第147話 あ、あなたはあの時の! 久々の職人先輩現る



「なぁ兄さん。ちょっと聞いてもええかぁ?」


「おうおうなんだマリー先輩。というかマリー先輩の身体小さいなぁ」


「その喧嘩高値で買うで! それよりなんでうちは兄さんとダンスしてんのかをまず聞きたいんだけど!?」


 そんなのテンションMAXだからに決まってる。

 何しろ高望みだなぁと思っていた〈からくり馬車のレシピ〉が一回のダンジョンアタックでツモったんだぞ?

 もうクルクル回るしか無いだろう? そうれクルクルクル~。


「わー!? 兄さんがくるった!」


 狂っても良いじゃないか~。

 俺はマリー先輩の腰に回している腕に力を込めダンスのスピードを上げた。


 小さいマリー先輩の身体はもう半分浮いた状態だ。軽いなマリー先輩。


「ストップや兄さん。もう兄さんがどれだけ嬉しかったのか分かったから下ろしてや!」


 なんだかんだ言いつつノッてくれたマリー先輩だったが、さすがに10分近く宙ぶらりんでされるがままで堪えたらしい。待ったが掛かった。


 ゆっくりとマリー先輩を下ろすと少し足がふらついていた。

 少し、はしゃぎすぎてしまったかも知れない。


「はあ。はあ。あ~、兄さんにまさかこんな気質が隠れてたとわ。予想外やったわぁ」


 マリー先輩が息を乱しながら言う。


「休んだらもう一回やるか?」


「やらんわ! どんだけうれしがってんねん!」


 やらないのか。少し残念。

 テンションMAXでクルクル回るの楽しいのに。


「それでこの〈からくり馬車のレシピ〉ってどういう物なん? その喜びようからいって兄さんはこれがどういうものなのか知っとるんやろ?」 


 もちろん知っている。ちょうど良かった。

 俺もこの〈レシピ〉を作れる人を探そうと思ってたんだ。


 そう思ってマリー先輩に説明する。


「ほう! なんや凄そうやなこれ!」


 マリー先輩が〈からくり馬車のレシピ〉を見ながら言う。

 そうなんだよ、強いんだよ。何しろ〈金箱〉級だぜ?

 俺は最初、ノーマル級の〈乗り物〉装備を作ろうかと思ってたが、もしかしたらワンチャン〈からくり馬車レシピ〉来ないっかな~、と〈付喪の竹林ダンジョン〉を終えてから作製依頼を掛けるつもりだった。ノーマル級ならどこかのギルドでレシピくらい保有しているだろうし。


 しかし、びっくり。本当にワンチャンゲットしちゃったのでもう作るしか無い。この〈金箱〉級を!


「というわけで【クラフトマン】か【細工師】に就いている人物を探してる。マリー先輩てとかないか?」


「ふふふ、それやったら腕の良い【クラフトマン】に心当りがあるでぇ」


「おおマジか! さすがマリー先輩! 仲介してください!」


 〈ワッペンシールステッカー〉は非常に優秀な生産ギルドではあるが、さすがに武器やアクセサリーなんかの装備品は専門外だ。基本的に防具専門だからな。


 【クラフトマン】はバリバリのアクセサリー職人だ。一部アイテムなども作れるぞ。

 ただ、アクセサリー系生産職は武器防具生産職と比較してちょっとだけ不遇職である。


 武器や防具は基本的に専門装備。誰でも好きな物を装備出来るというわけではなく、ちゃんと各職業ジョブに適性の装備が存在する。

 つまりボスドロップしたとして、それが装備出来ない確率が非常に高い。

 自分に合った装備を見繕うには生産職に依頼するのが手っ取り早いのだ。武器防具は。


 しかしアクセサリーの多くは誰でも装備出来る。ドロップした物が装備可能なので、わざわざキャラ用に作らなくても良い。生産職に依頼する必要が無い。故にちょっと不遇職なのだ。

 そのため簡単に腕の良い【クラフトマン】に会えるかは、ちょっと分からなかった。

 簡単に見つかってくれてラッキーだったぜ。マリー先輩の紹介なら変な人ではないだろうしな。


 これで〈乗り物〉装備が作れる!



 ちなみにだが〈乗り物〉系装備は生産でしか作れない、〈乗り物〉系装備はドロップでは出ないのだ。

 故に【クラフトマン】の一番の見せ場と言っても良い。〈乗り物〉はアクセサリー枠なのでバッチリ【クラフトマン】の仕事だ。


 「騎士爵」のカテゴリーはギルドに最大5名まで参加が可能だ。

 俺はゲームをプレイする度に上限まで「騎士爵」をメンバーに加えていたので【クラフトマン】にはそれなりに世話になった。

 今回もお世話になります【クラフトマン】!


 早速マリー先輩に紹介してもらおう。


「ちょい待ってな。確認してみるわぁ」


 マリー先輩が〈学生手帳〉を取り出しチャットをはじめると、すぐに返事が届いた。早いな!


「あ、なんや近くにおるそうやから、このままここに来る言うてるな」


「さすが生産職。その手の話はフットワークが軽いなぁ」


 どうも〈金箱〉産のレシピの話をしたら食いついてきたらしい。さすが。


「マリー、いるか?」


「もう来た!?」


 まだ30秒も経ってない気がするんだけど?


 しかも店をスルーして俺たちの居る奥の部屋まで来てるんだけど、どういうこと?


「って、あ! あの時の寡黙な先輩!」


「……【勇者】か」


 やってきた人物は前に〈真魂のネックレス〉を購入した時に何故か店番をしていた職人気質の3年生。

 寡黙な先輩だった。


 相変わらず言葉が少ない。

 それと、あの時は彫金屋だと思っていたが、どうやら【クラフトマン】だったらしい。もしかしてそれで店番なんかやらされていたのかこの人?


「なんや、知り合いやったんか?」


「前に店でクエスト…、いや店でアクセサリー装備を購入したことがあったんだ。後は初級下位ショッカー素材の納品で少しな」


「なるほどなぁ。まあ知り合いなら話が早いわぁ。これがオススメする腕の良い【クラフトマン】、名前はガントって言うねん。口数は少ないけど腕はいいで?」


 寡黙な先輩の名前判明。ガント先輩というらしい。


「そういえば俺も自己紹介がまだだった。――【勇者】ゼフィルスだ。今回この〈レシピ〉の物を作製依頼したくて、マリー先輩に紹介してもらった」


「ああ。…見せろ」


 何をだよ。なんて聞く必要も無いな。

 自己紹介を一つ頷いただけで流した寡黙な先輩改め、ガント先輩の視線は、俺の持つ〈金箱〉産レシピ、〈からくり馬車のレシピ〉に注がれていた。


「あいよ。どうだ? 素材なら全部揃ってる。作れそうか?」


 レシピを手渡し、そこら辺に散らかりまくっている〈竹割太郎〉素材を目で指して聞く。


 するとガント先輩は無表情でジッとレシピを見つめていたかと思うと、突然ニヤリと笑って言った。


「無論だ」


 エステルのパワーアップの時は近いな。




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