第174話 何事もジョブに就かなければ始まらない。




「う、う~目が回ったです~」


 『小回り』系を多く持つ【ロリータヒーロー】の条件の1つに〈その場でクルクル300まわる〉というものがある。


 単純だが、ヒント無しに満たすのは厳しい条件だ。いや、ルルが【ロリータヒーロー】を知っているということは他に満たした人が居るんだよな「子爵」で。やはりこの見た目だから行動も子どもっぽくなるのだろうか?


「とりあえずこれで【ロリータヒーロー】の条件は全て満たしたから〈竜の像〉まで行けば取得出来るはずだ」


「ふみゅ! 早速行くです!」


「まあ、悪いがちょっと待ってくれ。次はケイシェリアの番だ。ハンナ、ルルを頼む」


「うん。任せてよ」


 フラフラしながらもやる気のルルを一旦落ち着かせてハンナに任せる。

 そして近くでシエラと談笑していたケイシェリアの方へ向いた。

 先に始めてしまったが、ルルの条件を満たしているうちにケイシェリアもやってきていたんだ。


「待たせて悪かったケイシェリア」


「いいえ構いません。シエラ様との談笑はとても知識欲を刺激されました。それと私を呼ぶ時はシェリアで構いませんよ」


「そうか? ならシェリア、改めてギルド〈エデン〉へようこそ。歓迎するぜ」


「こちらこそ。〈エデン〉の加入を認めていただきありがとうございました。未だ職業ジョブ未取得の身でありますが、よろしく願えればと思います」


「ま。そこは安心しろって、すぐに【精霊術師】に就かせてやるから。それとシエラ、残りのメンバーは?」


「今日は来られないから明日来るそうよ。今日はラナ殿下に何か用があるみたいね」


「そうか、了解」


 新メンバー4人の内2人はラナの従者だ。

 そのラナが今日は珍しく実家に戻っているらしく、それに従者、護衛であるエステル含む3人も付いていっている、そのため今日は来られないのだとか。

 まあ今日は土曜日だしな。帰省する事もあるだろう。


 しかし、なぜだかラナの元気な声がないと途端に寂しい気持ちになるな。

 意識した途端ギルド部屋が寂しく感じるというか…。

 いや。明日には戻るらしいのでそれまでの辛抱だ。切り替えていこう。


 とりあえず、今日のうちにルルとケイシェリアを〈初心者ダンジョン〉合格まで育ててしまおう。

 ラナの従者である2人はすでに職業ジョブ持ちなので、〈エデン〉のメンバーの中で出遅れているのがルルとケイシェリアの2人なのだ。


「セレスタン、午後一からの〈初心者ダンジョン〉の利用を申請してきてくれ。今日中にルル、ケイシェリア、セレスタンの3名を合格までさせておきたい」


「かしこまりました。ですが今の〈初心者ダンジョン〉は競争率が多いです。希望の時間が取れるかは分かりませんが」


 少し前に研究所が発表した高位職に就く方法が浸透してからというもの、〈初心者ダンジョン〉の利用率が爆発的に増えた。

 今や普通の目的のため予約を取る事すら難しくなり、まるで5月始めの新入生ダンジョンラッシュ並、いやそれ以上の忙しさなのだとか。

 しかし、安心してほしい。


「フィリス先生に話を持っていってくれ。昨日のうちに話は通してあるからおそらく大丈夫なはずだ」


 昨日の〈ギルドバトル〉の後にフィリス先生に〈初心者ダンジョン〉の動向を聞いておいたのだ。

 すると〈初心者ダンジョン〉はつい最近まで朝6時から夜11時までフル活動で出入りが行われていたらしいが、先日アリーナで出す事の出来る防衛モンスターが職業ジョブ条件を満たすために代用可能という事が判明した。それにより現在はアリーナで条件を満たせるよう調整しているために〈初心者ダンジョン〉は少し出入りが緩くなりつつあるらしい。


 これはゲームではあり得なかった事だ。アリーナは〈ギルドバトル〉の時しか入れなかったし、モンスターをポップさせる事が出来るのは権限を持つ教員だけだった。それを職業ジョブ未取得の学生が使っても良いとか、リアルってすげぇぜ。


 しかし、その時はなるほどと思ったものだ。確かにアリーナもダンジョンの一部だしな。モンスターも擬似的な物ではなく、本物がポップする。エネルギーの問題などで経験値やドロップは出ないが、それでもモンスターを倒すという職業ジョブの条件をクリアするだけなら問題は無い。そして普通のダンジョンより安全だ。これが何よりデカいだろう。


 アリーナのモンスターなら〈スライム〉も出せるので、学生たちは安全にスラリポマラソンが出来るようになったわけだ。ハンナが聞いたらどんなリアクションをするのか見てみたい気もするが、ちょっと怖いので内緒にしてある。


「さすが、ゼフィルス様ですね。ではそのように、行って参ります」


「ああ。よろしく頼む」


 セレスタンがいつもの微笑みで綺麗なお辞儀をした後、軽やかにギルドから出ていく。


 それを見送ってシェリアを見ると何故か苦笑していた。


「どうかしたか?」


「いえ、まだ【精霊術師】に就いてもいないのに、まるで当たり前のように話を進める様子がとても立派で。まるで歳を重ねたエルダーエルフ様のようです」


 それは褒め言葉なのだろうか? 褒め言葉なんだろうな。

 おそらく直訳すると「凄い」と言いたいんだろう。未だ自分の理解が及ばないくらい凄い。そう言いたいのだと思う。その例えは人間にはよく分からないが。

 ちなみにエルダーエルフ様とは〈ダン活〉では非常に多くの知識を蓄えたエルフの事を言う。大体1000歳を超えるエルフなんかがそう呼ばれるな。


 閑話休題。


「じゃ、シェリアもスラリポマラソンから始めようか。職業ジョブは【精霊術師】だから使うのは腕輪シリーズの『火球』から『聖球』までの6属性。魔石はこれを使ってくれ」


 そう言って俺はシェリアに6種類の〈『○球』の腕輪〉と、魔石を渡した。

 魔法使い系を目指すなら必要不可欠の〈『○球』の腕輪〉だが、〈魔法〉系の腕輪を発動するにはMPの代わりに魔石を消費する。

 ここには、ハンナが量産しまくった魔石が大量にあるのでいくら使っても構わない。


 スライムを倒せば魔石もドロップするしな。


 【精霊術師】は〈6属性で各20体ずつのモンスターを倒す〉が条件の1つなので、早速スラリポマラソンから行なった。


 そうして1時間もせずに条件を満たし終えたので、いつの間にかハンナに抱っこされていたルルも連れて貴族舎にある〈竜の像〉へ向かったのだった。




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