第422話 〈幸猫様〉いつもいつもありがとうございます!




「〈ビューティフォー現象〉キター!! 〈幸猫様〉〈幸猫様〉いつもありがとうございます!」


〈銀箱〉4つを見た瞬間から条件反射で俺は〈幸猫様〉に祈っていた。これは祈らずにはいられない。

 おそらく、少し前の祝賀会、その時のお供え物が効いたに違いない。

〈幸猫様〉はいつも俺たちを見守ってくれているのだ!


 よっし! 時間が余ったら〈ゴールデントプル〉の肉を狩りに行くか!

 そして〈幸猫様〉にお供えするのだ!


 はっ! そうだ、明日から2週間はダンジョンに入れない。

 その間毎日豪華なお供えをすれば、蓄積した幸運的な何かが大爆発して〈ビューティフォー現象〉のさらに上、〈パーフェクトビューティフォー現象〉も狙えるかもしれない!?

 なんてことだ! これほど重要なことを今気がつくだなんて!


 帰ったら豪華なお肉を2週間分用意しておかないと!


 俺がそう心に決めていると、いつの間にかルルたちは宝箱の前に集まっていた。


「ゼフィルスお兄様! 早く来るのですよ! お楽しみの時間なのです!」


「ふははは! お楽しみの時間だー!」


 ルルの発言に大いに一本釣りされてシュパッと〈銀箱〉ドロップの中心地に降り立つ俺。

 多分、今の俺はカルアより速かったと思う。


「ん、これ、いい感じの気配」


「ほう。ではカルアが開けてみるか?」


「んん。リカに譲る。きっと良い物が入ってる。開けてみて」


「そ、そうか?」


 隣ではカルアがリカにオススメの〈銀箱〉を教えていた。

 俺もその〈銀箱〉から良い物感がびんびんする。俺にアホ毛が在ったならビンッと直立していても不思議ではないほどだ。できれば俺が開けたい。


「ルルはどれが開けたいですか? またお姉ちゃんと一緒に開けますか?」


「今回もゼフィルスお兄様と一緒に開けたいのです!」


「ガーン!! そ、そんな……。――ゼフィルス殿?」


 また、隣にはルルとシェリアがいた。

 シェリアがなんとかまた共同作業をしようとルルを誘うが、ルルは俺を誘う気だったらしくショックを受けていた。

 放っておくと泣き出しそうな顔をしているのでフォローする。

 目が少し怖かったのは内緒だ。


「いや、俺が終わったら次ルルと一緒に開ければいいじゃないか」


「そ、そうですよね! ルル、ゼフィルス殿と一緒に開け終えたらお姉ちゃんとも開けましょう?」


「にゅ? でもいいのです? 宝箱は1人一つまでなのです」


「そんな規則、お姉ちゃんが打ち砕いてあげます!」


 シェリアがなにやら大げさにルールブレイカー宣言をしているが、俺が一言いいよと言えば済む話であった。

 しかし、なんか宣言がかっこよかったのかルルがシェリアを見る目つきがキラキラしている。シェリアはそんな尊敬にも似た視線を浴びてご満悦だ。

 ここで俺がいいよと言ってしまえばシェリアへの尊敬を奪うことになってしまう。

 しばらくそっとしておいてあげよう。


 結局〈銀箱〉は『俺&ルル』『シェリア&ルル』『リカ』『カルア』の分配で開けることになった。

 ボスを倒したことにより出入り口の門が開いたので救済場所セーフティエリアにいたBチームもやってきて注目する中、次々と開けていく。


 まず『俺&ルル』からだ。

 前のように俺の腕の中にすっぽりとルルが入る形で2人で〈銀箱〉に向き、俺がルルを支えるようにして宝箱を開く。良い物ください〈幸猫様〉!


 なんとなくラナとシエラの方を窺うが、問題はない様子だ。宝箱のほうに注目している。

 なぜかは分からないがホッとした。

 俺も〈銀箱〉の中身に集中するとしよう。


「ほわ! ベルトなのです! ヒーローみたいでカッコイイのです!」


「マジか、こりゃ驚いた! 名称はそのまんま〈ヒーローベルト〉だぞこれ?」


 ルルが開けたからか?

〈銀箱〉に入っていたのはアクセサリー装備の一つ、〈ヒーローベルト〉だった。

 防御力が20上がる他、『ヒーロー強し』〈攻撃を受けるたびに攻撃力が+3、上限60〉というスキルを持つ良装備だ。

 しかも見た目もカッコイイ。メカっぽい意匠が施された無駄にデカイベルトは何かロマンを掻き立てられる。


 これは是非ルルに装備してもらいたいな。


 当たりの部類だ。


 次に『ルル&シェリア』、『カルア』と続けて〈銀箱〉を開けていった。

『ルル&シェリア』組は、シェリアがなぜか「ルルが倒れないように支える」と言って補助に回ったのでほとんどルル1人で開けていた。

 中身は〈きんタ~ル(中級)〉。まさかの大当たりだった。

 ルルを抱きしめたシェリアがクルクルと三回転していたぞ。それ俺の役目……。


 また、カルアは残念ながら〈装備強化玉×10個〉。

 悪くは無いが、この中では一番微妙だった。


 最後は期待高まる、リカの〈銀箱〉だ。

 この箱からは俺とカルアの『直感』がびんびんに反応している。


「では、開けるぞ」


 いざ参る、と言わんばかりにリカが覚悟した顔つきでパカリと〈銀箱〉を開けた。

 全員が中を覗きこむ。


「む? なんだこれは?」


「ん?」


 リカが中身を取り出すと頭を捻った。カルアもそれに続く。

 見た目があまりにもその、当たりとは言えないものだった為だ。

 近くにいたルルがその物体を見てビックリ仰天する。


「はわ! 腕が入っていたのです! 鉄の腕です! でもびてるです?」


 そう、ルルが言うとおり見た目は錆びた鉄の腕だった。

 甲冑なんかに付いてるやつな。


「こりゃあ珍しいな、腕装備の〈錆びた鉄腕〉だ。これは強化していくと名称が変化して〈金箱〉産クラスの良装備になる、〈錆びた〉シリーズの装備品だな」


〈ダン活〉には〈錆びた〉系や〈未覚醒な〉系、〈呪われた〉系といった、そのままでは激弱装備なのだが、強化すると名称が変化し本来の力を発揮する装備群が存在する。所謂いわゆる成長系装備群だな。


 この〈錆びた鉄腕〉は〈銀箱〉でドロップするが、強化すれば〈金箱〉産クラスの強力な装備になるのだ。

 しかも、それをシリーズで揃えると、超強力なシリーズスキルが覚醒するため俺もゲーム〈ダン活〉時代はちょくちょく集めて使ったものだ。


 しかもこの〈錆びた鉄腕〉は上級下位ジョーカー級、シリーズ装備が全て揃い、シリーズスキルが全て覚醒すれば、もしかしたらこの世界に現存する装備の中ではかなり上位に入るものが誕生するかもしれないな。


 せっかくの〈錆びた〉シリーズだ。ちょっと集めてみるのもいいかもしれない。


 俺とカルアの『直感』が発動したのは〈金箱〉級にもなる装備品だった。

 これは中々の当たりだ。


 さて、次はBチームが挑む番だな。



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