第334話 いい? 叩くのは頭よ。私はメイスで叩くわ。




「ゼフィルス! やっと今日という日が来たわね、待ちわびたわよ!」


「おはよう。ラナは燃えてるなぁ」


「何言ってんのよ! 私だけじゃなくみんな燃えてるわ! ゼフィルスを引き抜こうとした罰をきっちり受けてもらうわ!」


 土曜日の午後。

 やってきましたギルドバトル!

 ギルドへ顔を出したら挨拶もせずに開口一番ラナが気炎をあげていた。


 周りを見ると、なるほど女子たちから何か波動が感じられた。みんな本気だ。


 今日の相手は〈天下一大星〉。とある事情でギルドバトルを仕掛けてきた。

 しかも今回は〈総力戦〉だ。

 今まで〈5人戦〉というチマチマした練習ギルドバトルしかしていなかったが、なんと今日は全員参加である。

 まあ本気の理由はそれが原因ではないのだが。


 とにかく仕掛けてきた理由が、彼女たちの癇に障ったらしい。

 珍しくシエラも熱くなっているくらいだ。


「ゼフィルス。早速だけど打ち合わせがしたいのだけど、ちょっと来てくれるかしら。リーナとメルトもいい?」


「おう、問題無いぞ」


「はい。わたくしも構いませんわ」


「こちらも問題無い」


 シエラが軍師と賢者も囲い込み打ち合わせを行う。

 ちなみに【セージ】のミサトはまだ来ていないようだ。


 それにしてもちょっと意外だった。メルトはてっきりミサトと一緒に来るものと思っていたのだが、聞いてみたら納得だ。単純にミサトは福女子寮でメルトは貴族舎に寝泊まりしているだけだった。寮が違うので基本2人は別行動らしい。


 さて、〈エデン〉の頭脳たちが集まっての打ち合わせだ。議題はもちろん今日のギルドバトルの事である。


「まずは頭を叩きましょ。それでいくらかは正気に返ると思うわ。戻らなかったら戻るまで叩きましょ!」


「なんでラナがいるんだ?」


 なぜか最初に話し始めたのは打ち合わせに参加していないはずのラナだった。

 自然と入り込んでくるなぁ。


 というか頭を叩くって比喩ではなく物理の方?


「採用しましょう。頭を叩いて正気に直るか試してみましょう。もちろん直るまでやるのよ」


「あれ? シエラ賛成なの?」


 おかしいな。聞き間違えだろうか?

 しかし、俺の疑問の声はなぜかスルーされてしまう。


「保護期間で逃げられないよう足止めが必要ですわ」


 リーナがまともな意見を述べる。そうだよ、そう言う意見が欲しいんだよ。

 しかし、そう思ったのは最初だけだった。


「抵抗出来ないよう罠を仕掛けましょう。上手く掛かればタイムアップまでずっと叩くことが可能だと思いますわ」


「リーナ、君もか!」


 何? そんなに〈天下一大星〉の頭っ叩きたいの?


「んん。頭を叩くうんぬんはこの際置いておこう。まずは配置や作戦のおさらいからだ」


 この中でまとも枠のメルトがそう言って話の軌道を修正しに掛かる。

 いいぞメルト。頑張れメルト。


「確かにそうね。作戦も無しじゃ前回の〈プラよん〉の二の舞よ。まずは追い詰めなきゃ」


「〈プラよん〉?」


 ラナがとりあえず賛同した。メルトは前回の事を知らないので〈プラよん〉についてハテナマークが出ている。多分、知らなくてもいい事だ。


「こほん。作戦はしっかり練ってあるから。とりあえず資料を配るな」


「その作戦に頭を叩く項目を追加してもらえる?」


 俺は今日のために作製した資料を配って説明していく。シエラまでいったいどうしたのだろうか、とりあえず対人戦の項目に『頭を打っ叩け』の項目が追加された。

 勝利とはなんの因果関係も無い。これって本当に必要なの?


 しかし、〈エデン〉の頭脳人たちはメルトを除いて過半数が賛成なので可決された。

 とりあえず俺も叩くとしよう。えっとグーで良いのだろうか?

 シエラに目配せすると端的に答えが返ってきた。


「私はメイスで叩くわ」


 とても痛そうだ。

 HPが仕事をしなければとんでもない事になるな。

 そのメイスが俺に向かわないことを祈る。


「えっと、それはともかくだ。今回の作戦を聞いてほしい」


 物理で殴るのは作戦とは言わないのでここからが打ち合わせの本番だ。

 今までのはあれだよ。ウォーミングアップみたいなものだよ。


「後で皆にも説明するが、まず今回のフィールドは〈六芒星〉だ。この地図を見て欲しい。まず注目すべきは巨城と本拠地だ。本拠地が北と南の三角の真ん中にある、この位置だな」


 俺は〈六芒星〉フィールドの地図を出して指さして見せる。

 六芒星の形は、六角形をベースに三角形が6つくっついた形をしている。

 そして北の三角形と南の三角形にはそれぞれ本拠地があった。


「見て分かる通り、〈九角形〉や〈菱形〉とは違い、巨城が中央・・にある形をしている。東の三角形に2つ、西の三角形に2つ、そして中央に1つ。計5カ所だ」


 前に見た〈九角形〉、そして経験した〈菱形〉と今回の〈六芒星〉はかなり仕組みが違う。


 ―――何しろ巨城のかたよりが非常に少ないのだ。


 今までのフィールドは東と西で巨城がかなり偏っていた。

 本拠地が東と西・・・にあったために、本拠地側にある巨城が取りやすい位置にあったのだ。


 しかし今回は本拠地が北と南で分かれた。そして巨城は東と西だ。


 確かに北に寄っていたり、南に寄っていたりはするが、〈六芒星〉という特殊な形が進行の邪魔をする。

 つまり一度中央へ出て、回らなくてはいけない。ショートカットで真っ直ぐ行くことが出来ないのだ。

 その分時間が掛かり、相手に差し込まれる危険が増す。


 今回初動で考えるべき点は、まずどの巨城を狙うかだ。




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