第369話 ほう〈転職〉を希望と? では何に就きたい?
「私が〈エデン〉を希望したのは他でもありません。ゼフィルスさんの下で学び、強くなりたいからです。私のLVは75。すでにカンストしているのでこれ以上の強さは望めません」
そう切り出すのはアイギスと名乗った2年生のお姉さん系先輩だった。
なんというか、年上っぽい人だ。実際年上だけど。
ギルド〈エデン〉には女子が12人在籍しているが、同級生しかいないためか、こういうお姉さん系の雰囲気を持った女子はいない。
少し緊張する。
「そして私の
そうだな。
【ナイト】中位職で中の中に分類される
適性が多く、〈馬車〉のような無機物から〈モンスター〉まで様々な〈乗り物〉系を装備して運用することが可能だが、特化していない分スキルの数が少なく、運用しにくいのだ。
【姫騎士】が70を超えるスキルを持っているのに対し、【ナイト】はその半分以下しか持っていないと言えばどれほど少ないか分かってもらえるだろうか。
【姫騎士】が『ドライブ』系スキルを3種持っているのに対し、【ナイト】は1種しか持っていなかったりする。
そのため【ナイト】は色々なスキルに手を伸ばすことが多く、器用貧乏になるのだ。
どんな〈乗り物〉装備も使えるが、どれを装備しても特化職の数割程度しか力が発揮できない。
故に攻略が進むごとに付いて行くのが難しくなっていく。
アイギスさんがAランクギルド〈テンプルセイバー〉ではなくDランクの〈ホワイトセイバー〉にいる理由はそんなところだろう。
アイギスさんがこれ以上強くなるのは難しい、正直言えば〈転職〉してやり直した方が良い。
「【ナイト】の
「さすがゼフィルスさんです。話を続けさせていただくと、私はこの【ナイト】から〈転職〉を望んでいます。そして〈育成論〉についてゼフィルスさんから学び、〈エデン〉に貢献していきたいのです」
ふむ。
周りの反応を見てみると、誰も動じていない。
この世界では〈転職〉はご法度とされている。
俺のリークにより少しずつ認識が変わっているようだが、まだまだ〈転職〉に踏み切ろうとする人は稀だ。
アイギスさんは、いやこの4名は〈転職〉を望んでいる、〈転職〉に踏み切った者たちなんだろう。
素晴らしい。強くなろうとすることはとても好感が持てる。
では1つ聞いておこう。
「聞いておきたいのだけど、アイギスさんは〈転職〉して何に就きたいんだ?」
「何に、ですか?」
「そうだ。何の
予想外の質問だったのかもしれない。先ほどまでのキリっとしたアイギスさんではなく、おそらく素の状態のきょとんという顔を見せていた。
おお、こっちの表情の方が、なんか良いぞ。
言葉に出来ないがグッと来る表情だった。アイギスさんは素の表情のほうが素敵。そう俺の心のメモ帳に書き綴られた。
「えっと、なんでも、ですか?」
「なんでもいいぞ。言ってみるだけだし、なんにも気にしないで言うだけ言ってみな?」
「そ、そうですね」
そこでアイギスさんが頬を少し上気させて目を逸らしてしまう。
なんだろう、それだけの仕草がすごく可愛く感じてしまうのは。
アイギス先輩は可愛い先輩、と続けて心のメモ帳2ページ目に綴られた。
アホなことを考えていると、アイギスさんはあまり力の入っていないように小さく口を動かしていた。集中していなければ聞き逃してしまいそうなほどの小声でこう言った。
「その、【竜騎姫】に……」
瞬間、アイギスさんの顔がカアっと染まる。
まるで恥ずかしい胸のうちを暴露してしまったような反応だった。
「【竜騎姫】か」
そしてその言葉に反応したのは、見守っていたはずのギルドマスターダイアスだった。
思わずといった感じにポロッと出てしまった呟き。
瞬間、アイギスさんの優しかった目がつり上がった。
「ちょ、ギルドマスターは黙っていていただけますか? 今大事な話をしているので口を挟まないでください」
「お、おおう。悪かった、悪かったよ。俺はもうしゃべらない」
「ギルドマスターはもう少しデリカシーという言葉を学ぶべきですね」
「ぬ、ぬう」
アイギスさんがギルドマスターを責める。
なんだか突っ込んで欲しくなかった自分の夢をからかわれたみたいな反応だった。
なんでそんな反応をするんだ?
俺には良く分からない反応だったので聞いてみる。
「すまん、ちょっと聞きたいんだが【
「え?」
するとアイギスさんやギルドマスターからビックリした反応が返ってきた。
そしてアイギスさんは再び視線を彷徨わせたかと思うと両手の指同士をつき合わせて恥ずかしそうに言う。
「あ、えっと。子どもっぽくないでしょうか?」
「ん~。ん?」
アイギスさんの言うことがよく分からない。子どもっぽいとはなんだ?
とそこに助け舟を出してきた人がいた、アイギスさんの隣に控えていたフレックDさんだ。
「ギルマスもアイギスも、そりゃあ身内で通じる感性だぜ。ゼフィルスさんも困るだろう」
「あ、ああ。そうですよね。うっかりでした」
「ゼフィルスさん、俺から説明させてもらえるとな、【竜騎姫】っていうのは「騎士爵」出身の女子たちが子どもの頃絶対にごっこ遊びしたことのある、とある童話に登場する伝説の
フレックDさんが先ほどとは違い砕けた感じに話し出す。そこにギルドマスターの注意が飛んだ。
「フレック、言葉使いが崩れてるぞ」
「あ、やべ」
「別に自分の話しやすい風で構わないぞ。その方が俺としてもしゃべりやすい」
「そうか? そりゃあ助かるが」
どうやらフレックDさんは砕けたほうが話しやすい人らしい。
アイギスさんは少し恥ずかしそうにしつつもフレックDさんに説明役を任せるようだ。
「続けて言うと、【竜騎姫】が登場する童話は「騎士爵」家では昔から深く愛されていてな、子どもの頃に必ずこの童話を読んで育つ。これに憧れて将来【竜騎姫】になりたいって言う女子は多いんだが、正直実在するかも分からない
「……なんだって?」
フレックDさんから語られた内容は俺にとって衝撃的なことだった。
竜がいない。そんなことはありえない。
〈ダン活〉にとって竜とは、とても特別な存在なのだから。
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