第357話 下部ギルド創立決定! 第4回〈育成論〉開始!




『採用候補の22名に聞いてみたら全員が下部組織ギルドでもいいって言ってくれたよ』


「マジで?」


 金曜日の朝、ミサトからのチャットに書いてあったのは信じられないような文だった。


 下部組織ギルドは補欠。

 3年間ずっと補欠のままなんてのも普通にありえるのだ。

 今所属しているギルドがどれほどの実力かは分からないが、とんでもなく優秀な人材である彼女たち(1人は男子)ならレギュラーや第一軍はまず狙えるだろう。

 それを脱退してまで〈エデン〉というまだEランクのギルドの下部組織ギルドに来たがるなんて、ちょっと考えても無いなと思っていた。


 しかし、実際には全員が同意し〈エデン〉の下部組織ギルドでもいいから所属したいと言っているらしい。

 今の自分のギルドを脱退してまで。


 とりあえずミサトに確認してみる。〈学生手帳〉を持ちチャットを返す。


『え、冗談?』


『冗談じゃないよ~。ゼフィルス君はもっとみんなからどんな目で見られているのか知った方がいいかもね』


「なんてことだ」


 さすが有名人の勇者。

 人気か? 人気があるのか勇者は?

 確かに勇者ファンなるものがあるとは以前小耳に挟んだが……。

 いや、さすがに個人を追っかけて重要である所属するギルドは決めないだろう。決めないよな? いや、これがオンラインゲームとかなら普通にありえるが、ここはリアル。

 人生を左右するような重要な場である。そんな人生を一時の感情で決めるなんて……、どうなんだろうか? よく分からない。


 それとも〈エデン〉の未来を見越して、ということだろうか?

 そっちの方がありそうだな。

 〈エデン〉は将来的にSランクになり、最上級ダンジョンを攻略するつもりだ。

 下部組織ギルドとはいえ〈エデン〉の関係者ともなれば箔が付く、のか?

 さすがにゲーム時代そんな設定はなかった。


 困惑しているとさらにミサトからチャットが来る。


『とりあえず、下部組織ギルドの創立の手続き進めちゃってもいい? セレスタンさんやメルト様、シエラさんにも相談するけど、まずゼフィルス君の許可がいるからさ』


 ……動き出してんなぁ。

 まあ、下部組織ギルドを作ろうと決めたのは俺なので今更やめるなんて言わないさ。


『了解。許可するよ。そうなると採用人数も変更しなくちゃいけないな。セレスタン、メルト、シエラにも声を掛けてくれると助かる。後で相談したい』


 下部組織ギルドを作ることで採用人数が増加しそうだが、採用候補は22人だ。まだ絞る必要がある。

 セレスタンは個人のプロフィールとか調べて合否を決めていたし、人柄、性格なんかも詳しいはずだからそっちの面でも相談したい。



 ミサトから『オーケー』のチャットを受け取ると、気持ちを切り替えてそのまま貴族舎を出た。


 今日は4回目の臨時講師の日だ。




 セレスタンと合流し、前回と同じ講堂へ向かう。

 その途中、先ほどミサトと交わした内容を話した。


「ということなんだ」


「はい。ミサトさんからすでにチャットはいただいております。こちらでもその22名は調べさせていただきますね」


 まあ、王族とか貴族とか色々いるからな〈エデン〉は。

 セレスタンはその辺気をつけるよう言われているらしい。

 合格水準に満たない場合はどうなるのかよく知らないんだけどね。俺が採用したいと押し通せば採用できる気がするし。


 また、今回は自分の所属ギルドを脱退してまでEランクの下部組織ギルドに来るという特殊なケースだ。

 普通はありえないので、現在所属しているギルドでトラブルが発生していないかなどもよく調べておく必要がある。その辺もセレスタンがよきに計らってくれるだろう。


 と、話しているうちに講堂に着いた。チャイムぴったりである。

 セレスタンがドアを開けてくれるので入室する。


 ざわざわ。ざわざわ。

 講堂の中には学生の他教員が15名入っておりほぼ満席状態。300人ほどが俺の授業を受けている。

 その中でも特に目立つ集団がいる。教壇の目の前、一番前の列に座る女子たちだ。


「ああ。ゼフィルス君がこっち見てるわ」


「うん。今日もかっこいいわね」


「朝早起きして席を確保しておいて良かったね!」


「特等席、この席だけは譲れない」


「目の保養と耳の保養を常に得ながら最高の授業が受けられる。私、ファンになってよかった……」


「私もよ」


 俺の授業を第1回目から受講してくれているメンバーたちだ。

 とても熱と気合が入っている。


 他の受講者も頑張って勉学してくれているのは分かるのだが、彼女たちは、そう、なんか気合と迫力と熱意が違うのだ。

 今日も最前列で俺の授業を聞いてくれるらしい。

 この講堂に席順なんて無いので完全に先着だ。

 彼女たちがいったい何時からこの席を取っているのか、俺には想像もつかない。

 それだけの気合なのだ。


 ありがとう。ならば俺もそれに応えよう!

 最高の授業を送りたい。精一杯〈ダン活式育成論〉を語ろうではないか!


 ちなみに第1回目の授業からいた男子5人は、どっかいった。

 少なくとも最前列には見当たらない。300人の受講者の中で探すのは骨なのでそのままだ。

 とりあえず45人の彼女たちには精一杯のありがとうを送る。口には出せないので笑顔で。通じるかな?


「今私に微笑んだわ!」


「何言ってんのよ、みんなに微笑んだのよ」


「はあ。今のはポイント高いわ。お昼ご飯が美味しく食べられそうだわ」


「くぅ、はかどる! はかどる! やっぱりこの席おいしすぎるよ!」


「絶対この席は渡さないわ」


 最前列の女子たちの気合が上がったように感じる。多分、思いが通じたに違いない。

 良し、俺も授業を始めよう。

 まずは挨拶からだ。


「みんなおはよう。今日は第4回目の授業だ。今日から入ってきた新参者はいないが、まずは前回の復習から入ろうか」


 面接に来てくれた第1回目から参加してくれている彼女たちは、俺の授業により素晴らしい職業ジョブの育成をしていた。つまり結果をだしていた。

 それは俺がしている授業は意味があるのだと言っている様なもの。

 俺も気合が入るというものだ。


 素晴らしい人材を育て、そして〈エデン〉に引き抜くぞ!




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