第245話 巨体が跳ぶ。〈フライング・恐竜・キック〉!




 徘徊型ボスは最奥への行く手を阻む妨害型モンスターだ。

 大体の場合、下層付近に出現し、プレイヤーたちに試練を与えてくる。

 今のように、陰から様子を窺い、突如として襲い掛かってくることもあるのだ。


 ゲームの時はチュートリアルで、「ちょっとあの木陰が気になるから見てくるよ~、ギャー!?(断末魔)」ということもあった。あのイベントには笑わせてもらったなぁ。


 徘徊型ボスはかなり強い。突如として現れればパーティが全滅することも珍しくはない。

 しかも徘徊型は階層を移動できるため逃げても追って来るのだ。さすが試練。逃げるが勝ち戦法は使えない。

 逃げた先でまた奇襲なんてされたらたまらないので、徘徊型ボスは出会ったら狩るのがセオリーだ。


 しかし、徘徊型ボスの厄介なところは奇襲やその強さだけではない。

 自身が大きくHPを削られたら逃げようとするのも徘徊型ボスの特徴だ。逃げた先で食事をしたり、睡眠をとったりしてHPの回復を図り、そして再度襲ってくる。

 故に逃がさないよう倒しきる戦術が求められる。


 今回のボスは〈ジュラ・レックス〉。

 タフな防御力に、非常に威力の高い物理攻撃を繰り出すステータスに特化した強力なボスモンスターだ。

 物理攻撃に非常に強い反面、魔法攻撃には脆い弱点があるため、タンクがタゲを受け持ち後衛が魔法で倒す戦術がセオリーだな。


「タゲを取るわ! 『オーラポイント』! 『ガードスタンス』!」


「バフを掛けるわね! 『守護の加護』! 『聖魔の加護』!」


 シエラがヘイトを稼ぎ、ラナが防御力と魔法力を上げるバフを全体に掛けた。


「ラナ! こいつの攻撃力はかなり高い、シエラのHPをよく気に掛けておいてくれ!」


「了解よ!」


「援護するね! 〈筒砲:エアロ〉!」


 ハンナが取り出したのは下級魔法レベルの弱いダメージを与える筒砲だった。風の塊のようなものを撃ち出す攻撃アイテムだ。

 ダメージが弱い代わりに回数が多く、連射が可能なため牽制などに有効だ。

 ハンナはそれを〈ジュラ・レックス〉に向け、パパパン、パパパン、と3点バーストの要領で撃っていく。

 しかし、


「ふえっ!? 全然意に介さないよ!」


 〈ジュラ・レックス〉はハンナの攻撃なんて痛くも痒くもないようで、まったく気にした様子もなくシエラへの突撃をやめない。むしろ視線すら向けなかった。

 ハンナがガーンとショックを受ける。〈ジュラ・レックス〉が固すぎたんだ。


「ハンナ! 〈マホリタンR〉を飲んで魔法攻撃にチェンジしろ」


「うん!」


 突然の遭遇にハンナは〈マホリタンR〉をまだ飲んでいなかったのでそう指示を出す。


 それと同時に〈ジュラ・レックス〉がシエラに衝突する。


「グギャララララ!」


「『城塞盾』!」


 シエラが物理特化型の防御スキルで対応する。

 しかし、


「ぐっ」


 シエラから苦悶の声が洩れた。HPは防御スキルのおかげでほとんど削られてはいないが、衝撃はかなりのものだったようで、シエラの足が2歩下がる。

 しかし、〈ジュラ・レックス〉の足がそこで止まる。


「ナイスシエラ! 『ライトニングバースト』!」


「グギャララララ!」


 俺は〈天空の剣〉に持ち替えて、上級魔法を放つ。前にゲットした〈エナジーフォース〉の効力もあって中々のダメージが出たはずだ。


 今回の〈ジュラ・レックス〉は防御力が高い。〈滅恐竜剣〉での物理攻撃より〈天空の剣〉による『ライトニングバースト』の方がダメージが入るため、今回は〈天空の剣〉を採用した形だ。

 なお、戦闘中何度も換装してその都度使い分ける所存。面白くなってきたぜ!


「グギャララララ!」


 〈ジュラ・レックス〉がスキルを使い始めた。〈ジュラ・サウガス〉も使っていた『頭打あたまうち』でシエラをガンガン叩く。


「シエラ! 大丈夫か!」


「任せて。さっきは予想より強かっただけ。来ると思っておけば大丈夫よ」


 シエラの言うことに間違いはないようで、『頭打あたまうち』を完全に防ぎきる。

 さすがシエラ、最高のタンクだ。


「隙を見て随時攻撃せよ! 『シャインライトニング』!」


「はああ! 『ロングスラスト』!」


「『聖光の宝樹』!」


「『フレアランス』! 『アイスランス』!」


「グギャララララ!」


 初めてのボス相手なので様子見しつつ、少しずつダメージを稼いでいく。

 〈ジュラ・レックス〉はこれまでのボスよりトップクラスに攻撃力の高いボスだ。

 不意の一撃には十分に注意したい。

 VITの低い後衛組だと、一撃で戦闘不能になる可能性もある。というかハンナは間違いなく一撃でノックアウトだろう。

 幸い〈ジュラ・レックス〉に大きめの範囲攻撃は無いので狙われなければ大丈夫だ。


 それがフラグになったのか、戦闘が安定してきて油断ができたのか、それは起こった。


 〈ジュラ・レックス〉がバックステップで大きく下がる。この動作は知っている、〈ジュラ・レックス〉が放つ攻撃の中でも最も威力のある『フライング・恐竜・キック』だ。所謂ドロップキック(恐竜風)。一度下がるのは予備動作の証で、続いてるのはあの巨体から繰り出される重い跳び蹴りだ。

 知っている者からすれば避けるのは簡単なものだが、初見だとある間違いを起こしやすい。

 そして、それに引っかかった者がいた、エステルだ。


「! エステル戻れ!」


「!」


 敵が引くと、思わず追いかけたくなるのが当然の心理。

 事前に教えていたし、注意もしていたのが、エステルがうっかり〈ジュラ・レックス〉を追いかけてしまった。

 俺の掛け声に慌ててエステルが止まるが、そりゃ思いっきり悪手だ。

 止まッちゃダメだ、避けなくては! しかし、時すでに遅し、シエラの『カバーシールド』も間に合わない。巨体を震わせた〈ジュラ・レックス〉が、跳ぶ。


「グギャラァァァ!」


「きゃあ!」


 結果、直撃。

 エステルが大きく吹っ飛ばされ、HPが一気に4割以上も減ってダウンした。


 〈ジュラ・レックス〉のタゲがダウンしたエステルに向く。





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