第164話 レアボス周回終了! 最後は運を使い切る!




「はっ! 『閃光一閃突き』!」


「ジガ…ガガガ……」


 エステルの光属性を纏った強力な突きにより〈陰陽次太郎〉のHPが0になる。


 通算4回目。

 1本目の笛が残り1回になったので2本目の笛を吹く事4回。1回ハズレを出しつつも3回レアボスを目覚めさせる事に成功し、現在4度目の〈陰陽次太郎〉を屠ったところだ。


 ちなみに2周目からは、セグウェイを破壊したらどうなるのかを試した。もしかしたら壁に追い詰める事無く移動手段が絶たれてフルボッコになるかも? と期待していたが、なんとセグウェイは破壊出来なかった。


 これはいったいどういうことだろうか。いや、ゲーム時代のセグウェイは破壊できない仕様だったので普通ではあるのだが。

 リアル〈ダン活〉になって〈竹割太郎〉はセグウェイが破壊出来たために少し、いやかなり期待していたのだ。セグウェイを破壊した時の〈陰陽次太郎〉がどういう挙動をするのかを。

 期待していたのに、期待していたのに、破壊出来ないのかよー!


 膝から崩れ落ちかけるぐらいガクッとした。

 俺の〈ダン活〉知識欲が飢えている。


「どうしたのゼフィルス君! 〈金箱〉だよ! 早く開けようよ!」


「何ぃ!? 〈金箱〉だと!」


 しかし、ハンナの呼びかけにすぐに俺のテンションゲージがフルになった。


 ふ、どうやら今まで貯め込んでいた運を使ってしまったようだな。(そんな運あっただろうか?)


 レアボスの〈金箱〉産である。これは期待しても裏切られる事は、…ほとんど無い!


 今までの〈陰陽次太郎〉のドロップは3回とも最低保障の〈銀箱〉2個だった。

 そろそろ〈金箱〉なり〈ビューティフォー現象〉なり来てもいい頃だと思ったんだ!

 数は、2つか。〈パーフェクト〉ならず。そこはちょっと残念。


「さて、今回、誰が開けるかだが」


「「はい!」」


 立候補が挙がる。例によって3人だ。

 手を挙げない2人の方に視線を向ける。


「そんな不思議そうな顔して振り向かないでよ。私たちがおかしいみたいじゃない」


 シエラが俺の視線にご立腹だ。そんなに不思議そうな顔をしていただろうか?

 していたかもしれないな。


「私たちはそこまで拘っていませんから。3人でどうぞ」


「そんなのダメよエステル! 〈金箱〉はね。こう上手く言えないけど良い感じのものなの。宝箱から何が当たるか。もう凄いドキドキするのよ! エステルもたくさん味わっておかないと勿体ないわ!」


 王女が勿体ない発言をするほど貴重な〈金箱〉だ。俺もそう思う。


「そうだぞエステル。〈金箱〉を開ける瞬間とは、それはもう素晴らしいものだ。あれを味わっておかないなんてとんでもない!」


「エステルさんも遠慮なさらずに手を挙げたら良いんですよ。だって〈金箱〉なんですから」


「はあ、ハンナさんがそうおっしゃるのでしたら、かしこまりました」


 ハンナの大変説得力のある「〈金箱〉なんですから」発言に頷くエステル。さすがは〈金箱〉の魔力だ、あのエステルを頷かせるとは。

 俺やラナの説得に頷かなかったのは決して人望が無かったわけではないとここに追記しておく。



 結局その後の取り決めでエステルと俺が〈金箱〉を開ける名誉を賜る事に決まった。


 何気なにげに俺も〈金箱〉を開けるのは久しぶりな気がする。


 前に開けたのはいつだったか……。


「あなたが〈金箱〉を開けるのは初めて見るわね。いつも遠慮していたみたいだし」


「あれ?」


 シエラの一言に記憶を探っていくと、本当だ。俺〈エンペラーゴブリン〉の時と〈初心者ダンジョン〉の隠し部屋くらいしか〈金箱〉開けてない! 何気なにげに皆と居る時は初めてだった模様。


「私も、実は我々に〈金箱〉を開けさせるためにわざとあのような振る舞いをしているのかと思っていました」


 隣の〈金箱〉の前に控えたエステルもそう言って頷く。

 なんと言う事だ。俺が積極的に〈金箱〉を開けなかったがためにポーズを取っているものと思われていたらしい。それがエステルやシエラが〈金箱〉を遠慮する理由の一つだったみたいだ。

 特にエステルなんて、ギルドマスターが〈金箱〉を開けないのに自分が開けるわけには…、みたいな心境だった模様。マジかよ。俺も開けられるなら〈金箱〉開けたかったのに!


 まあ、過ぎてしまったものは仕方ない。

 これからはどんどん〈金箱〉を開けていくことにするさ!


 まずは祈ろう! 〈幸猫様〉に我々の願いを届けるんだ!

 どうか良い物が当たりますように。


「どうか良い物が当たりますように…。〈幸猫様〉、お願いいたします」


 隣のエステルがそう宝箱の前で祈りを捧げ、まずエステルから開いた。


「これは、あの〈陰陽次太郎〉が乗っていたセグウェイなる〈乗り物〉でしょうか?」


「「「おー!」」」


 エステルが〈金箱〉から取り出したそれを見て俺とハンナとラナが一斉に声を上げた。

 そして全員の視線が俺に向く。説明しよう!


「正式名称〈太郎の竹からくりローラー(改)〉通称:〈セグ改〉だな。前に話した【騎士】の乗る〈乗り物〉系アクセサリー装備ではなく、汎用系移動乗物扱いのアイテムになる。どう違うのかというと、装備とアイテムくらい違うな。〈セグ改〉は誰にでも乗れるが移動にしか使えない。ダンジョンでは攻撃を受けると破損するので持っていけないし、一人用だ。これに乗って攻撃することも出来ない」


 ここで一旦区切る。ここまではデメリットを説明した。次からはメリットを話そう。


「〈セグ改〉の持ち味はなんと言ってもその移動速度にある。全力で走行すれば学園の端から端まですぐくらいには速いぞ。移動にとても優れているため通学なんかにとても重宝するな」


 要は自転車みたいなものだ。そう聞くとなんか微妙な感じに聞こえるが、これが中々に重宝する。〈ダン活〉でもそうだが速度アップというのはゲームをする上で欠かせない要素だ。


 某ゲームでは徒歩からダッシュ、ダッシュから自転車とストーリーが進むほど移動速度がアップする。

 最近のゲームでは倍速、3倍速なんて普通になりつつあり、リメイクして倍速付けました~なんて当たり前、ゲームでは多少の齟齬や不具合にも目を瞑るほど速度を優先していたりする。

 早口すぎて聞き取れなかったり、キャラ同士の会話が噛み合っていないほど速度が上がっている、なんてゲームも割とある昨今だ。それほどまでに速度は重要だった。


 〈ダン活〉はワンタップで移動するタイプではなく、ちゃんとプレイヤーが操作して目的地へ向かう系のゲームだったため、速度アップは本当に嬉しかった。たとえ〈セグ改〉などの乗物アイテムをドロップできなくても、ちゃんと別の乗物が入手できるほど徹底していた。そっちはちょっとお高いけどな。


「じゃあ、当たりなのね!?」


「まあそうだな」


 とはいえ、〈セグ改〉は一人用だ。

 ゲーム時代はプレイヤーの操る一人が乗るだけで問題なかったが、リアルのこれの扱いはどうしたものか…。

 まあいい。それはまた今度考えよう。

 今は俺も〈金箱〉を開けねば!


「〈幸猫様〉〈幸猫様〉どうかお願いいたします! 俺に幸運をください!」(だからすでに与えている)


 パカリ。

 宝箱を開けると、そこには一本の扇子せんすが。


「レアボスの武器ね!」


 隣から覗き込んでいたラナが叫ぶ。

 その通り、宝箱に入っていたのは〈陰陽次太郎〉がその手に持っていた扇子せんすの1つ、〈魔払まばらいの聖扇子せいせんす〉だった。


 ――――――――――

 〈魔払いの聖扇子:攻撃力8、魔法力48、

 『セイントフォールLV8』『セイントピラーLV5』『フォースLV2』〉

 ――――――――――


 ステータス面より〈魔法〉のLVが優先されたこの武器。初級ダンジョンでは間違いなくトップクラスの武器の1つだ。

 全てが中級魔法だが、2つの聖属性攻撃魔法に加え、耐性強化バフの『フォース』が優秀だ。ラナは状態異常は直せるが、耐性を上げるスキルは持ってないからな。

 この扇子。完璧に大当たりの分類だ! ハンナにもラナにも装備可能。


 戦力アップは間違いない。さて、どちらに装備してもらおうか?




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