第351話 カルアの新装備の試運転でレアモンスター現る。
「はぁあ! 『切り払い』! 『ツバメ返し』!」
「フジュア!?」
「ん、これで終わり。『二刀山猫斬り』!」
「フ!? フジュゥゥゥ………」
リカの防御スキルからの反撃でノックバックして固まったところをカルアが2本の短剣で上部から斬りつけ、モンスターがエフェクトを撒き散らして沈んで消える。
「お疲れ様。カルア、調子はどうだ?」
「ん。これすごくいい。絶好調」
「それは良かった」
カルアに装備の調子を聞くと、珍しく頬を高揚させて興奮気味にカルアが答える。
現在、
装備の調子を見るのはダンジョンが一番、ということでマリー先輩のお店からそのままダンジョンに直行したかたちだ。
途中、少し青ざめたラナを連れた従者一行とばったり出会い、シズから一言。
「少しお灸を据えすぎました。ダンジョンに行くのでしたらラナ様も連れて行っていただけませんか?」
とのお言葉とラナを預かってそのまま5人でダンジョンに向かうことになった。
何があったのかは……、知らない方がいいのだろうか。
あとセレスタンはどこ行った?
ちなみに〈ワッペンシールステッカー〉でシエラのギルティは何とか回避できた。
シエラには、なんとか言葉を尽くしてジト目に戻っていただけた。ふう。危なかった。
「『ソニャー』! ん、次の獲物、こっち」
「あ、カルア待ってよ。一緒に行きましょ」
カルアが索敵系スキル『ソニャー』を使いモンスターを探り、また発見した模様だ。
新しい装備に浮かれているのだろう、その足取りは軽い。
先ほどまで青い顔をしていたラナも、ダンジョンに入った今ではすっかり顔色も戻っていた。
そのままぐんぐん先に行ってしまうことを危惧したのだろう、ラナが待ったを掛けて一緒についていくことにしたようだ。
ラナは意外と面倒見がいい。カルアのことはラナに任せておけば大丈夫だろう。
「次は私がタンクを受け持つわ。リカはアタッカーに加わってもらえるかしら」
「承知した。ここのモンスターは思ったより攻撃のタイミングが遅い。特にムチ系攻撃はやりにくいから気をつけてくれ」
「分かったわ」
後ろではシエラがリカにタンクを代わるよう話している。
優秀なタンクが2人いるのでどちらがタンクをしても良いのだが、シエラがガチタンク特化なのに対し、リカは攻撃もある程度いける。そのため今回のようにリカがタンクをするとシエラが手持ち無沙汰になってしまうのだ。
効率的に見るとシエラがタンク、リカがアタッカーorサブタンクに回ったほうが効率的だろう。
しかし、どうやら次のモンスターでもシエラの出番は無いらしかった。
「ん。ゼフィルス。金色がいた」
「なんだと!?」
先に進んでいたカルアが突然Uターンして戻ってきたかと思えばそう言ったからだ。
金色、それはレアを意味する素晴らしい色。
俺は金色が大好きです!
「みんな静かに。んでカルア、どこに居たって?」
「ん、こっち」
素早くみんなに音を立てさせないよう指示を出して、カルアに小声で話しかける。
この、フィールドのど真ん中で金色って言ったらもうレアモンスターしかいない。
素晴らしい。
しかし、レアモンスターは逃げるのだ。
音を立てて万が一発見され逃げられたら目も当てられない、なるべく隠密で行動だ。
〈エデン〉のメンバーもしっかりその辺分かっている。
へへへ、逃がさないぜ。
「ラナ、まだ居る?」
「カルア、ゼフィルス、あそこよ」
草の陰に隠れるようにしてしゃがみこんでいたラナに近づく。
どうやらラナとカルアは同時にレアモンスターを見つけ、俺たちへの報告にカルアを寄越したらしい。
ラナは見張りだったようだ。
ラナが指差す方へ見ると、いるいる、金色に輝く体を持ったモンスター。
球根のようなボディに二つの足。そして頭頂部に生える双葉の芽がフリフリ揺れている。
大きさは俺のひざくらい。かなり小さな植物型モンスターだ。
なんと言うか、本能的に倒しちゃダメ系なマスコット的可愛さがある。
〈倒木の大林ダンジョン〉は植物モンスターが跋扈するダンジョンだ。
そのレアモンスターの名は〈ゴピップス〉。
名前、もうちょっと可愛くならなかったのかよと開発陣に散々問い合わせが相次いだと言われる〈ダン活〉のマスコットキャラクターの一角だ。(嘘です。公式マスコットキャラクターは別にいます)
ちなみに、とある〈幸猫様〉と〈ゴピップス〉が並んだ絵は、〈ダン活〉プレイヤーたちから〈非公式尊い絵ランキング〉で密かに5位の栄冠を手にしている。
そんなレアモンスターを今から狩る!
「ねえ。あれ可愛いわ」
しかし、ラナが俺に向ける目。
可愛いから……可愛いからなんだと言うのだ、そう言えたらと思う。
「か、かわいいから……な、なんだ?」
震える声でそう聞いた俺は偉いと思うんだ。
「持って帰れないかしら」
「…………」
お持ち帰り案が出た。少しだけ考える。
ダメだ。【魔獣使い】系は〈エデン〉にはいないんだ。お持ち帰りはできない。
「諦めろ」
「ゼフィルス?」
「いや諦めろよ」
どうしよう。ラナの目が本気だ。
どうにか冷静に説得しなければ。
とそこへ頼りになる援軍が現れた。
我ら〈エデン〉の頼れるサブマスター、シエラだ!
「ラナ殿下。実は耳寄りな報告があるわ。ちょっとこれを見てくれるかしら」
「なに?」
シエラが〈学生手帳〉でなにやら掲示板のクエスト欄を開いたようだ。
その1つを開くと表示されたクエストをラナに見せた。
「ここ最近、大型クエストで目の前のレアモンスターのドロップが発注されているのよ。クエスト報酬は2万QP。追加報酬でレアモンスターのぬいぐるみも付いてくるそうよ」
「狩りましょう!」
ラナが掌を返した。
というかこのクエスト、以前フィリス先生が教室で呼びかけていた大型クエストじゃんか! まだクエスト続いてたのかよ。
しかも追加報酬に無駄に可愛い〈ゴピップス〉ぬいぐるみが載ってやがる。ヤバイ、限定品とか書いてあるぞ。
ふと見ると、ラナの目にキラキラとマジ
ちょっと待ってほしい。
「ラナ待つんだ。狩るのはいい、狩るのはいいんだ。だがレアモンスターに魔法は効かないんだ」
前にも説明したがもう一度。
レアモンスターはHPが低い代わりにデフォルトで『魔法完全耐性』を持つ。
ラナがいくらマジカルしようがレアモンスターを倒すことは出来ない。
そこで前のことを思い出したのだろう。ラナがしまったという顔をした。
「大変よゼフィルス、ハンナがいないわ!」
ラナが声を抑えながら叫ぶという器用なことをする。
そう、今回ハンナは同行していない。俺も攻撃アイテムの狙撃はあまり自信がない。
前回レアモンスター〈ゴールデントプル〉を見事一撃で遠距離から仕留めたのはハンナだった。
今回は攻撃アイテムで倒すことは出来ない。〈ゴピップス〉はあの見た目でカルアより足が速い。一度ミスれば逃げられて、二度と会うことはできないだろう。
しかし問題ない。
今回は頼もしいメンバーがいるのだ。
「安心してほしい。カルア、頼めるか?」
「余裕。任せてほしい」
カルアより速い〈ゴピップス〉相手に余裕とは?
しかし、これには理由がある。
カルアの
何もAGIの高さだけが【スターキャット】の強みというわけではない。
そのスキルだって、高位職の名に恥じない強さを持っている。
「じゃ、行ってくる。ユニークスキル発動、『ナンバーワン・ソニックスター』!」
瞬間、カルアの輪郭がぶれたかと思うと一瞬でその場からいなくなり、そして、
「キュン!?」
レアモンスターの断末魔の叫びが聞こえてきたのだった。
カルアのユニークスキルを超えるスピードは、無い。
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