第253話 忸怩たる思い。そんなの関係ない新しい道へ。
ヤバい。
〈戦闘職〉に高位職が溢れすぎて「公爵」息女様がまさかの51組に落っこちていてヤバい。
俺らが所属する〈ダンジョン攻略専攻・戦闘課〉、通称〈戦闘課〉は現在、1組から127組まで、大体3,800人が在籍している。
その中で高位職に就いている学生は約1,500人。
1クラスにつき大体30人が在籍するため〈戦闘課50組〉まではほぼ全て高位職で占められている。(筋肉は例外)
つまり、51組のヘカテリーナさんは高位職になれなかった中位職、ということになる。
それでも51組という中位職の中でトップのクラスにいるのだから落ちこぼれと言うほどではないと思うが…。
「ゼフィルス様、中位職に就いた方々はほぼ全てLV0でございます」
セレスタンが俺の心を読んだかのように小声で助言してくれた。
ああ、なるほどと納得する。
学生は5月1日の運命の日まで高位職に就くために奮起する。
5月1日まで中位職の戦闘職はほぼいなかったわけだ。今中位職に就いている人たちはみな5月1日に高位職に就けなかったから中位職になっただけ。
つまり、51組という中位職のトップクラスになったのは
当然ヘカテリーナさんのLVも、
「はい。お察しの通り5月2日、クラス決め時点でLV0でした。あの今はLV8です。授業で〈初心者ダンジョン〉に行きましたので……」
まあそういうことだ。
それで落ちこぼれか。でも納得はできないな。
「いや、別に高位職に就けなかったからと言ってそこまで卑下する必要は無いと思うが」
「いいえ。公爵家として、高位職に至れなかったのは恥です。特に今年は高位職の条件が発見され多くの人たちが高位職に就いたというのに、公爵家のわたくしが就けなかっただなんて、もう恥ずかしくて表を歩けませんわ…」
「そこまでか」
ヘカテリーナさんが両手で顔を覆い首を振る。
マジで? そこまで気にすること? 「公爵」って〈標準職〉でも中の中レベルの
「ゼフィルス様、普通はそうでもありません。しかし、今年は特別な年でした。特にヘカテリーナ様は公爵家息女、人の上に立つ立場のお方であり、ここまでクラス落ちするのは確かに体裁が悪いかと思われます」
「マジで…?」
そういえば俺も
51組という数字は、人の上に立つ公爵家の息女にはかなりキツいらしい。
「はい。補足いたしますと―――」
セレスタンの話では、今まで高位職が少なかったため、たとえ中位職であっても5組や6組くらいにはなれていたらしい、それが突然の51組だ。その衝撃は相当なものだっただろう。実力主義のこの世界ではなおさらだ。
まさか学園の組数にそんな意味があったなんて、初めて知ったぞ。
そして、今の状況の半分以上は俺が招いたこと。
うーむ。中位職と高位職の格差が縮まるどころか広がった気がする。
努力の差と言えばそれまでだが、俺も原因の1人ではあるし、何とかしてあげたい。
とりあえず来年までにもう少し情報をリークしておこう。研究所の人たちには馬車馬のごとく働いてもらおうと決める。
それはそれとして、目下の問題はヘカテリーナさんだ。
「ちなみになんだが、ヘカテリーナさんは何の
ちなみに「公爵」の標準職は【中尉】だ。なんで最初っから【中尉】なんだと聞かれると困るのだが、「公爵」だからじゃないかとしか言えない。
ちなみに【大尉】は中の上の
「えと、はい。【大尉】に就きました。本当は【司令官】を目指していたのですが」
「ああ~、そりゃ難儀だな」
【司令官】はサポート職だ。ダンジョンでは主に仲間のバフを担当するが、その真価を発揮する場はギルドバトルである。『ギルドコネクト』というスキルで遠距離から指示を出し、仲間の動きを良くする事が可能なのだ。
【司令官】はずっと本拠地で指示を出して、バフのフォローで味方を有利にする。本拠地から出ないので対人戦で退場することも無い、そのため敵にいると厄介な
それに比べ、【大尉】はバリバリの戦闘職である。味方のバフもできるが、メインは近接戦闘、アタッカーだ。剣、斧系を主に使用する。
ヘカテリーナさんの見た目からして、とても似合わない。いや、見た目で判断してはいけない。もしかしたら戦闘は得意かもしれないし。
「ちなみに近接戦闘は?」
「そ、その。からっきしですの」
まあ、うん。そうだろうな。見た目完全にお嬢様だし、争いとか全然イメージ出来ない。
「なんで【大尉】を選んじゃったんだ? 普通の一般職とかにすればよかったんじゃないか?」
「う、家のしがらみで」
あ、察し。
おそらく公爵家が「公爵」のカテゴリーで取得出来る
本当に難儀である。
なんだかヘカテリーナさんが可哀想になってきた。
この1週間アポイントに返事が無かったのは、単純に自信喪失で自分に自信が無かったからのようだ。
そりゃあ、どう考えても使いこなせない
後から聞いた話では、セレスタンが何度もヘカテリーナさんを説得し、ようやく重い腰を上げて来てくれた様だ。何にも知らなくてごめんな。
「あの、こんな私ではやっぱりダメですよね。何故私に声を掛けてくれたのか疑問でしたが単純に知らなかっただけのようですし、今日はこれでお暇させていただきますね」
「待て待て待て。まだ何も始まって無いし終わってもないぞ。まだ状況確認しただけじゃないか」
「ですが、こんな私に価値があるでしょうか! もう結果は決まったようなものではないですか! …あっ」
ヘカテリーナさんが悲痛に叫び、思わずと言った様子で口を押さえた。どんより顔が暗くなり涙まで溜め始める。
相当溜まっていたのだろう。人生が掛かった
俺は一息吐いた。
まあ、今のままじゃ絶対に〈エデン〉には入れないだろうな。
影の差す表情のヘカテリーナさんを見てそう思う。これではダンジョンを楽しむどころではない。俺のモットーはダンジョンを楽しめだ。楽しめないなら〈エデン〉に入れることは出来ない。
では、この面接を続ける意味はヘカテリーナさんの言うとおり無いとなるが、それは「このまま」では、だ。
ダメなら変えればいい。
嫌なら、〈転職〉すればいい。
この世界の人たちは何故か〈転職〉を嫌がる。「もし転職して人生詰んだらどうする!? LV0になるんだぞ!?」、そんな感情がこの世界の人たちには強く根付いているのだ。故に〈転職〉するなんて発想すら浮かばないという人は多い。学園を出ればダンジョンに入れる機会は大幅に減るらしいのでその感情もわからなくは無い。
『30歳になってようやく希望の
じゃあ、最初から人生が真っ暗な人はどうだろうか?
〈転職〉を嫌がるだろうか? 相性最悪ながらもせっかくLV15まで育てた
しかし、ヘカテリーナさんはまだ16歳だ。しかも入学ほやほや。
だからこそ俺は迷わず提案する。
「ヘカテリーナさん、ここに〈下級転職チケット〉がある。俺はあなたを〈転職〉させ、理想の
俺はそう言って〈下級転職チケット〉を取り出してテーブルに置いた。
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