第366話 道場からの帰り道〈ホワイトセイバー〉現る。




 〈道場〉でLV40になったリーナ、ミサト、メルトだったが。

 その後三段階目ツリーの〈スキル〉〈魔法〉を試したいということになりしばらくシルバー系を的に練習した。


 LVが限界値まで行けば〈道場〉は終わりのはずが、あのまま続行することになるとは少し新鮮だった。


「そろそろ終わりにしようか?」


「まあ、もうこんな時間ですのね」


「わ、気がつかなかったよ。もう夕食の時間じゃん」


「夕食を食べ損ねたら大変デース!」


「……帰るか」


 俺が提案し、リーナ、ミサト、パメラが時刻を見て驚きの声を上げ、メルトが賛成する。

 11回目のウェーブをクリアしたところで時刻がかなりヤバい時間を指していたので帰還することになった。

 塔の外に出ると辺りはもう真っ暗だ。


「わわ、日が暮れちゃってるよ」


「もう夏至も近いですから、ここまで暗いのは久々に見た気がしますわ」


「リーナさんはお利口さんですね!?」


 リーナの優等生発言にミサトがややビビっていた。

 まあ、ミサトはアクティブそうな子だからな。夜でも出かける事がわりとあるんだろう。

 逆にリーナは日没前には寮へ戻り、夜間は外には出ない様子だ。


「む?」


 やや急ぎ足で門へ向かうと、正面からこちらへ向かってくる白のプレートアーマーで統一された5人パーティが現れた。それを見たメルトがやや顔をしかめている。


「メルト、どうかしたのか?」


「ゼフィルス、俺は厄介ごとの臭いを感じたぞ。あのパーティ、こんな時間に塔へ向かうつもりか?」


 言われて気がつくが確かにもう日が暮れている時間だ。

 ダンジョンに入っていられるのは10時までと決まっている。0時を超えたら捜索隊が組まれ、内申に響く。

 今から〈道場〉に挑むには時間が足りない。


 となると考えられるとしたら。


「失礼する。貴殿ら、1年生のトップギルド、〈エデン〉で相違ないだろうか?」


 塔から帰る者の待ち伏せとか、だよな。


 メルトの感じたとおり、そのパーティが用があったのは俺たちだった。

 一際大きな体格の騎士風の男子が話しかけてきた。


 女子たちを下がらせ、俺とメルトが前へ出る。


「ああ。俺たちは〈エデン〉だが、そう言うあなたたちは誰かな?」


 そう答えると大男は1つ頷いた。

 その後ろには4人が直立不動で控えている。

 よく訓練されているようだ。


 大男が代表ということだろう。


「こんな場ですまない。俺たちはAランクギルド〈テンプルセイバー〉の下部組織ギルド、〈ホワイトセイバー〉のメンバーだ。俺の名はダイアスという。少々話をさせて貰えないだろうか?」


「〈テンプルセイバー〉、リカが言っていたギルドだな。確か先月〈獣王ガルタイガ〉と〈決闘戦〉を行なったと聞いたが」


 俺は記憶を掘り起こして言うと、大男のダイアスという男子が1つ頷いた。


「うむ。ではその結果も知っているか?」


「〈獣王ガルタイガ〉の勝利だろう。そして〈白の玉座〉が向こうの手に渡った」


 メルトも当時の〈決闘戦〉の事を知っていたらしく淀みなく答える。


 〈白の玉座〉。

 回復系職業ジョブ専用の特殊装備で非常に強力な効果を持つ。

 そのスキルは『プラスレンジLV10』と『回復減退耐性LV9』。

 ギルドバトルでは遠距離からの回復を、威力を減退せずに行うことができる効果を持つ。


 上級ダンジョンからドロップされる〈白の玉座〉だが、中級上位ダンジョンのレアボスからもドロップする。そのため上級ダンジョンがほとんど攻略されていないこの世界でも誰かしらが手に入れる事が出来たのだろう。


 俺は少しこの話に興味が湧いた。

 急いで帰りたいところ悪いが、少しだけ話に付き合おうと思う。

 他のメンバーは先に帰ってもらっても良かったのだが、誰も帰ろうとしないのでこのまま5人全員で話を聞くことになった。


「その通りだ。うちの親ギルドは〈白の玉座〉を使いAランクギルドに君臨していた。しかし、今やその地位は風前の灯火だ。我々〈ホワイトセイバー〉にとっては死活問題なんだ。〈ホワイトセイバー〉はDランク。構成員は18名もいる」


「そりゃあ、確かにまずい状況だな」


 大男ダイアスが苦しそうな顔をして現状を吐露する。

 よほど切羽詰まっているのだろう、本来はそれ隠さなくちゃいけないんじゃないか? と思われることも現状を正確に理解してもらいたいためか隠さず告げてきた。


 親ギルドのランク落ちとは、下部組織ギルドの構成員としては他人事では無い。

 もしレギュラーになったとして、Aランクギルドの下部組織ギルドだから加入したのに自分が関わる前にBランクに落ちているのだ。とてもやるせないだろう。


 それにもっとまずいのが現状〈ホワイトセイバー〉の残り枠が2席しかないところだ。

 もし親ギルドがランク落ちでもしようものなら脱退者が出る。

 その脱退者を受け入れるのが本来下部組織ギルドの役割のはずなのに、その枠が〈ホワイトセイバー〉には無い。


 下部組織ギルドを11名以上入れると、いざ親ギルドが負けた時、こういった事が起こる。

 下部組織ギルドはDランク、最大20人までしか受け入れできないため、万が一親ギルドが負けた時を見越して下部組織ギルドのメンバーは10人までにするのがセオリーだ。


 さもなくば、下部組織ギルドのメンバーがそのしわ寄せを食らうはめになる。端的に言えば、下部組織ギルドから脱退者が出ることになる。


 しかし〈テンプルセイバー〉はランク落ちしないとでも思ったのか、それとも他の理由からかセオリーを無視し、それが今問題になっているみたいだな。


 大男のダイアスが頷いてから話す。


「うむ、このままでは多くの脱退者が出ることになる。路頭に迷うメンバーが大量に出ることになる」


「それで、なぜ〈エデン〉に接触してきたんだ?」


 頃合いと見たメルトが要件を訊く。

 状況は分かった。しかし、それと〈エデン〉がまだ結びつかない。

 メルトの目が早く言えと急かしていた。隣に居る俺にはメルトの腹辺りから「く~」という音が聞こえた。メルトの腹は飢えているらしい。


「いくつかある。目的は多くの脱退者を出さないため、〈エデン〉とは交渉がしたい」


「言ってみろ」


「助かる。まず親ギルド〈テンプルセイバー〉から要望がきている」


 長引きそうだと感じたのだろう、メルトの目が徐々に細められていくが、大男ダイアスとは目線の高さが違いすぎて視線が合わないようだ。『効果が無いようだ』状態だった。


「〈テンプルセイバー〉からの要望は、〈エデン〉が所持している〈ダンジョン馬車〉レシピの買い取りだ。3億ミールで交渉したいと言ってきている」


「安い。却下だ」


 〈テンプルセイバー〉の要望をメルトはにべもなく断った。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る