仕事ができる気がする。
「できる人と言えば、ニーコちゃんくらい?」
「うーむ、放課後、ちょっと聞いてみるか」
消去法というか、他にできる人も居ないので放課後ニーコにやってもらえるか打診することに決まった。
そして放課後、昨日与えられた〈アークアルカディア〉のEランクギルド部屋で、何やらアイテムに〈解るクン〉を
「うむ。予想は付いていたよ。だが、ぼくでは少し力不足は否めない。サブマスターくらいなら担ってもいいけど、ギルドマスターは柄じゃないさ。研究もしたいしね」
「そうだよなぁ。誰か優秀なギルドマスターを加えればサブマスターを任せられるか?」
「そうだね。それなら引き受けるよ」
「よし、分かった。多分ニーコにはサブマスターを任せると思う。明日申請すると思うから準備しておいてくれるか? 具体的にはアイギス先輩から引き継ぎを頼む」
「アイアイサー」
ニーコが右手をおでこに当てて敬礼のポーズで了承する。なかなか、様になったポーズだった。
ということでサブマスターはニーコに決まった。
あとは〈アークアルカディア〉のギルドマスターだけだ。
その場は解散し、俺は〈エデン〉のギルド部屋に向かった。
一緒に付いてきていたミサトが俺を覗き込むように聞いてくる。
「ゼフィルス君、当てはあるの?」
「そうだなぁ。……外からいきなり着任させてギルドマスターにする案は難しい。なら、内部から決めるしか無いと思うんだ」
「え? それって、〈エデン〉の誰かを〈アークアルカディア〉に降格させるって事!」
「降格というか派遣だな、〈アークアルカディア〉を任せる感覚だ、下部とはいえギルドマスターを務めるんだからそれほど悪くはないだろう?
親ギルドが下部を管理するために人材を派遣する話は珍しくない。
たしか〈ホワイトセイバー〉の大男ダイアスも元々は〈テンプルセイバー〉にいたのだが、優秀だったから今は〈ホワイトセイバー〉のギルドマスターを任されていると聞いた。
下部とは言えギルドマスターを務めた実績があり、優秀な結果を残していれば普通に学園には評価されるからな。
外の企業やら団体やらはギルドバトルくらいしか学生の成果を見る機会が無いが、その分ちゃんと学園は学生を気にかけてくれる。
「うーん。でもやってくれる人居るかな? 私は遠慮したい」
「そこは聞いてみないと分からんな。誰か引き受けてくれる人が居ればいいんだが」
そんなことを話し合っていたが、割りとあっさり見つかった。
「では僕が引き受けましょう」
「やってくれるのかセレスタン!」
「はい。今後のメンバー募集などは〈アークアルカディア〉がメインになるとのこと、人材をこの目で確かめるためにもちょうどよいと判断しました。それに〈助っ人〉も来ていただけるのであれば僕も手が空きます」
名乗りを上げてくれたのはセレスタンだった。
条件付きで〈アークアルカディア〉のギルドマスターに就任してもいいと言ってくれたのだ。
「その条件は?」
「いえ、難しいことではありません。僕に引き続き〈エデン〉でも活動する許可をいただければと思います」
「え、そんなんでいいのか?」
びっくりした。
どうやらセレスタン、〈エデン〉の管理業務と〈アークアルカディア〉のギルドマスターを兼業する気らしい。
「だがそれって大丈夫なのか? オーバーワークじゃないか?」
「執事ですから」
執事……、執事ってすげぇな!
しかし、詳しく聞いてみると大体の〈エデン〉の作業はシズに引き継ぐらしい。
今後、経理なんかを任せる
「だが、それなら〈エデン〉に来る意味あまりなくないか?」
「これは個人的な仕事に関わることですから」
「あ~、なるほど?」
前々からやっていたセレスタンの仕事ってやつか。
例の王様から派遣されてきたってやつな。
しかし、逆に考えれば王様から派遣されてきたのにもかかわらず移籍が可能ということなのだから、……まあいいのか?
これ以上
ということで〈エデン〉から〈アークアルカディア〉にセレスタンを派遣することに決まり、
〈エデン〉は合計18人。
〈アークアルカディア〉は合計7人になった。
翌日金曜日には〈アークアルカディア〉への移籍手続きと、ギルドマスターセレスタン、サブマスターニーコ、で登録をして、なんとか夏休み前に全ての作業を終えることができたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます