第272話 敗者〈天下一大星〉が下に付く?いらないよ?
結論から言おう。
2回目の練習ギルドバトルも〈エデン〉の勝利だった。
しかし、その内容は前回とは比べものにならないほど違った。
今回は相手も学び対人戦は避ける、かと思われたが、なんと逆に対人戦を仕掛けてきた。5人全員でこちらを各個撃破する狙いだ。
その戦術は悪くない。
個人で強い相手には数で勝つのが常道だ。
俺とカルアのツーマンセルに戦いを挑んできた〈
その顔は非常に悔しげだったのを覚えている。
よほどギルドバトルに負けたのが
初動が終わり、小城を取りまくってポイント的有利を作り出していく場面。
自陣は俺、カルアのツーマンセル、そしてラナ、シズ、リカのスリーマンセルに分かれて小城を稼ごうとした。
そこに真っ直ぐやってきた〈天下一大星〉は今までとは気迫が違った。
奇襲でサターン君の『メガフレア』。あれは危なかった。まさかちゃんと命中する軌道に乗っているとは、避けなきゃ当たってたぜ。
そして次々飛びかかってくる〈プラよん〉たち。なぜかサターン君まで飛び掛かってきた。あれにはちょっと焦った。完全に予想外の行動だったぜ。
〈プラよん〉たちは今までとはどこかが違った。
なんというか、ちゃんと作戦を練っていたというか、そう、連携をしていたんだ。
俺があれほど口を酸っぱくして言い聞かせた連携を。
うん、実はちょっと感動した。あのサターン君たちが成長してる!
俺の教えがようやく生きたんだ!
そう思った。でもそうじゃなかった。
「サターン君少し右にズレてる! トマ君前へ! ヘルク君はカルアちゃんを絶対逃がさないで! 止めて止めて! ジーロン君下がって、回復するよ!」
司令塔が居たのだ。
白いウサ耳をピョコピョコさせた可愛い司令塔が。
―――こいつら、俺の指示には従わなかったくせに!!
そこでちょっとぷっつんした。
少し、本気を出してしまった。
「『ソニックソード』!」
「ブゥゥゥラアアアアァァ!?」
「サターン君!?」
さっきから少し離れた良い位置で魔法を撃ちまくっていたサターン君を強襲、乱れた連携の隙を使いミサトにカルアを放った。
カルアのスピードに追いつける者はいない。
「やばっ『バリ――」
「遅い。『フォースソニック』!」
「ひゃわ!」
ここでヒーラーのミサトがカルアに狩られて退場、後は動揺している間に挟み撃ちだ。なぜか一人ひとり「そんなバカなー!」と言っていた。それ、流行っているのだろうか?
ともかく〈
まあ、一応情けをかけて退場まではさせなかったが、他の4人はHPをレッドゲージまで削ってあげた。
また全滅させたら練習にならないからな。決して俺らで全滅させたらラナがお怒りになりそうだと思って見逃したわけではない。
その後、ラナ、シズの2人による遠距離攻撃が炸裂し結局全員退場してしまったのだが…、まあそういうこともある。うん。
「くそぉ、一度ならず二度までも!」
「ふふ。これが、敗北の味…」
「遠距離攻撃なんて嫌いだ」
「俺様が負けるだと…そんな…そんなことが…」
練習ギルドバトル決着後、そこには呆然と座り込む4人の姿があった。
ミサトは「たはは~ごめんあまり活躍できなかったよ~」と笑っている。
いや、十分だミサトよ。
よくこのプライドの高い〈プラよん〉たちに指示を聞かせ、纏めたと思う。
正直、さすが【セージ】だと思った。
LV差が無ければ危なかっただろう。
さて、練習ギルドバトルはこれで終わりだ。
時間も押しているのですぐに帰り支度をしてアリーナから退出し、今はFランクギルド舎の近くまで戻ってきていた。ちなみにラナたち〈エデン〉の女子たちは一足先にシャワーに向かっていった。
ラナは今回のギルドバトルを結構楽しんでくれたのが幸いだ。おそらく最後に〈プラよん〉にフィニッシュを決めたのがスカッとしたのだと思われる。
むちゃくちゃ良い笑顔だったからな、あの時のラナ。
そして呆然としていた4人もここまで来てやっと勝敗を飲み込んだのか悲痛な表情だ。なぜそんな表情をするのか俺にはさっぱりわからない。
「くそぉ、ずっとゼフィルスに覇権を握られたまま過ごせというのか!」
サターン君が吠える。
いつ俺が覇権を握ったというのか。身に覚えが無い。
「ふふ、このままではクラスは、いや学年全体が覇王の手に落ちてしまいます」
ジーロン君の言う覇王って誰のことだろうか? まさか俺のことじゃないだろう。俺は【勇者】だしな。
ちなみに〈ダン活〉には覇王の
「これからもあんな暴挙が許されてしまうのか、グッ」
暴挙とは? 俺が彼らにした事といえばダンジョンでの指導くらいだから多分俺のことじゃないだろう。あまりに下手すぎて色々スパルタになってしまったが関係はないはずだ。できればもっとスパルタにしたいくらいなのだが。
「あきらめるな! まだ戦いは始まったばかりだ。今は耐える、しかし俺様たちは絶対に頂点に君臨してみせる! ゼフィルスにデカイ顔させておいて良いのか!」
1人スポコンをしている人が居るな。ヘルク君ってこの中だと比較的まともかもしれない。
本当に、比較的、だが…。
そんなことを思っているとヘルク君の言葉に触発されたのか項垂れる3人の目に炎が灯った。
「そうだ。我らはまだ負けたわけじゃない!」
いや負けたよ? 完璧に負けてたよ?
サターン君の叫びに俺は内心ツッコミを入れた。なんだか茶々入れちゃダメな雰囲気な感じなのでミサトと少し下がって傍観する。
「ふふ、その通りです。僕たちの力はこんなものではありません」
「俺たちにだって伸び
「その意気だお前ら! ゼフィルスの奴に『ぎゃふん、クラスの覇権はお譲りします』と言わせてやるぞ!」
「「「オオー!!」」」
こいつら、俺が側にいることを完全に忘れているな?
まあさっきまで魂が抜けたような表情をしていたからな。
しかし、さっきから言っていた覇王ってやっぱり俺のことだったのかよ。なんかそんな気はしていたけど。
「?」
ミサトが彼らの言うことは本当なの? と言う顔をしてこちらを見てくるが首を振って否定する。
ふむ。風評被害が発生しているのでそろそろやめさせるか。
「ずいぶん好き勝手言ってるな」
“―――っ!!?”
俺が声をかけると4人は声にならない声を上げてビクっとした。
「な、ゼフィルス。なぜここに!?」
「ふふ、まさか今の話、聞いていましたか?」
「最初からそこにいたからな。バッチリ聞こえてたぞ」
俺の答えにサターン君たちが震える。
「お、俺たちをどうする気だ」
「まさか、邪魔者をここで潰す気ではないよな!?」
こいつらにとって俺はいったいどういう存在なんだろうか? 一度問い詰めてみたいと思う。
だが、今はそれよりも風評被害をこれ以上拡大させないようにするのが大切だ。
「さて、ギルドバトルで負けたら、なんだっけ? 下に付くとか言ってなかったっけ?」
“―――っ!!?”
俺の言葉に再びビクビクッとする4人。まさか、考えてもいなかったと言う顔をしていた。どうやら負けることは想定していなかったらしい。さすがプライドが高い。
とはいえ下に付かれても、困る。俺は〈天下一大星〉を吸収するつもりはない。だって困るし。重要なことだから2回。
「わ、我らに何をさせる気だ」
「そうだなぁ…」
俺の言葉にまるで処刑台に立ちギロチンを待つ死刑囚のような顔をするサターン君と他3人。
なぜそんな顔をするのか、本当に俺はどう思われているのか後で問い詰めてやらねばならない。
しかし、それは後回しにして、これだけは言っておく。
「風評被害だから、俺の悪評(?)を口にするのはやめようか。あと、やっぱり俺が言ったことが全然できていないようだから、できるまで練習しようか。安心しろ、できるまで俺も付き合うさ、君たちには特別メニューをプレゼントしよう」
俺はにっこり笑ってそう告げた。
サターン君たちが絶望の表情を浮かべた。
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