第247話 徘徊型の宝箱はレアボスと同等の価値がある!




「今回は反省点が多かったわ」


「そうだな。特にエステルがダウンしたときの対応がな。俺も慌てていてうっかり忘れてた」


 ボス戦終了後、ちょっと勝ちどきを上げて勝利の余韻に浸った後、シエラがおもむろに反省会がしたいわと言い出した。

 確かに今回のボス戦は遭遇戦という事情を加味してもうっかりミスが多かった。


「あの、すみませんでした」


「いいのよ。ミスは誰にだってあるもの、それを反省して次に生かしましょう」


 しゅんとするエステルにシエラが励ます。

 エステルがミスったのは仕方が無かった。

 もっとちゃんと打ち合わせや情報共有をしていたら防げていたのだろうが、今回は幸か不幸か21層に着いて初のモンスターがいきなり徘徊型ボスだった。


 一応軽く〈ジュラ・レックス〉について教えていたし、注意点も伝えていたが、本格的な話は道中にでもするつもりだった。そのせいでメンバーは情報が不足していたなかボスと戦闘することになってしまった。

 俺もまさかこんなに早く現れるとは思っていなかったんだよ。

 徘徊型Fボスが出現するのは下層。〈丘陵の恐竜ダンジョン〉なら21層から29層に出没する。

 普通なら大体23層から27層くらいに出ることが多いので完全に油断していた形だ。反省。


「私も〈ユニークスキル〉を使わなかったもの。あの時は使うタイミングだったわ。はぁ」


 シエラがため息を吐く。


 シエラが言っているのは、エステルがダウンを取られ〈ジュラ・レックス〉のタゲがダウンして無防備になったエステルに向いた、あの時のことだ。

 シエラはあの時、エステルとの間に入って行く手を阻み、エステルが復帰するまでの時間を稼いだ。あれはあれで正解だと思う。結果は出したのだし。


 しかし、シエラの〈ユニークスキル〉『完全魅了盾』はタゲ強制固定。

 つまり誰にタゲが向いていようと、強制的にシエラにタゲを向かせることが可能なスキルだ。あの時〈ユニークスキル〉を使っていれば、そもそもエステルがピンチになることも無かったのである。

 シエラは使うタイミングをのがしたことを反省しているようだ。


「ダメね。私の〈ユニークスキル〉は使うタイミングがかなり限定的で、まだ慣れないわ」


「ま、仕方ないさ。徐々に慣れるしかない」


 当たり障りの無い励まししかできないのが口惜しいが、こればっかりは意識していないととっさには出せない。

 シエラの〈ユニークスキル〉を使うタイミングは中々難しい。口で説明されるより自身が慣れるしかないのだ。

 それにシエラの『完全魅了盾』が真に輝くのは上級ダンジョンで装備が整ってからなので、それまではあまり出番が無いのも仕方ない。その代わり、上級ダンジョンでは嫌と言うほど使わせてやるから覚悟しておけよと。心の中でそうほくそ笑む。


 と、そこへラナがやってきた。腰に手を当てて、私少し不機嫌ですとポーズを取っている。どうかしたのか?


「ねえ、反省会は後でもできるじゃない。まずは宝箱を開けましょうよ! ハンナも待ってるわよ」


「おっとそうだな。せっかくダンジョンに来ているんだし、反省会は帰ってからでもできるしな。いいかシエラ?」


「そうね。帰ったら付き合ってくれる?」


「もちろんだ」


 シエラとそう約束を交わし、ボス撃破報酬の宝箱を開けることにする。


 Fフィールドボスは〈公式裏技戦術ボス周回〉が使えない代わりにドロップの種類が少ない。レアボスみたいなものだな。ドロップするアイテムは多くがノーマル品だが…。

 しかし、Fボスの中でも徘徊型は討伐難易度が格段に高いため、守護型よりドロップのレア度が高い。

 最奥のボスで言うなら守護型が通常ボスドロップだとすれば、徘徊型はレアボスドロップ並の価値がある。

 何しろ徘徊型は逃げるせいで中々倒せないからな。それに単純に強いし、パーティを全滅させる回数も圧倒的に多いので報酬もその分高いのは妥当なところだろう。


 つまり何が言いたいのかというと、今回の報酬が楽しみだってことだな!


「さて、誰が開けるか」


「「はい!」」




 さて、目の前にはキラキラに耀く〈銀箱〉が鎮座している。しかも2つも。


 徘徊型はいくらレアボス並のドロップを落とすとはいえ、レアボスでは無いため普通は1個しか宝箱を落とさない。つまり2個あるのは〈幸猫様〉のおかげだということだ!

 〈幸猫様〉ありがとうございます!


 色々悶着があったのを省略し、今回はエステルとハンナが開けることになった。


 さあ、レアボス並の〈銀箱〉です。中身は何かな!?


 まずハンナから行く。


「良い物ください〈幸猫様〉!」


 〈幸猫様〉にお祈りをした勢いでパカッと開く。

 この勢いも良い物を当てるには重要だ(?)。ハンナは宝箱をよく分かっている。


「これは、玉?」


「おー、装備強化用の〈装備強化玉〉だな」


 ハンナが当てたのは中級ダンジョンからドロップし始める、装備を強化するための必須なアイテムだった。

 これを素材にして【鍛冶師】なんかに頼むと武器を強化してくれる。〈天空の剣〉なら〈天空の剣+1〉といった感じだな。まあ、他にも色々と素材は掛かるのだが、強化するために一番必要なのがこの〈強化玉〉だ。これが無いと、いくら他の素材が揃っていても強化できない。


「なんかいっぱい入ってるよゼフィルス君!」


「そりゃ入ってるだろうな。多分ハンナが当てたのは〈装備強化玉×7個〉だ。かなりの当たりだな」


 7個となると多いように感じるが、ギルドメンバーを育成しようとすれば速攻で無くなってしまう数でしかない。もっとたくさん欲しいな。


「次は私ですね。ええと、〈幸猫様〉お願いいたします。良い物を授けてください」


 続いてエステルの番。俺も〈幸猫様〉に祈る。


「「あ」」


 宝箱を開くと、ハンナとエステルの声が重なった。


「あ~。俺の祈りが届いちゃったか、な?」


 エステルの〈銀箱〉に入っていたのは、〈装備強化玉×7個〉。

 ハンナの時とまったく同じ物だった。つまりダブり。

 あれか? 俺がもっとたくさん欲しいって思ったからか? うん。とりあえず〈幸猫様〉ありがとうございます!


 たまにはこういうこともあるよな。




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