第339話 〈ジャストタイムアタック〉戦法は差し込み不可




 〈ジャストタイムアタック〉。


 〈ダン活〉のギルドバトルでは必須とも言える戦法で、いかに巨城に差し込まれないかを追求した、〈ダン活〉プレイヤーの努力と技術の結晶だ。


 ゲーム〈ダン活〉にはこんな言葉があった。

「息をするように3秒ジャストで的に当て続けられるようになればSランク」。


 これは着弾時間のコントロールという意味で、魔法発動後、3秒ジャストで的に叩き込む事を言う。


 普通、一斉攻撃とは、同時に発動・・するものだ。足並み揃えて攻撃する事を言う言葉だが、魔法やスキルは速度がそれぞれによって違う。

 攻撃する時は同時でも、実際着弾する時間にはかなりばらつきがあるのだ。


 それではダメだ。甘い。差し込まれる。


 そのばらつきの合間に差し込まれたら城を持って行かれるかもしれないのだ。

 ただの一斉攻撃では甘すぎる。


 だからこそ考えられたのが〈ジャストタイムアタック〉。


 つまりは逆の発想だ。発動はバラバラ・・・・でもいいから着弾時間を合わせよう・・・・・ぜ、という話。


 〈ジャストタイムアタック〉、またの名を〈00秒ぜろぜろびょうアタック〉とも言う。

 0時0分0秒ジャストに合わせて全員が攻撃を着弾・・させる戦法だ。


 それにより聞こえる着弾音はほぼ1つのものとなる。


 ほぼ差し込み不可能。


 そして逆に、ただの一斉攻撃をしているギルドに対してこの上ない必勝の戦法にもなりうる。



 俺たち〈エデン〉のメンバーはこの練習を必修としていた。

 まだ完璧に出来るメンバーはこの5人にリーナを合わせた6人しかいないが、いずれは全員が〈ジャストタイムアタック〉が出来るようにしたい。

 そうすれば、ギルドバトルはこちらのものだ。Sランクへの目標に一歩どころか十歩くらい近づくことができるだろう。




「な、何!?」


「バカな!?」


 隣のマスからそんな叫びが聞こえた時には俺たちはすでに踵を返していた。


 今回、ラナたちが到着した時間の12秒後、○時○分35秒同時着弾戦法は大成功した。

 〈中央巨城〉に続いて2回目なのでだいぶ皆慣れてきた様子だ。


 スクリーンを見ると、現在のポイントは


 〈『白6650P』対『赤2530P』〉〈残り時間39分33秒〉


 白チーム〈エデン〉が巨城を3つ落とし優勢。

 赤チーム〈天下一大星〉は〈南西巨城〉のみ落としていた。


 無事な巨城はあと1つだが〈エデン〉の本拠地に近い〈北東巨城〉だ。

 そっちにはセレスタンが率いている。〈天下一大星〉に持って行かれる心配は無いだろう。


 開始5分が過ぎ、初動は終わりだ。次は中盤戦。


 俺たちの役目はこの南エリアの小城マスを取りまくりつつ、自陣マスを切らさない事、そして〈天下一大星〉の本拠地や南の巨城2つの道を絶えさないようにすることだ。


 自陣マスは道だ。

 この道が無ければ目的地に向かう事はできない。

 故に自陣マスを全て取られたら追い出される。


 道を切らさないよう自陣マスを確保し続けるのは非常に重要な戦術だった。

 道が無ければ終盤戦、身動きが取れなくなってしまうからな。


 とその時、耳に、いや頭に直接語りかける声が響いた。


『リーナです。応答願えますか?』


 声の主はリーナだった。

 これは【姫軍師】のスキル『ギルドコネクト』だ。

 ギルドメンバーに対し声を届けるスキルである。

 声を届ける距離に色々制約のあるスキルではあるが、少なくともアリーナ内ならば普通に声が届く。一方通行ではあるが、相手は選べるので便利なスキルだ。

 ゲームの時はただの指示コマンドの変更くらいしかできなかったスキルだが、リアル世界では本物の通信スキルに大化けした。


「カルア、エステル」


「ん。タッチ」


「はい。タッチです」


 近くにいたカルアとエステルとハイタッチをする。これが俺たちの決めていた応答だ。


 声は届けられないが、今リーナは本拠地にて〈竜の箱庭〉を起動しているだろう。

 だから俺たちがどんな行動をしているのか、リーナは〈竜の箱庭〉を通して見ることができる。

 ハイタッチしたら声が届いている。と、そういうことだ。


 司令塔が全ての状況を把握し、リアルタイムで声を届かせるのである。

 マジ強い。

 ギルドバトルには絶対欠かせない戦略である。


『確認しましたわ。先ほどルルちゃんたちのチームが〈北西巨城〉を落としました。残りの〈北東巨城〉はもうすぐ落ちます。〈エデン〉は巨城4つ先取ですわ』


 そいつは朗報だ。

 こうなると〈天下一大星〉は非常に辛い展開となる。

 勝ち目が巨城4つ以上をひっくり返して、かつ小城Pポイントでも上回るしかないのだ。

 もし小城Pの取り合いで負けたのなら……、時間終了時に巨城5つ全てを確保していなければならない。正直無理だな。


 実質、〈エデン〉の本拠地を落とさないと〈天下一大星〉は負けである。


 となると、本拠地の防衛が重要になってくる。


 ほとんど計算通りの展開だな。


『ゼフィルスさんは本拠地へ戻ってきてください。他の皆さんは小城の取得を願いますわ』


 リーナの指示に頷く。

 妥当なところだろう。


 今本拠地を襲撃されるということはほぼ無い。

 本拠地は一度落ちるとHPが1.5倍になって復活する。

 二度落ちると2倍で復活だ。


 つまり今落とすメリットが少ないのである。


 確かに本拠地を落とせば相手側が持っていた巨城が全て手に入るが、今手に入れても普通に〈エデン〉にひっくり返されるだけだろう。城は奪われたとしても一度獲得したポイントまでは奪われないから意味がない。


 〈天下一大星〉が勝つにはタイムアップの時点で巨城を5つ持っている必要がある。

 つまり、本拠地が落とされるとしてもラスト2分の間だ。


 2分間は保護期間で巨城がひっくり返せない。

 それを利用して、残り時間2分の時に本拠地を落とすのがギルドバトルの必勝展開だった。

 このラスト2分間の事を〈ダン活〉では〈ラストタイム〉と呼んでいた。

 ほとんどの逆転はこの〈ラストタイム〉で起こる。非常に気の抜けない時間だ。

 それまでに本拠地を攻撃されないための策を作っておき、有利な状況を作り上げておく必要がある。


「じゃ、俺は本拠地へ向かう。小城は頼むな。対人戦はこちらが指示を出す」


「ん」


「了解しました」


 隣にいたカルアとエステルに報告し、そのまま少しバック。

 後ろを走っていたラナとシズにも伝える。


「えー、私対人戦やりたいわ! 打っ飛ばしたいのよ!」


「了解いたしました。ですが機会をいただけると助かります」


「わかったよ。だけど今は小城を頼む。俺が本拠地に着いたら改めて指示を出すから、そしたら解禁だ」


「そう。楽しみね!」


 なんのために『頭を打っ叩け』の項目を追加したと思っているのかと憤慨するラナをスルーして、俺は急ぎ本拠地へ戻った。

 小城とか全て無視して駆けつけたため2分と掛からず到着する。


 その時スクリーンには〈『白9490P』対『赤3400P』〉と表示されており、無事〈エデン〉が巨城を4つ先取できたようだ。


 中盤戦はこの小城Pの差を広げるところに注力する必要がありそうだ。


 俺はそれを確認して司令室と化した本拠地の中に入っていった。





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 作者から後書き失礼します。

 近況ノートに第339話の進行状況イメージ図を添付しました!

 よろしければ見てみてください。

 タイトル:『〈ダン活〉第339話 進行状況イメージ図』↓

 https://kakuyomu.jp/users/432301/news/16816700426103239742



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