第169話 ゼフィルス流勝利への手引き。こうやって勝つ




 Eランク試験。

 内容:〈城取り〉〈5人 VS 3人〉〈菱形ひしがた〉フィールド。


 最も小さいフィールドである〈菱形ひしがた〉は、まるでベースボールのような形で巨城が配置され、それぞれが一塁、二塁、三塁の位置に巨城が立っている。

 〈九角形〉フィールドの小型版のような配置だな。


 出場メンバーはまずホームベース側の三塁との中間、一塁との中間の辺りに本拠地を置く形だ。


 俺たちは西側〈白〉の本拠地、先生組は東側〈赤〉の本拠地にそれぞれ集合する。


 メンバーは職業ジョブLV40越えの俺、ハンナ、ラナ、エステル、シエラだ。

 カルア、リカ、セレスタンは残念ながら今回は本拠地に近い席に移って観戦だ。次回のDランク試験には参加出来れば良いな。


「結構距離がありますね」


 エステルが相手側の本拠地を見ながらポツリと感想を漏らす。

 ゲームではそんなに距離があるとは感じなかったが、実際にこの場に立ってみるとエステルの言うとおり相当距離があるな。


「アリーナによって小城のマス間隔も変わるから一概には言えないが、大体500mは離れてるな」


 何しろここはダンジョンだ。オリンピック会場すら真っ青な広さを持つ。

 あまりに広すぎて観戦者はアイテムや実況中継での観戦になる事がしばしばだ。

 そのため観客席などは巨城の前や本拠地近くなど、盛り上がる要所ポイントに多く立っていたりする。ちなみにそちらの席はお値段が一番高く設定されているな。今回はタダだが。


「500m。そんなに走り続けたらバテちゃうわよ?」


「AGI育てたらスタミナも増えるから大丈夫だ。ラナもダンジョンであまりバテたりしてないだろ?」


「……そういえばそうね」


 これもステータスの恩恵だな。ステータスは運動能力を向上させる恩恵を与えてくれる。

 AGIに1ポイントも振っていないハンナが何故バテないのか謎だけどな…。タフだよなハンナって。


「さて、他に何も無いなら作戦会議だ」


「いいわ。進めて」


 そう言って皆を見渡すとシエラが代表で頷いたので進める。


「よし。今回は人数差有りの〈城取り〉ということでほぼ勝ちが決定している」


「そうなの? でも先生たちは強いんでしょ?」


「そうだ。しかし対人戦をしなければまず負けは無い。なんでフィリス先生が〈先生側からの本拠地への攻撃を禁止する〉ルールを追加したのか分かるか? つまり対人戦をするな、という意味だ。先生が本拠地を攻撃すれば俺たちはそれを防げず勝敗が簡単に付いてしまうが、先生たちを避け続けて地道にポイントを稼ぎ続ければ、人数、つまり手数の多いこちらが勝つ」


 何しろポイントを稼ぐ手段が俺たちの方が多いのだ。敢えて敵わない対人戦に挑む理由が無い。これも〈城取り〉の戦術の1つだ。

 あくまで〈城取り〉はポイント制。数人すうにんが突出して強くてもけてしまえばどうと言う事は無い。


 こういう強い相手に挑まないという事も試験項目だな。ここで「胸を貸してください先生」とか言って無謀にも先生に対人戦を挑むようなら即不合格だ。勉強しなおしてきなさい。


「さて、どうやったら勝てるのか、ゼフィルス流・勝利への道筋を教えよう。まず相手が勝つ手段は巨城の2つ以上の先取せんしゅだ。それ以外ほとんどあり得ない。つまりこちらが中央北にある巨城を先取せんしゅ出来ればほぼ勝ちは決まったようなものだ。西巨城と北巨城、この2つ落とせば逆転するには巨城全ての再取得しかない」


 巨城は先取せんしゅした側にまず2000Pが入る。これはもし城が取り返されたとしても減る事は無く、相手側に2000Pが入って同点になるだけ。逆転は出来ない。


 つまり3つの巨城のうち2つを俺たちが、1つを先生たちが確保したと仮定すると、

 4000P対2000Pでこちらの優勢だ。さらに小城は人数の多いこちらの方が圧倒的にたくさん取れるためさらに有利。単純計算でこちらが500P稼ぐ頃、先生方は300Pくらいしか稼げないからな。


 すると4500P対2300P。どんどん差は開いていくだろう。

 この図から逆転するには〈先生〉がこちらの持っている巨城2つ全部をひっくり返すしか無い。

 すると4500P対6300Pとなり逆転出来る。

 この時、持っている巨城の数は、〈エデン〉がゼロ、〈先生〉が3つだ。


 しかし、こちらが1つでも巨城をひっくり返せれば、

 6500P対6300Pとなり、そのまま行けば勝利出来る。

 この時、持っている巨城の数は、〈エデン〉が1つ、〈先生〉が2つ。


 〈エデン〉は巨城を1つしか持っていないのに勝利が出来るのだ。ヤバかろう?


 先生方は3人しかいないため、巨城を3つ確保したとしても防衛するには手が足りない。

 もし巨城3つを3人で手分けして防衛しようものならガラ空きの本拠地を落としてしまえばいい。学生側は本拠地への攻撃は禁止されていないからな。

 本拠地を落とされると、落とした側に全ての巨城が移動する。タイムアップ寸前に落としてしまえば保護期間の2分間は相手は何もできないのでそのまま勝利が決まってしまうというわけだ。


 先生方が3つの巨城を確保し、その全てを守り続けなくては勝利出来ないという厳しい状況なのに対し、俺たちは1つ巨城を持っておくだけで余裕で勝利出来るというこの圧倒的な差。

 これが人数差の恐ろしいところである。


「では。中央北側の巨城が重要ポイントとなるのですね?」


「エステルの言うとおりだ。そこを先取せんしゅ出来れば勝ちは決まったようなものだな」


「なるほどね。理解したわ」


 〈城取り〉では初動が何より大事だ。

 最初に中央北の巨城を全力で取りに行く。それだけで勝利がほぼ決定してしまうのだから恐ろしい。そして面白い。


「そこで作戦の割り振りだが、この中でAGIが最も高いのが俺、次いでエステルだな。まずは俺たちが先行し中央北の巨城を目指す」


「はい」


「シエラ、ラナ、ハンナは後続として追ってきてほしい。何しろ巨城のHPは高い。練習でも感じたと思うが一人二人の攻撃では少し時間が掛かる」


 巨城取得のルールの1つに〈HPを0にした側が巨城を先取する〉というものがあり、たとえ99%俺たちがダメージを与えていたとしても、最後に攻撃を差し込まれてHPを0にされれば巨城は相手に持っていかれてしまうのだ。これは絶対にやられてはならない。

 そのため、相手に差し込む隙無く短時間に集中して城を落とす事が望ましい。


 俺とエステルのスピード速い組が道中のモンスターを蹴散らして道を作るので、その後にラナたち後続組が追いかけてきてもらい全員の総攻撃でもって城を一気に落としきる。そういうプランだな。

 と、具体的な作戦説明をする。


「何か質問はあるか?」


「ないわ!」


「いいえ」


「ゼフィルス殿に付いていきます」


「頑張るね!」


 全員の目が燃えていた。

 いいね! 燃えてきたな!


「良し! やるぞ!」


「「「「おー!」」」」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る