第337話 ギルドバトル開始、〈中央巨城〉争奪戦。




「ふふ。ついに始まりますねサターン」


「ああ。我らはこの日のために必死に訓練に臨んだ。すべては勇者を倒すために!」


 スクリーンに映るカウントダウンを見てジーロンが隣のリーダーに振ると、拳をぎゅっと握り締めたサターンが気炎を上げて応えた。


「俺たちがいつまでも弱者のままだと思ったら大間違いだ! 戦力も揃えた。やる気も筋肉もマックスだ!」


 さらに隣にいたトマが同じく気炎を吐きながら両腕の筋肉を盛り上がらせる。


「俺様たちは強くなった。確かに俺様たちだけでは〈エデン〉には勝てぬだろうが、今は心強い仲間がいる!」


 とあるマントを装備したヘルクがバサッとそれを翻して後ろを振り返った。


 そこにはギラギラした嫉妬に狂った目をした仲間たちがいた。

 ちょっと怖い集団だった。


 そしてそのほとんどはサターンたちよりLVが上の上級生たちだ。


 彼らは負けた。サターンたちに。

 上級生なのに、明らかに自分たちよりLVの低かったサターンたちに負けたのだ。

 この世界は弱肉強食。弱いものが下に付く。

 上級生たちが〈天下一大星〉に加わったのは、主に掲げる目標に共感したからだが(打倒勇者を掲げています)、しかし誰がトップを勤めるかは話が別だ。


 そしてサターンたちはLV的にも経験的にも学年的にも格上の上級生と模擬戦をし、見事勝利したのだ。


 実は、それは自分たちが打倒を掲げている勇者のブートキャンプやハードな訓練の成果であった。

 ゼフィルスによるスパルタな教えは非常に効率がよかった。

 サターンたちはあまり認めたくはなさそうであるが、彼らは勇者によって文字通り、学年三強ギルドの一角を担うほど実力を身につけていた。


「くっ!」


 思い出したサターンが苦い顔をする。


 イキって突っかかっていた勇者に育てられたなんてと、サターンのプライドを大きく軋ませるのだ。

 しかし、サターンのプライドは頑丈。

 仮にポッキリ折れても少ししたらすぐにょきにょき伸びてくる。


 一瞬苦い顔をしていたサターンも数秒もすれば元の表情に戻っていた。


 そしてスクリーンのカウントダウンを見てメンバーに振り向く。


「配置に着いたな貴様ら! 打倒勇者の時間だ! 我らはこの日のために辛く苦しい訓練にも耐えてきた! 時には親衛隊に捕まったりもした! 学生指導室で震える夜も過ごした! 最近は周りからの視線にも耐える日々だ! もう我らには勝つしか道は残されていない! 勝てば官軍だ! 勝てばいいのだ! みな、準備はいいか!?」


「「「「おおおおおおおおお!!!」」」」


まっていくぞーーーー!!」


 スクリーンからブザーが鳴り響き、ギルドバトルが開始された。




 初動。

 ゼフィルスがギルドバトルでもっとも大事と常々言っているこの部分。

 当然のようにサターンたちも聞かされていた。


 初動は何より大事。初動をいかによどみなく完璧にことを進められるかで勝利が決まると言っていい。

 サターンたちは以前ギルドバトルでゼフィルスたちにこっぴどくやられた。

 なんというか、相手にもされていないほど簡単に負けたのだ。

 あの経験があったからこそサターンたちは生まれ変わった。


 ゼフィルスに全力で勝ちに行くため、ギルドバトルをたくさん勉強した。

 元々1組に選ばれるだけあってサターンたちはスペックが高い。1組になりおごってしまったが元々スペックはあるのだ。負けず嫌いということも起因して彼らはギルドバトルの戦術をガンガン詰め込んでいった。


 また、自分たちのプライドを砕いてムカイ先生に頭を下げ、教えを乞うたりもした。

 そのために、サターンたちの初動の動きは非常に考えられた戦略へと昇華している。


「目指すは中央だ!」


 〈六芒星〉フィールドは中央に巨城がある特殊な地形をしている。

 故に妨害は意味をなさない。より早く巨城にたどり着いたギルドが有利となる。

 しかし、早く着くだけではダメだ。巨城には防衛モンスターが配置され、さらに特大なHPを持っている。

 もたもたしている隙に相手に掻っ攫われるなんて当たり前、たとえ攻撃していても差し込まれて取られてしまうのも当たり前。


 つまり、どちらが巨城を獲得できるのか、運の要素が非常に高いのが〈中央巨城〉なのだ。


 この運に左右される〈中央巨城〉を獲得する。

 実力的にかなりハイレベルな〈エデン〉に勝つためには絶対に必要なことだった。


 だが、運に頼るなんて戦術ではない。

 当然サターンたちは作戦を練っていた。それが10人突撃だ。


 初動でまず〈天下一大星〉は2つのチームに分かれた。

 〈中央巨城〉を狙う10人と、〈南西巨城〉を狙う5人だ。

 〈南東巨城〉はひとまず放置。距離的にもすぐに〈エデン〉にもって行かれるはずは無いと判断した。

 ここから10人チームは〈中央巨城〉を落とした勢いのまま北へ進行し、まだ残っているなら〈北東巨城〉〈北西巨城〉を狙う。

 5人チームは〈南西巨城〉が終わり次第〈南東巨城〉を落とす作戦だ。


 いくら運の要素が強くても、数で一気に落としてしまえば問題ない、それがサターンたちが考えた作戦だった。


 ゼフィルスが聞いたらあまりの〈天下一大星〉の成長に絶賛したかもしれない。

 いや、困惑の方がまさったかもしれないか?


 そして現在、〈天下一大星〉は予定通り非常に順調な滑り出しをみせ、10人チームが〈中央巨城〉に迫らんとした。

 しかし、〈エデン〉の方が遥かに速かった。


「くっ! もうたどり着いているだと!?」


 残り3マスで到着という場面ですでに〈エデン〉が数人〈中央巨城〉にたどり着いていることを確認しサターンが苦い顔をした。


「ふふ、相変わらず速い。しかし心配ありません。予想通りです。あの人数ですぐ巨城を落とすのは至難。十分差し込めます」


「ああ。―――全員、タイミングを合わせろよ!」


「「「おおー!!」」」


 10人で行動というのは移動速度が遅くなるということでもある。〈エデン〉の方が早く着くだろうというのは想定の範囲内だ。サターンはそう自分に言い聞かせ、全員に指示を送る。


 〈エデン〉がたどり着いた人数は3人。その後ろにさらに3人が追いかけているのが見えるが、タイミング的にこちらの10人が到着するのはそのすぐ後、タイミング的に十分差し込めると判断する。


 防衛モンスターは〈エデン〉が狩り、城へダメージが入り始めるが、やはり3人では落とすのに時間が掛かる。後ろの3人も合流したが、それでも巨城が落ちる前に〈天下一大星〉が到着するだろう。こちらは10人分の火力だ。一斉攻撃をすれば6人対10人で〈中央巨城〉が〈天下一大星〉の方に傾く可能性は高い。


 それにこの10人は〈天下一大星〉の中でも、かなり威力に自信がある者たちの集まりだ。

 【大魔道師】【大剣豪】【大戦斧士】【大戦士】【ホーリー】という1年生でも強力なLVを誇るメンバーに加え、

 【殴りマジシャン】に【暴走魔法使い】、【デンジャラスモンク】と威力だけに特化した2年生たち。

 そしてLV60を突破する【双剣士】【ハンター】の3年生2人を加えた強力な集団だ。

 一斉攻撃さえ決められれば勝算は高かった。


 〈エデン〉の3人が合流。しかし、どうしたのか、動きが鈍い。

 巨城を攻撃しないのだ。

 罠? いや、これはチャンスなのだとサターンの目が光る。


 そしてついに巨城の隣接を取った。巨城は隣接マスからでも攻撃できる。

 サターンが叫ぶ。


「3! 2! 1! 撃てーー!! 『フレアバースト』! 『グレンストーム』!」


「『滅空斬』!」


「『アンガーアックス』!」


「『オーラオブソード』!」


 そして一斉攻撃が開始された。サターンたちが使ったのは三段階目ツリーの〈魔法〉〈スキル〉群だ、この日のためにサターンたちは死ぬほど筋肉を鍛え上げ、LV40に仕上げてきたのだ。

 10人によるタイミングの合った攻撃。〈エデン〉も攻撃を開始したが〈天下一大星〉の方が早い。


「勝ってるぞ! この巨城は我らが落とすのだ!」


 巨城を落とす戦術として一斉攻撃は基本中の基本だった。

 タイミングを合わせて放たれた攻撃は差し込むのが難しい。

 相手に攻撃を差し込まれないよう、攻撃するのなら極短時間ごくたんじかんで落とす。それが理想的な巨城の落とし方だ。つまり、最初に攻撃した方が圧倒的に有利。


 ――ズドドドド、ドガーン、バキッ、ズバァン、ダダン!


 最初に巨城に届いたのは〈天下一大星〉の攻撃たち。

 一斉攻撃によって大きくダメージが入っていき巨城のHPがみるみる減っていく。

 どうなるのか、〈天下一大星〉が勝ち取るのか、それとも〈エデン〉か。


 巨城のHPがみるみる減っていき残り3割を切ったところで、それは起こった。


 ――――ドガーンという爆発音と共に巨城の3割残っていたHPが全損した。


「……は?」


 巨城は保護期間に守られてバリアーが張られ、続くサターンたちの攻撃は全て弾かれる。

 つまり、落としたのは〈エデン〉だった。


 サターンは何が起こったのか分からなかった。




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 作者から後書き失礼します。

 近況ノートに第337話の進行状況イメージ図を添付しました!

 よろしければ見てみてください。

 タイトル:『〈ダン活〉第337話 進行状況イメージ図』

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