第375話 試練の時。ハンナとの話し合い。
「ハンナ、ちょっといいか?」
「ん? ゼフィルス君?」
「ちょっと2人で話がしたいんだが、今大丈夫か?」
「うん。いいよ」
ギルド部屋にはすでにハンナがいたので話に誘った。
朝のミーティングまでそんなに時間は無い。
ラウンジまで行く時間も惜しいので、ギルド部屋の小部屋で話す事にする。
ガチャリとドアを開けて中に入ると。
「なあハンナ、また魔石が増えていないか?」
「え、ええと。気のせいだと思うよ。うん」
そういえばいつの間にかこの小部屋はハンナの魔石倉庫になっていたんだった。
一度は大量に減ったはずの魔石。
しかし、小部屋にはまた魔石が小山になっていた。
部屋にはいつの間にか柵が設けられていて魔石の浸食を防いでくれているが、部屋が魔石のプールになる日は近いかもしれない。
中級ダンジョンに進み〈魔石(中)〉が多く必要になったので、ハンナには〈魔石(中)〉大量生産をお願いしていたが。多くない? 大量消費したあの日からまだ10日くらいしか経っていなかったはず……。
ちなみに〈魔石(中)〉を作るには〈魔石(小)〉が4つ必要だ。
〈魔石(小)〉を作るには〈魔石(極小)〉が2つ必要なので、〈魔石(中)〉を1つ作るために〈魔石(極小)〉が8つ必要になる計算だ。
この小山を作るためにスライムが何匹犠牲になったのか気になるところだ。
「…………」
「う、だって魔石がおいしいんだもん」
だもん、ではない。可愛いじゃないか。
俺が黙ると答えになっているようでなっていない言い訳をハンナは言う。
まあ、言わんとしていることは分からんでもない。
〈魔石(中)〉はそれなりの額で取引されている。
何しろ〈ダン活〉ではモンスターのドロップは種類が多すぎて狙ってゲットするのが面倒なのだ。
〈魔石(中)〉なら
湯水のようにMPハイポーションを使用したければ何百、何千というゴーストを狩らなければいけない。
当然、〈魔石(中)〉の価値はそれなりのものとなる。
ハンナがおいしいと言ったのはそういうことだ。
スラリポマラソンを、未だにハンナは止められないらしい。
減った先からじゃぶじゃぶ補充していたようだ。
ちなみにゲームではスラリポマラソンはスキップはできたがオートにはできなかったため、途中で面倒になってやめる場合がほとんどだった。
〈魔石(中)〉や〈MPハイポーション〉が欲しければ買うか依頼でも掛ければよかったしな。
ミールはずいぶん掛かったが、それも攻略のため、と思っていた。
そんな事を知っている俺からするとハンナのスラリポマラソンへの情熱には頭が下がる。
まさかここまでとは思わなかった。正直、感謝している。おかげで〈エデン〉の資産は潤いっぱなしだ。
「思うんだが、ハンナはこれだけの量の生産をして、ダンジョンにも行って、無理はしていないのか?」
ハンナに今のダンジョンと生産の掛け持ちについて聞いてみた。
「え? うーん。毎日コツコツ生産しているから別に無理はしてないけど? ダンジョンも楽しいしね」
この小山が、コツコツ?
ま、まあ、ダンジョンが楽しいのは分かるよ。
そうか、無理はしていないらしい。
ハンナはハンナで今を楽しんでいる様子だ。
俺がなんとも言えない顔をして小山を見つめていると、また慌てるように言い訳をしだす。
「た、確かに私も少し叩きすぎかなと思うけど。もう習慣化しているというか。うん。全然無理してないから、私はスラリポマラソンはやめないよ!」
「いったい何を勘違いしたのかは知らないがハンナのスラリポマラソンを止める気は無いぞ?」
むしろ応援している。
頑張れハンナ。
あれ? 何の話をしていたんだっけ?
なんだか話が脱線しまくっていると感じたあたりでいきなり小部屋のドアが開いた。
「ゼフィルス、何をもたもたしているの?」
「え、シエラさん!?」
スッと倉庫に入ってきたのはシエラだった。そのことにハンナが素っ頓狂な声をあげる。
急に頭が冷静になった気がした。多分、気のせいじゃない。
シエラのジト目が突き刺さる。
こほん、こほん!
あまりの魔石のインパクトに思考が大きくそれていたらしい。危なかった。
「私が聞いたほうがいいかしら?」
「い、いやいやいや。今聞こうとしていたところだ。俺が聞く」
「そう」
ギリギリのところでシエラに言い訳して心を落ち着かせた。
なるべく視界に魔石を入れないようにしてハンナに向き直る。
これは真面目な話なのだ。
「ハンナ」
「えと、何かな?」
いきなり真剣な表情で向き直った俺にちょっとビックリしたように返すハンナ。
「近々中級中位ダンジョンへ挑むことになった。だけど、多分ハンナではボスを超えられない。ハンナが共に攻略するのは難しい」
「……へ?」
何か思いもよらないことを言われたようにハンナが呆けた顔をする。
そこから今〈エデン〉が目指している目標を語った。
中級中位ダンジョンをダンジョン週間中にクリアし、Dランク試験の条件を満たしたいこと。だが能力的に今のハンナではボス相手にすぐ戦闘不能になることが予想されることなど。
語られた内容をハンナは驚きに目を見開いていたが最後には頷いていた。
何かに納得したような表情だった。
「そっか……。わかったよ」
「ハンナがどうしても攻略に参加したいというなら、多少無理をすればなんとかならんこともないが」
「ううん。そこまで無理はしなくていいよ。大丈夫」
「……ごめんな。ハンナには助けられているしダンジョンに連れて行ってやりたい気持ちはあるが、さすがに
「いいよ。わがまま言ってたの私だもん。仕方ないよ。それに、攻略に参加できないだけでいつかは私も追いつけるかもしれないんでしょ?」
「まあ、そうだが」
ハンナはRESにかなりステータスを振っている。
HPを増量できる装備さえあれば魔法のみを使うボス限定で耐久力的になんとかなると思う。
だが、今からそれを揃えるには時間も装備の質も足りない。
それに、これから挑む予定のダンジョンは3つとも物理系ダンジョンなのだ。
残念ながら、ハンナはボスとは戦えない。
間違いなく戦闘不能になるだろう。
「うん。大丈夫。ゼフィルス君、シエラさんも、頑張ってね」
ハンナはそう言って小さく手を振った。
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