第438話 まずはEランク試験の結果発表からいくぞ!
勝った!
後半はちょっと大人気なく本気を出してしまったかもしれないが、試験官として問題ない範囲で勝ちにいけたと思う。
いやぁ、〈アークアルカディア〉のメンバー強かったわ。
後で聞いてみたら、なんと全員が〈エデン〉のギルドバトルには毎回見学に来ていたらしい。
どおりで戦法が似ているはずである。
あと、馬はやっぱり良いな。
アイギス先輩はダンディ君を操ることで攻撃力と素早さが大きく上昇していた。
騎乗系でツーマンセルを組み合わせたい!
ああ、馬にも拘りたいな。最上級ダンジョンにいる最速の馬モンスターを早くゲットしたい。
いや、それだと逆に追いつける人がいなくなってつまらないか。
うむむ、難しい塩梅だな。他のギルドさんたちも早く上級行ってくれないかね?
「ゼフィルス、ほらボーっとしてないの。しっかりなさい」
「お? おお」
そんなことを考えているとシエラから注意されてしまった。気がつけば観客席で見ていた〈エデン〉と〈アークアルカディア〉のメンバー全員がフィールドに降りてきていた。
中央に立ってお互い礼をして「お疲れ様でした」を言い合い、ラダベナ先生とムカイ先生から結果発表を受け取る。
「ギルド〈アークアルカディア〉の諸君。君たちは正々堂々と戦い、格上のギルド〈エデン〉に対し有利に事を運んだ。その実力は、Fランクギルドの能力を超えていると判断し、ここにギルド〈アークアルカディア〉のEランク昇格を認めることとする。おめでとう」
ラダベナ先生の発表にメンバーたちが沸いた。
無事、〈アークアルカディア〉がEランク昇格試験に受かったのだ。沸かないはずが無い。
ラダベナ先生はその様子をにこやかに見つめ、ある程度落ち着くのを待ってから声を掛ける。
「ほら、代表者は前へ出な。渡すものがあるよ」
「は、はい! 〈戦闘課2年31組〉アイギスが〈アークアルカディア〉の代表として受け取らせていただきます!」
「ふふ、微笑ましいね。じゃ、こいつを〈ギルド申請受付所〉に持っていきな。それで〈アークアルカディア〉はEランクギルドだ」
「あ、ありがとうございます!」
緊張しているアイギス先輩がラダベナ先生からくるくる巻いた書類を受け取る。
あれを〈ギルド申請受付所〉に持っていけばEランク証が貰えるだろう。
「続いて〈エデン〉。まあ試験官としては少しハードだった気もするが、それでも良い感じに相手の勝ち筋を残していることが高評価だ。〈三ツリ〉も使わなかったようだしね。それでよくあの状態から逆転できたものだと思うよ。腕は確かなようだという確認も取れた。機会があればDランク試験官に選ぶこともあるだろうね」
「おお! ありがとうございます!」
「「「「ありがとうございます!」」」」
「ふふ、その調子で頑張るんだよ」
そう言うとラダベナ先生とムカイ先生はアリーナの建物に向かって行った。
閉場の作業があるのだろう。もうすぐ夜だしな。
俺たちも足早にアリーナから退場し、その足で〈アークアルカディア〉は〈ギルド申請受付所〉へ行き、無事Eランクギルドになった。
そうなれば次に来るのはお祭りだ!
毎度恒例の祝賀会にしゃれ込むさ!
〈エデン〉はそのままギルド部屋に戻って祝賀会の準備。
〈アークアルカディア〉は新しい部屋への引越し作業をし、ある程度片付いてから〈エデン〉ギルド部屋へ集合した。
今回もビュッフェ方式で楽しんでもらう。
ちなみにこの料理たちはいつも通り、前もって料理専門ギルド〈味とバフの深みを求めて〉に依頼しておいたものだ。
なんだか、ギルドバトルをする前に料理の依頼をするのが当たり前になってきたな。これがリアルか!
「うわぁ。毎度思うけどすごいご馳走!」
「はぁ、美味しそう。目移りしちゃう。あ、これ前回もあった美味しいやつだよ」
「これは、前回食べられなかったんだ。私はこちらをいただこうかな」
仲良し三人娘が目をキラキラさせて我先にと料理をよそい、他のメンバーたちもそれに続く。
今回の料理たちは前回好評だったものが半分。残り半分は新しい料理だ。
毎度同じだったら飽きがくるからな。でも美味しかった料理がなくなるのはいただけない。
その辺はちゃんと考えてリクエストしている。
みんなも好きな料理と飲み物を貰ってきて、揃って座ったところで乾杯する。
「みんなお疲れ様だ。そして〈アークアルカディア〉のみんなおめでとう! 素晴らしいギルドバトルだった。あれで全員がLVが伴い、ギルドバトルの経験も積んでいたら俺たちも危なかったぞ。〈アークアルカディア〉の健闘と昇格を祝い、ここに祝賀会を行なう! 乾杯!」
「「「「かんぱーい」」」」
うむうむ、みんないい声出てるね!
思う存分料理を味わって楽しんでほしい。材料はまだまだ山ほどあるんだ!
さて、俺も〈幸猫様〉と〈仔猫様〉にスペシャル肉料理をお供えしなければ。
はっ! 〈幸猫様〉が神棚にいない!? どこだ!?
すぐ見つかった。
「そこだー!!」
「な、何よゼフィルス、ビックリするじゃない!?」
「ビックリするじゃない。じゃない! また〈幸猫様〉を攫ったな!?」
「攫うだなんて人聞きが悪いわ! 〈幸猫様〉が私の膝の上を所望しているのよ」
〈幸猫様〉を持っていったのは案の定ラナだった。
ラナめ、虚偽を吐いたな? 〈幸猫様〉がそんなことを言うわけが……。
おかしいな、〈幸猫様〉がとても健やかな顔をしておられる気がする。気のせいか?
神棚よりもラナの膝の上の方がいいとおっしゃるんですか〈幸猫様〉!?
まあ気のせいだろう。
しかし、ラナは一度膝の上に乗せたが最後、絶対に〈幸猫様〉を離さない。
く、仕方ない。御神体が〈仔猫様〉だけになってしまった神棚にお供え物を置いておこう。おお、なんて寂しい神棚か、〈幸猫様〉がいないだけでなんだか寂れた感覚すら覚える気がする。
まあ気のせいだろう。〈仔猫様〉だけでも可愛いし。
前回同様みんなの席に順に回り、意見交換や先ほどのギルドバトルの反省点などを話していく。
特にアイギス先輩は2年生らしくギルドバトルの経験と知識もそれなりに持っているため話が弾んだ。
「ふう、ゼフィルスさん、先ほどの巨城ちょい残しです。あれはどのように防げばよかったのでしょう。対人戦ができないときはあれをやられると圧倒的に不利だと思いました」
「そうだな。俺だったらちょい残し返しをしていたな。小城Pで勝っていたんだから〈東巨城〉をひっくり返せればそっちが勝てていただろ?」
「な、なるほど! 我々はゼフィルスさんを真似て〈東巨城〉をちょい残しすればよかったのですね。防ぐより攻め返す、目には目を、ですか。盲点でした」
「まあ、そうさせないよう早いうちにリカを援軍に置いたり、シエラとミサトに東側を中心に活動させたりして牽制していたんだけどな」
「ダメじゃないですか!?」
「しかしそっちは8人いたんだぜ? 上手くリカたちを抑えられればいけるだろ? 最後俺たちが駆けつけたときには〈東巨城〉のHPを30%も削っていたじゃないか。レグラムたちがリカの相手をしている隙に巨城を削ればいけたはずだぜ」
「そ、そうですね。う~、反省点が多いです」
アイギス先輩が頭を抱える。
大人っぽいアイギス先輩がそれをすると中々にギャップがあるな。
端的に言えばちょっと萌える。
「そ、その、ゼフィルスさん? もしよろしければギルドバトルについて、わ、私にご教授いただけないでしょうか? い、今の私ではとても知識が足りないと思うのです」
なんだか早口になったアイギス先輩が若干上目遣いで頼んでくる。
もちろん。俺の答えは決まっていた。
「おう、任せとけ。元よりサブメンバー全員に教えるつもりだったからな。ちゃんと全員に教える場を設ける予定だぞ」
「……そういう意味ではなかったのですが」
「ん?」
「いえ。なんでもありません」
なんだかアイギス先輩のテンションがちょっと下がった気がした。
ちびちびジュースを飲んでおられる。
どうしたというのだろうか?
さて、宴のたけなわも過ぎて少し落ち着いてきた。
そろそろ、昇格試験内容の発表を行なおうか。
俺が壇上、神棚の前へ向かうと、自然と〈アークアルカディア〉のメンバーが注目しだす。
騒がしかった部屋が、何も言っていないのに一気に静かになった。
そして俺が壇上に立ち、振り返る頃には全員の視線がこっちに集中していた。
何これ? なんかプレッシャーがすごいんですけど。
重圧がやばい……。
もう完全にみんなが察した雰囲気だ。これから〈エデン〉昇格の発表があるんだと。
〈エデン〉は新しいメンバーが加入するためにドキドキ。
〈アークアルカディア〉は誰が昇格するのかドッキドキで判定を待っているだろう。
おおう。とんでもないプレッシャー。
く、威厳だ。ギルドマスターの威厳を今、見せるときだ! 頑張れ、俺!
「こほん。言わなくてもみんな察しているようだが、――これから〈アークアルカディア〉から〈エデン〉に昇格するメンバーの発表を行なう!」
俺は声に活を入れ、気合を入れなおした口調でそう告げた。
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