第180話 まさかのツモ!〈デブブスペシャル〉現る。




「あ、あ~こりゃあ運が良いのか?」


「〈デブブ〉がいないわね…」


「ゼフィルス君これってやっぱり」


 〈幽霊の洞窟ダンジョン〉の救済場所セーフティエリアでまったり休憩して、さあ行くぞと門を潜ったところで俺たち一行の足が止まった。

 そのボス部屋の主のはずの〈デブブ〉が見当たらなかったためだ。


 それなのに転移陣は起動しておらずボスが倒されて放置された様子もない。

 となると考えられることは1つしかないわけで。


「ああ、こりゃレアボスをツモったな。マジか、レアボスをツモる確率なんてすげぇ低いはずなのに」


「ゼフィルス、レアボスとは本当なのか? あれは滅多に見られない現象と聞いたのだが」


「間違いないな。俺たちはもう何度もレアボスに遭遇しているし、見間違うはずもない」


「ん、レアボスって何?」


「知らないんかい」


 リカが俺の答えに気を引き締めたのに対しカルアは首を傾げる。レアボスを知らない、だと?


「要は普通より強いボスよ! なんか進化した感じの奴が出るわ」


「…まあ、そんな感じだな。大きくは間違ってない」


「ん。わかった」


 知らないのならば俺の出番だ、っと思ったところでラナに先に説明されてしまった。そんなー。


 だが、これは知らないだろうラナ。その説明する役、返してもらうぞ。


「ここの本来のボスは〈デブブゴース〉道中にも説明したデブの〈ゴースト〉で、主に物量攻撃で攻めてくる難敵だった。だが、それに輪を掛けて難敵度を上げたのがそのレアボス、〈デブブスペシャル〉だ」


 俺の言葉が終わると共に奥が光り出す。レアボスポップのエフェクトだ。

 そして徐々に現れるデブ…、では無く筋肉もりもりのマッチョなゴースト、〈デブブスペシャル〉。相撲レスラーみたいな太めの体格をしている。


 別名:〈真の筋肉殺し〉や〈お祭り好きのマッスルデブブ〉なんて呼ばれている。

 通称は〈デブスペ〉だ。


 【筋肉戦士】の自慢の筋肉が通用しない〈幽霊ゴースト特性〉を持つだけではなく、自慢の筋肉すらも超える超筋肉もりもりマッチョ体型!

 かの【筋肉戦士】たちもその筋肉には勝てず、筋肉負けして戦意喪失した話が学園で大きな波紋を生んだのは記憶に新しい。



「〈デブブスペシャル〉は〈デブブ〉の強化版だ! 〈チビゴースト〉を『分裂』させてくるだけなく本体も物理で攻撃してくるぞ! しかも、本体に反撃すると〈チビゴースト〉のヘイトを大きく稼いで群がられるからその間後衛は本体に攻撃しないよう十分に注意! 〈チビゴースト〉に関しては〈デブブ〉の時と変わらない、力を蓄えて『融合』される前に全部蹴散らせ。行くぞ!」


「「「「おー!」」」」


 少ない時間で最低限の説明だけ伝えて戦闘開始だ。



「ケッケッケッケッケッ!」


 〈デブブスペシャル〉がその筋肉をモリモリさせてゆっくり動き出す。


「まず総攻撃から! ラナは本気出すとヘイトオーバーするから始めは中級魔法のみで行け!」


「分かったわ! 『聖魔の加護』! 『光の刃』!」


「『セイントピラー』!」


「『投刃』!」


「ゲッケッケ、ケケケケケ!?」


 まず第一手、〈チビゴースト〉を出される前の貴重な時間に大量の攻撃を与える。

 ここは通常の〈デブブ〉戦と変わらない。


 ラナが魔法力上昇のバフを使って底上げし『光の刃』を放つ。ここでラナに本気で行かれると、INT含め〈エデン〉で魔法トップを誇るラナがヘイトを稼ぎすぎてしまうため抑え気味にしなければならない。

 でなければあっという間に〈チビゴースト〉と〈デブブスペシャル〉に群がられて戦闘不能になってしまうだろう。


 続いてハンナの中級聖魔法が飛んだ。

 現在ハンナは先のレアボス、〈陰陽次太郎〉の〈金箱〉産〈魔払いの聖扇子〉を装備している。やっぱり〈幽霊ゴースト〉の弱点といったら聖属性なので、今だけ装備を換装している形だ。〈マホリタンR〉に加え、弱点属性の攻撃によって〈デブブスペシャル〉のHPをガクンと削る。それでもラナの『光の刃』とどっこいくらいの威力なのが少し辛いけどな。本職には勝てんよ。


 ちなみにだが〈爆弾〉系アイテムはまだ調整中で使えない。ハンナが猛練習しているがボス戦で使える物にまだなっていないためだ。こちらは要練習だな。

 なので今日のハンナは魔法アタッカー担当である。


 さらにカルアの『投刃』も飛ぶが、こちらは物理なのでほぼダメージ通らず。


 そしてその間に俺とリカがボスまで駆ける。


「ケッケッケッケッケ! ボボボボボボボボボボボボ!」


 出たな、第1のステップ。〈チビゴースト〉の『分裂』だ。通常の〈デブブ〉とは違い〈デブスペ〉は一ステップ毎に12体の〈チビゴースト〉を出してくるので手ごわい。


「予定通り俺が〈チビ〉引きつけるから、リカは本体を頼む!」


「承知!」


「『アピール』!」


 リカの職業ジョブ【姫侍】は1対1の戦闘にめっぽう強いが、その代わり多くのモンスターを引きつけるタンクとしてはあまり強くはない。盾も持ってないからな。

 故に、今回〈デブスペ〉を受け持ってもらうことにした。

 俺は〈チビ〉たちを相手にする。


「よーし〈チビ〉たち、ここまでおいでーっと。そしてまとめて『シャインライトニング』!」


「クケケ!?」


 〈チビゴースト〉を受け持った俺が中央まで走り戻り、十分に引きつけてから範囲攻撃魔法で一掃する。うはっ、一掃するの気持ちいい! どれだけ攻撃範囲内に捉えられるかが肝だよなこれ。

 12体中、なんと10体を纏めて掃討。一撃でこの成果はむちゃくちゃ楽しい!


「取り残しをやるわ! 『光の柱』!」


 続いて放たれたラナの攻撃により残り2体も無事撃破。掃討完了だ。


「リカ、いいぞ!」


「『名乗り』! 『影武者』!」


「ゲッゲッゲッゲ! ゲ!」


 リカのスキル『名乗り』『影武者』は挑発スキルだ。ガツンとヘイトが溜まったため〈デブスペ〉の標的がリカに向く。


「ゲゲェ!」


「『受け払い』!」


 〈デブスペ〉の筋肉がモリっとうなったかと思えば筋肉パンチがリカに飛んできた。しかし、リカは冷静に防御スキルでパリィを決める。


「ゲ!?」


「うわ! マジか今の。すげえ見事なパリィだったぞ」


「ん。リカのはらいは世界一」


 体格差をものともしない見事なパリィで攻撃を防いだリカがお返しとばかりに二刀を振りかぶった。


「『ツバメ返し』!」


「ゲ!?」


 パリィをした後に使うと威力補正大の付く『ツバメ返し』でカウンターを放つリカだったが…、これは〈幽霊ゴースト特性〉ですり抜けてしまい、思ったようなダメージが通らなかった模様だ。


「むう」


 リカは不満そうだったが俺はすばらしいものを見させてもらった気分だ。

 あの流れるような〈挑発〉〈パリィ〉〈反撃〉のコンボ、すごくかっこいい!

 俺も運がよければ出来るが成功率はまだまだ低い。今度リカ先生にプレイヤースキルを教えてもらえるよう頼んでみよう!


「グケケケ! ボボボボボ――――――!」


 おっと、今はボス戦に集中だ。

 今度は2ステップ目。24体の〈チビゴースト〉が生み出される。


「ああ、タイミング逃しちゃった」


「ちょっとあの筋肉ゴースト! 〈チビ〉を出すのが速いんじゃないかしら!」


 総攻撃チャンスを逃してしまった後衛から文句が飛ぶ。

 まあ、今のは仕方ない。リカがヘイトを十分に稼いでいなかったので後衛が撃てなかったのだ。〈デブスペ〉の2ステップ目も確かに速かったが、俺たちも連携不足だな。


「『アピール』!」


 それからは1ステップ目の焼き増しだ。

 俺が〈チビ〉を引き寄せ、俺とラナの範囲攻撃魔法で蹴散らしていく。

 そして、


「『セイントウォール』!」


「『フォースソニック』! 『スルースラッシュ』!」


 ハンナも聖属性のエリア防御魔法『セイントウォール』で光の壁を作り、そこに突っ込んできた〈チビゴースト〉に大きなダメージを与え、そしてちょこっと残った〈チビ〉たちをカルアが手数で倒していった。


 カルアのスキル、『フォースソニック』は俺の『ソニックソード』と同系統の、素早い移動からの斬撃スキルだ。短剣二刀流なら4連続攻撃が繰り出せるのでかなり強い。

 『スルースラッシュ』は素早い移動をしながらの斬撃スキルだ。つまりすり抜けながら斬って立ち去るスキルだな。ヒットアンドアウェイ!


 そうして24体の〈チビゴースト〉も難なく倒し終わったのだった。

 こりゃあ楽勝か?




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る