第278話 〈六森の雷木ダンジョン〉で伐採ハプニング。




 本日やって来たのは中級下位チュカの一つ〈六森ろくもり雷木いかずちもくダンジョン〉だ。


 辺り一帯が鬱蒼とした深い森になっており、何故か森が電気を帯びている。


「何これ!? 木々がビリビリしてるわよ!?」


「別名〈ビリビリの森〉なんて呼ばれてるからなぁココ」


 ダンジョンに入ったところでラナが代表で驚きの声を上げる。いいリアクションだ。

 まあ初めて見たら驚くよな。俺もゲーム画面では見たことあったけど、実際に見てみると迫力が段違いだ。ある種の感動すら覚える。


「あ、ちなみにあまり木に触んない方が良いぞ、HPにスリップダメージが入るから」


「何? ということはこの木々が罠の類いなのか?」


「爆破、する?」


 所謂地形ダメージってやつだな。火山にいると徐々に体力が減っていくアレと同じ類いのものだ。中級ダンジョンからはこういう地形ダメージも新たに登場する。

 まあ触らなければどうということはない。


 俺の助言にリカが少し警戒したように森を見渡し、カルアが自分の装備している〈爆速スターブーツ〉を見ながら物騒なことを言う。

 〈爆速スターブーツ〉には『罠爆破』スキルが搭載されているからな。


「爆破はしなくていいぞ、切りが無いからな。それにこのダンジョンの樹木は採集すると雷属性を帯びた木材が手に入るから〈採集課〉や〈罠外課〉からすれば貴重な収入源のダンジョンなんだ。入口でそんな金のなる木を破壊していたら上級生から睨まれるぞ」


「うむ、なるほど」


「ん、爆破しない」


 よく見渡せばいろんなところで〈採集課〉や〈罠外課〉の上級生が木々を伐採している。

 俺に言われてそれに気がついたリカとカルア、どうやら木々を見る目が変わったようだ。

 この地形ダメージを与えてくる木は厄介な罠であると同時に収入源の塊でもある。

 ハンナなら目をミールに変えていたかもしれない。


「俺も、少しだけ伐採していくかな。少しだけ待ってて貰えるか?」


「? ゼフィルス何するの?」


 ラナの疑問の声に手を上げてごまかすとバッグから〈優しい採集シリーズ〉の一つ〈優しいオノ〉を取り出した。

 これは先週、俺がリーナと面談していた日にルル達のパーティが〈バトルウルフ〉の〈金箱〉からドロップしてきたアイテムの片方だ。今日はそれを貸して貰っている。

 効果は〈『伐採LV3』『品質上昇LV4』『量倍』〉であり、本来なら初級上位ショッコーまでしか使えないのだが、そこに登場するのが〈三段スキル強化玉〉である。


 〈三段スキル強化玉〉は装備またはアイテムに付与されている〈スキルLV〉を上昇させる効果がある重要なアイテムだ。

 〈サボテンカウボーイ〉撃破の〈ビューティフォー〉現象の時に手に入れたこの〈三段スキル強化玉〉2つを、俺は〈優しい採集シリーズ〉に使う事にした。

 一つは〈優しいスコップ〉、マリー先輩から買い取ったこれを強化し、そして先週ドロップしたこの〈優しいオノ〉も強化した。これで二つとも『採取LV6』と『伐採LV6』に上がり中級上位チュウジョウまで使える一品となっている。


 一応〈優しいピッケル〉も持ってはいるが、今回は保留にしている。今のところ鉱石関係は売却しか使い道が無いためだ。

 その点、ここのダンジョンの雷を帯びた木々は〈六雷樹〉という錬金にも使える素材なので、これを伐採するために〈優しいオノ〉を強化した形だ。


「せーい」


 スコーン、という軽い音と共に〈優しいオノ〉に伐採された木がエフェクトに消え、足下にいくつかの〈六雷樹の木材〉を残した。


「おおう。る瞬間手にビリっと来るなぁ」


 静電気風呂に手を突っ込んだ時の感触に似ていた。ちょっと面白い。

 ちなみにHPもしっかり削られている。


「ちょっとゼフィルス、何それ楽しそうじゃない! 私にもやらせなさいよ!」


「いいぞ。だがちょっと待ってな、後3回くらいやらせてくれ」


「私の次にやれば良いじゃない!」


「いやそこはちょっと待とうぜ!?」


 さすが元わがまま王女ラナ。待てないらしい。

 だが、こんなわがままを言うのはエステルいわく俺にだけらしいので、甘えられていると思えばそこまで悪い気はしない。


 仕方ないので〈優しいオノ〉をラナに渡してあげた。


「ありがとねゼフィルス!」


「おう~。ああ、ラナ持ち方が逆だ、こうやって持ってな。それだとスイングの時上手く振れないから」


「う、簡単そうに見えたのに、意外と難しいわね」


 オノを持つラナの手が怪しかったのですぐに矯正きょうせいする。思い起こせばラナが何か武器っぽい物を持っていた記憶が無いな。意外にも持ち方初心者ってやつだった。


 なんだか重心もフラフラして危険だったので後ろからオノを持って支える。

 少し抱きつくような形になってしまった。ラナの香りが鼻腔を擽る。少し甘い匂いがした。


「うう、なんだかドキドキするわ」


「しっかり集中してくれ、オノを振るうって結構危ないんだから」


 そう諭しながらラナを見ると、振り返ったラナと目があった。

 ほとんど抱きつくような位置に居たため凄く近い。もしかすれば、唇が届いてしまいそうな距離。時が止まったように制止し、目を大きく見開くラナの大海原を思わせる深い青の瞳に吸い込まれそうだった。そして、


「―――あ、あ、あ、あわ!」


「おわっと!?」


 ラナの顔が急速に真っ赤に染まっていったかと思うと、爆発した。


「ラナ様!?」


 慌てた様子のエステルがやってきた。腕の中のラナを渡す。

 〈優しいオノ〉はしっかり回収したので危険は無い。


「きゅぅ」


「ラナ様、お気を確かに!?」


 顔から湯気を出して目を回すラナをエステルが介抱する。


「ん、ゼフィルスは向こう向いてて」


「そうだな。ラナ殿下は少し体調が思わしくないご様子だ。ゼフィルスは向こうでちょっと伐採してきてくれ」


「え、ああ。はい」


 俺もラナの介抱に参加しようとしたらカルアとリカからインターセプトを食らった。

 しかもあっち行っててのおまけ付きで。

 おおう。ちょっとショック。


 まあ、ラナがああなったのは俺のせいみたいなので、ラナが復活するまでの間、大人しく伐採に勤しんだのだった。




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