第252話 「公爵」の人種カテゴリー。公爵令嬢は劣等生。




 初の中級ダンジョン攻略を遂げた翌日、今日は日曜日だ。

 本来ならワクワク楽しみ1日ダンジョンアタックの日ではあるが、今日の俺には予定があった。

 セレスタンが纏めてくれた「人種」カテゴリー「公爵」との面談の日である。


 そのため今日は俺とセレスタンを抜かした10人の女子たちで女の子パーティを作ってダンジョンに挑むらしい。女の子パーティとか響きがいいね。


 昨日はあの後ボス周回に励んだ。

 5時間近くボス周回しまくったが周回数はたったの20周だ。さすが中級ダンジョンボス、初級ボスと比べてかなりの時間を要した。


 まあ〈ダイ王〉が特別硬いモンスターというのもある。俺たちのLVが上がればもう少しタイムは縮まるだろう。

 最後の方はメンバー全員のLVも上がって10分を切るタイムをたたき出したしな。


 ちなみに俺たちのLVも全員が55に上がった。少しずつLVが上がるスピードが下がってきているのを感じる。


 〈上級転職チケット〉についてはLVカンストまで保留とし、俺が預かることになった。

 どうも近くにあると魔が差さないとも限らないからというのが理由らしい。シエラが真剣な表情で言っていたのが妙に印象に残った。

 この世界ではそれほど〈上級転職チケット〉は希少である、と言うことだな。

 俺はカンストまでLV上げてからチケットを使うのが当たり前だったので分からない感覚だ。


 成長値LVをロストしたら勿体無いではすまない、〈ダン活〉にはリセットはあっても戻るは無いのだ。貴重な〈上級転職チケット〉を使うなら万全の体制にして挑むのが当然だと思う。

 そんな俺に預けておけば安心だとのことだ。シエラは見る目あるなぁ。


 ちなみに20周では〈上級転職チケット〉は出なかった。というより〈金箱〉すら出なかったよ。やっぱり最初のあれはビギナーズラック的なものだったのかね。

 まあ20周程度でチケットがゲットできるとは俺も思っていない。今後も周回頑張るぞ!


 そんな意気込みを改めてしていると、件の待ち合わせ場所に到着した。


「ゼフィルス様、こちらでございます」


「ご苦労、セレスタン」


 俺も執事のご主人様が板についてきた。嘘だ。それっぽく振る舞っているだけだ。


 何しろ相手は「公爵」子息。あれ、息女だっけ? そういえば性別どころか相手のことを何も聞いていないことを思い出す。

 ………まあいい。とにかく威厳を保ちたいという話だ。

 俺は今や1年生トップギルド〈エデン〉のギルドマスターだ。


 威厳とても大事。


 そこはとあるラウンジの個室だった、ここで面接をすることになっている。

 待ち合わせ時間は20分後、相手はまだ来ていないのでここで準備しながら待つ形だ。

 さすがセレスタン、良い時間配分だ。あとで改めてお礼を言っておこう。


 しばらくするとコンコンコンとノックの音が響いた、どうやら件の方が来たようだ。


「どうぞ」


「失礼いたしますわ」


 聞こえたのは鈴が鳴るような透き通った声、女子のようだ。

 壁一枚挟んでもとても声が耳に残る聞き取りやすい声だった。

 ふむ。求めているのは指導役としての素質。聞き取りやすい声というのは重要な要素だ。

 第一印象は高評価だな。


 ガチャリと扉を開けてまず飛び込んできたのは淡く美しいラベンダー色の髪。

 フワッとした柔らかさで艶めいていて見ていて引き込まれるようだ。さらに彼女はその一部を縦ロールにして背中側に流している。それがなんとも似合っていた。

 次に印象深いのは目、やや釣り目で髪と同じ色合いで綺麗な瞳をしていた。顔も非常に整っており、〈エデン〉で美少女慣れをしている俺でなければうっかりときめいてしまうほどの美少女だった。


 そしてよく見れば髪飾りに見覚えのある〈地図のラバーキーホルダー〉が付いている。あれが「人種」カテゴリー「公爵」の〈シンボルマーク〉だ。男なら胸かベルト辺りに着けているが、女子だと髪飾りに着けている事が多い。


「御初にお目にかかります。わたくし、へカテリーナと申します。本日はよろしくお願いいたしますわ」


「ギルド〈エデン〉のギルドマスターをしているゼフィルスだ。まずこちらのスカウトに耳を傾けてもらい感謝する」


 お互いがまだ堅さの残る挨拶を交わす。

 へカテリーナさんか、なんというか、いいところのお嬢様という雰囲気だ。

 なんか緊張してきたな。

 いや、俺だけじゃなくてへカテリーナさんも緊張しているみたいだ。堅くなりすぎてもなんなのでまずは空気を柔らかくするか。


「あ、楽にしてくれていい。所詮は学生の顔合わせだからね」


「そうでしょうか? 分かりましたわ」


「それでまず聞いておきたいのだけど、へカテリーナさんはギルド〈エデン〉に加入してもいいということで、問題ないかな? できれば理由も聞いておきたいのだけど」


 これはしっかり聞いておきたい。へカテリーナさんがどんな心持で〈エデン〉に入ろうとしているのか。

 分不相応のギルドは身を滅ぼす。生半可な気持ち程度なら加入しない方がお互いのためだ。


「い、いえ。その、加入しても良いだなんてそんな偉ぶったこと申し上げられません。わたくしはその、あまりできがよくありませんので、むしろお声をかけられたこと自体信じられなくて1週間も悩みぬいてしまいましたの」


 うん?

 どうやら、彼女にとって何故自分にスカウトが掛かったのか、分からなくてビックリさせてしまったらしいが…。

 あー、うん? この人「公爵」息女だよな? 優秀な「人種」カテゴリーだぞ? スカウトするのは当たり前だと思うのだが、なんか話の食い違いを感じる。


「ゼフィルス様。差し出がましいようですが彼女がまだギルド未所属ということを念頭に置いていただければと」


「あ」


 そこでセレスタンがアドバイスをくれたことでようやく俺は察した。

 へカテリーナさんも察したのだろう、顔が真っ赤になる。

 優秀な人材のはずの「公爵」息女、優秀な人材はどこのギルドも引っ張りだこのはずだ。

 にも関わらず、学園が本格的にスタートして早10日、未だにどこのギルドにも所属していないと言うことは…、どこからもスカウトが来ていない? え、それってつまり……。


「えーと、へカテリーナさん、1つ聞いてもいいか?」


「は、はい…」


「へカテリーナさんって、何組?」


「!」


 俺のストレートな質問にピシッと固まるヘカテリーナさん。

 どうやら触れて欲しくなかったところに触れてしまったようだ。しかし、これは面接をするうえで非常に大切な事項。避けることはできない。


 少しして再起動したヘカテリーナさんは観念したのか、小さい声で震えるように告げた。


「――し、知らなかったのですね。……はい。わたくしは、せ、〈戦闘課51組〉。公爵家の落ちこぼれなのですわ…」




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