第361話 攻略とLV上げに分かれよう。LV上げの方法とは




 中級中位ダンジョンに挑む。

 その先に待っているのはDランクギルドの称号だ。

 Dランクになるための試験は『ギルドマスターを含む10人の中級中位ダンジョン3つの攻略』が条件となっている。


 〈エデン〉でいうならギルマスである俺を含む、他9人が中級中位ダンジョン3つをクリアした者である必要があるわけだ。

 ちなみに生産ギルド向けの条件はまた異なるのだが、まあこれはいいだろう。


 要はギルド全体の足並みを揃える必要がある。

 俺はゲーム〈ダン活〉をやっていた初期、これを知らずに5人特化ギルドで育ててしまい、Dランクに上がるのにものすごく時間が掛かった。まさかDランク昇格試験が〈10人戦〉だとは……、あの時は思いもしなかったぜ。

 しっかりギルドの人数を増やし、さらに全体の育成に力を注がなければ〈ダン活〉は進めないと、あの時深く思い知った。


 ちなみにこの設定は開発陣がいろんな職業ジョブを使わせようとして作った涙ぐましい設定だ。

 当時は進めなくなった〈ダン活〉にピキッときたものだが今では懐かしい思い出だな。


「3つのパーティに分けよう。LV上げをメインに育てるパーティ2つに攻略を目指すパーティが1つだ」


 俺はミーティングでそう宣言した。


「何か質問がある者は挙手してくれ」


「えっと、はい」


 俺が呼びかけると、まず手を上げたのは意外にもハンナだった。

 〈エデン〉では唯一と言っていい生産職である、のはずだ。

 しかし、今は攻撃系アイテムやスロット系の装備を身に付けることで擬似的なアタッカーやヒーラーなどもしている万能キャラとなっている。一発でも食らうと終わりのピーキースタイルではあるが、全体攻撃や物理攻撃をしてこない相手ならば問題は無い。


 できれば生産に集中してもらいたいのだが、ハンナが大量生産に特化しているせいで生産とダンジョンを両立できてしまえているんだ。

 なんだあの大失敗デザートファンブル100連発、スライム400匹生産タイム58.22秒って。自己タイムベスト更新したよってハンナが報告に来た時はクラッときたぞ。

 ゲーム〈ダン活〉時代にそんなタイムアタックは存在しない。


 まあ、今は置いておこう。


「どうぞハンナ、どんな質問だ?」


「えっとね、素材がピンチなの。MPハイポーションの素材がもうすぐ切れそうで、恐竜ダンジョンに行くならとってきてほしいなって」


「オーケー。セレスタンそれも付け加えてくれ」


「かしこまりました」


 こほん。ハンナには〈MPハイポーション〉を始めとする様々なアイテムの生産を頼んでいる。

 【錬金術師】のユニークスキル『すべては奉納ほうのうで決まる錬金術LV10』により、初級の〈魔力草〉からでも中級〈銀箱〉産を奉納すれば〈MPハイポーション20個〉を作ることができるため効率がいいのだ。

 ちなみに中級の〈上魔力草〉に中級〈銀箱〉産を奉納した時も作れる物は同じ〈MPハイポーション20個〉だ。品質は〈上魔力草〉の方が上だけどな。

 しかし、〈魔力草〉や〈上魔力草〉が無ければ作れるものも作れない。

 『素材返し』のスキルで〈MPポーション〉を素材に返すのにも結構なMPが取られるのだ。これが意外と馬鹿にならない。


 少しは〈採取〉で〈MPハイポーション〉の素材、〈上魔力草〉を集めるだけで『素材返し』をしなくて済む分コスパがかなり違ってくるのだ。

 そもそもせっかく作った〈MPハイポーション〉を分解してしまっては備蓄も少なくなってしまう。

 素材集めには俺も賛成だった。


 セレスタンがサラサラとハンナの要望をメモに取る。


「〈ジュラパ〉は未だ人気の無いダンジョンだしLV上げにはもってこいのダンジョンだ。LV上げのついでに、皆採取を頼む」


 〈丘陵の恐竜ダンジョン〉、通称〈ジュラパ〉はモンスターが強い。

 中位職ではステ振りがしっかりしていなければ普通にやられるくらい強い。

 故に上級生がまったくと言っていいほど寄り付かないダンジョンだ。


 〈公式裏技戦術ボス周回〉を見られるわけにはいかないので、〈エデン〉にとって都合のいい狩場と化している。

 ついでに採取するくらい、まったく問題ないだろう。

 〈公式裏技戦術ボス周回〉をするためには〈MPハイポーション〉のブーストが必須だからな。


「他に質問はあるか?」


「いいかしら」


「もちろんだ」


 次に手を上げたのはシエラだった。


「現在多くの一年生が初級中位ダンジョンまで進んでいるわ。初級上位ダンジョンには上級生が力を入れて攻略しているというし、このダンジョン週間中、初級はどこのダンジョンも大賑わいのはずよ」


 俺はシエラの言いたいことを察して頷く。


「ボス周回が出来る環境が無い、ということだな」


「ええ。どうする気なの? 普通にモンスターを倒してレベルアップするのかしら?」


 〈エデン〉は今まで〈公式裏技戦術ボス周回〉を使って高速LV上げを実現してきた。

 〈公式裏技戦術ボス周回〉は〈エデン〉の極秘中の極秘だ。

 もしこれがバレたらダンジョンの最下層は一気に狩場に早替わり。

 俺のこの世界を楽しみつくす夢に間違いなく支障が出る。絶対にバレてはいけない。少なくとも俺たちが中級にいるうちは。

 しかし、初級のダンジョン数が少ないということもあり、現在はどこのダンジョン混雑している。

 とても前みたいに〈公式裏技戦術ボス周回〉ができる環境ではない。


 そして普通のザコモンスターを狩っていては、LV上げは遅々として進まないだろう。

 〈公式裏技戦術ボス周回〉のように1日でLV4もLV5も上がらないはずだ。


 じゃあまだ初級にいるリーナたちのLV上げはどうするのか。

 実は普通に方法がある。


 うん。俺が勘違いさせてしまったのだ。

 高速LV上げは〈公式裏技戦術ボス周回〉でしかできないのか? しかし、俺はそんなことを言った覚えは、実は無い。


 そもそも前提が間違っているのだ。〈公式裏技戦術ボス周回〉は何のために存在するのか。

 高速LV上げのために存在している? 違う違う。

 ゲームでいう詰みの状況を回避するために存在するのだ。

 〈上級転職チケット〉など、やたら多いドロップをプレイヤーにたくさん確保してもらうために開発陣が断腸の思いで認めたのが〈公式裏技戦術ボス周回〉である。

 高速LV上げはその副産物に過ぎない。


 つまりだ。レベルアップのための狩場は元々別で用意されているのだ。


 ――それが、


「リーナ、ミサト、メルトは俺と行動な。これから行くのはエクストラダンジョンの1つ、――〈試練の門塔もんとうダンジョン〉だ」


 ――通称:〈道場〉と呼ばれるLV上げ特化型ダンジョンである。




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