第221話 〈ダンジョン門・中級下伝〉怯える2年生達。




「ここが〈ちゅうダン〉? 初ダンとそんなに変わらないわね」


「ああ。中級ダンジョンの入口である門はその位階毎に3箇所に分かれて配置されているからな。ここは中級下位ダンジョンが10門あるだけの〈ダンジョン門・中級下伝〉通称:〈中下ちゅかダン〉だ」


 ラナが初ダンそっくりの建物を見て頭にハテナを浮かべて聞いてきたのでそれに答える。


 まあ、ゲームなのであまりに別物にするとプレイヤーが混乱するため同じ規格の建物となっているわけだ。唯一違うのは建物の色合いとデカイ表札くらいだな。ここの表札には〈ダンジョン門・中級下伝〉と書いてある。

 ちなみに初ダンの方にもちゃんと〈ダンジョン門・初伝〉と描かれた表札が飾ってあるぞ。



 俺たちは朝のミーティングを終えてその場で解散した後、その足でこの〈中下ダン〉に来ていた。

 皆の装備やアイテムも問題なし。アイテムはハンナが張り切って生産しまくったのがたくさんあるからな。


「楽しみね! 早速入りましょ!」


 ウキウキとしたラナが先頭で建物に入り、俺たちも続く。


「お、1年生か。ひょっとしてギルド〈エデン〉か?」


「誰よあなた」


 俺たちも建物に入るとラナが作業服の男性に呼び止められていた。

 楽しみだったところに水を差されてラナがそっけない態度を表す。


「はっはっは。俺はゼゼールソン、ここ中下ダンの説明係とでも思ってくれ」


 どうやら〈中下ダン〉を管理する職員の方のようだ。

 そういえばゲームでもいたな。各〈ダンジョン門〉にはこうしてダンジョンの中の情報を教えてくれる人材が配置されている。

 聞けばそのダンジョンの特徴や攻略するのにオススメの職業ジョブなどをアドバイスしてくれるのだ。


 一応初ダンにも配置されていたが、俺たちとはタイミングが合わなかったのか一度も会わなかったな。まあ、会っても聞くべき事はないのだが。俺が知っているし。


「まさかもう1年生がここに来るとはなぁ。期待の星だ。何か中級下位チュカで聞きたい事があれば遠慮なく聞いてくれ。答えられるものなら教えてやれるぞ」


「そうなの? 私たちはこれから〈丘陵の恐竜ダンジョン〉に行こうと思っているのよ。どんなところなの?」


 おいラナ、俺の説明役を取らないで?


「〈ジュラパ〉かぁ。あそこを最初に選ぶとはつうだな。モンスターが強いから入る学生は少ないが、罠はほとんど無いから腕っ節さえ自信があればオススメのダンジョンだ。【筋肉戦士】とかメンバーに入れておくといいぞ」


 いえ、【筋肉戦士】は結構です。


 ちなみに〈ジュラパ〉とは〈丘陵の恐竜ダンジョン〉の別名〈ジュラシックパーク〉の略だ。ここのダンジョン門中下ダンなら〈ジュラパ〉で通じる。


「ふーん。ゼフィルスが言っていたのとほとんど同じね。ありがとね、えっとゼルソーン?」


「はっはっは。ゼゼールソンは言いにくいよな。好きなように呼んでくれ」


 説明役の方が大らかなようでよかった。ラナの失礼な言葉にも嫌な顔一つせず流している。大人だ。

 それからいくつか出てくるモンスターなどを聞いたのち、出発することになった。


「がんばってこいよ1年生! 応援しているからなぁ」


「誰に言っているのかしら、私は負けないわ!」


 ゼゼールソンさんの激励を受けて、ラナが燃えていた。

 それを見守りながら横にいるシエラと話す。 


「あの人が優しい人で良かったな。もし俺に聞けなかったらあの人にダンジョンのことを聞くといい」


「そうね。でも私はあなたからダンジョンの事を教わりたいわ」


「そ、そうか?」


「ええ。だからそんな落ち込まないでよ」


「お、おう」


 励まされてしまった。なんだか少しドキッとする。

 俺はしょんぼりしていたのだろうか。していたのかもしれないな。

 シエラに励まされて少しやる気が向上した。


「でも、不思議な所ねここ。初ダンとそっくりな作りなのに雰囲気が少しピリ付く感じがするわ。それに視線も集めているわね」


 シエラの視線の先には多くの上級生がいた。ほとんどが2年の男子学生のようだ。

 ここにいるということは、ほとんどがEランクギルドの学生だろう。

 1年生に追いつかれ、内心恐々としているんじゃないか? 少し耳を澄ましてみよう。


「ひぃぃ! い、1年生だ! 1年生が登ってきたぞ!」


「落ち着け。まだ抜かされると決まったわけではない。冷静になるんだ」


「お、おれ。入学1ヶ月の学生に抜かされるのか…」


「いやだぁ! 1年生に抜かされるのはいやだぁ!」


「せめて後1年待ってくれぇぇ。その頃には俺もDランクだからぁ!」


「いや、あれはギルド〈エデン〉だ。多分Dランクでも抜かされてると思うぞ」


「ひぃぃ! なんでぼくはあと1年遅く生まれなかったんだ! そうすればぼくだって高位職に就けていたかもしれなかったのに!?」



 ふむ。軽い阿鼻叫喚といったところだろうか。

 むっちゃ嘆いていた。

 今年の1年生は俺がリークしたおかげで高位職の発現率が3割を超えるらしいからな。

 学生数で見れば大体2,000人ほどが高位職に就いている。


 2年生としては迫ってくる1年生集団に戦々恐々だろう。もしかすれば1年後には勢力図が逆転し、今の2年生が格下扱いされているかもしれない。

 1年後、下の学年に劣る最上級生の出来上がりだ。就活に多大な影響を与えてしまう!


 端的に言って非常にピンチな2年生。いや、ピンチなのはサボっていた学生だけだな、さすがに1年のアドバンテージがあるのだから真面目に努力し続けた2年生なら大丈夫だろう。今Eランクギルドにいる2年生は、ちょっと努力が足りていない。

 他人事だが頑張れとしか言えない。恨まないでくれよ。


 俺は耳を澄ますのを止め、燃えるラナたちと一緒に目的のダンジョン門に潜ったのだった。




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