第142話 ボス戦前の一息。ハンナの秘策アイテム!




「今日のボスは周回とボス素材が主な目的だ。できるなら今日中に俺とハンナは職業ジョブLV40に到達しておきたい」


 俺が現在【勇者LV37】。ハンナが【錬金術師LV38】だ。

 三段階目のツリー解放までほぼ王手を掛けたな。もう少しだ。

 ちなみに〈姫職〉組は全員職業ジョブLV35なので、今回でLV40に届くかは微妙なところだ。多分無理だろう。


「むむむ。ゼフィルスとハンナだけ先に行っちゃうのね」


「ラナ様こればっかりは仕方ありません」


「そうね。むしろここまで効率的なLV上げをしてくれて感謝しているわ」


 セリフとは裏腹にツンとした態度でラナが言う。

 良いツン顔だ。次はデレ顔を見せてほしい。


「安心しろって、ラナたちも明日にはLV40になってるから」


「本当?」


「嘘言ってどうする。本当だよ。すぐに三段階目ツリー解放されるから、明日を楽しみにしてな」


「うん…。そうね。わかったわ。――――えへへ、明日には私もLV40かぁ」


 ほら、デレッとした顔になった。

 ちなみに後半の小声での呟きだが、割といつも聞こえているからな?

 ラナは地声が良いから、よく声が通ってしまうのだ。

 ちなみに全員に聞こえているはずだが誰も忠告してあげようとはしない。さすが。ラナの良いところを皆分かってる。


「それはそうとゼフィルス、今回のボスは何?」


 ラナのデレ顔にほっこり良い気分になっているとシエラが休憩の準備をしながら問うてきた。

 俺もそれを手伝いながら話す。


「ああ。〈付喪の竹林ダンジョン〉のボスは〈竹割太郎たけわりたろう〉だな。竹で作られた、からくり二輪車に乗っていて両手の斧で攻撃してくる。車輪走行だから動きが割と速く、しかも立ち止まらず動き回るせいで結構やりづらい相手だぞ」


 道中に出た太郎型モンスターのボス版だな。

 見た目、セグウェイに乗った大型人形だ。体長3m弱あるためなかなか迫力のある人形だぞ。

 ちなみに顔は〈お湯太郎〉君のようによこしまな感じではない。歌舞伎のような顔をしている。それがまた迫力に拍車を掛けるのだ。

 想像してみてほしい。セグウェイに乗った歌舞伎顔の大型人形が猛スピードで迫ってくる様を。凄い迫力だろう?



 しかも〈竹割太郎〉は部屋の中を縦横無尽に走り回るためタンクが動きを封じるのがなかなか難しい。

 突進攻撃もしてくるので後衛も巻き込まれに注意しなくてならない。〈竹割太郎〉の通行するルート上にいるとかれるからな。直撃すれば大ダメージを受けてしまう。へたをすればそのまま戦闘不能だ。


 ならスピード型ボスなのか? と思うなかれ、立ち止まっても結構強い。

 何しろ武器が斧なのだ。斧二刀流。一発一発がガンガンダメージを与えてくる。

 しかも斧が属性をまとっており、通常時は右の斧が火属性、左の斧が氷属性で攻撃してくる。弱点属性の防具を身につけている時は注意が必要だ。

 ま、今の俺たちの装備は弱点が無いタイプの装備ばかりなので問題はない。


 さらに、HPがレッドライン残り10%まで減ると怒モードに入る、すると両斧が雷属性に変わり、一定時間威力に大補正が掛かる。俺たち〈ダン活〉プレイヤーたちはこれを〈雷オヤジモード〉と呼んでいた。同レベル帯のタンクでもたまに吹き飛ぶ事がある強力なモードだ。強いぞ。


 ただしこれには対策が有り、竹製セグウェイに集中攻撃するとスリップダウンを取れるので、後は起き上がる前に総攻撃で倒してしまえば問題ない。

 ただ、通常戦闘時にスリップダウンを取ってしまうと耐性が付いてしまうので〈雷オヤジモード〉に入るまではセグウェイを攻撃しないよう注意が必要だ。


 そんな事を休憩中に皆へ説明する。


「雷オヤジモード…」


 最初に呟いたのは意外にもエステルだった。

 何かその言葉に思う事でもあるのだろうか? 


「放っておいてあげなさい。ちょっと昔を思い出しているだけみたいだから」


 エステルの事を見つめているとシエラにたしなめられた。

 そういえば二人は小さい頃からの付き合いだったな。何か心当りでもあるのだろう。

 ちょっと気になる。


「セグウェイというものがよく分からなかったけど、とにかく速くて強いのね!」


「ああ、それだけ理解できていれば十分だ。危ない時は声を出すから冷静に避けてほしい。それと最後〈雷オヤジモード〉に入ったら――」


「分かってるわ! まずセグウェイに集中攻撃、続いてダウンしたボスを総攻撃ね!」


「魔法の温存も忘れないでくれ。クールタイムで肝心な時に撃てないじゃ困るからな」


「任せてよ!」


 ラナの攻撃手段は2つ、『光の刃』と『光の柱』だけだ。つまり、片方すらクールタイムに突入していてはいけない。ボスのHPが減ってきたら攻撃魔法は撃たず、支援回復に集中するよう打ち合わせをしておく。


「あ、でも『光の柱』ってセグウェイ? を攻撃しちゃわないかしら? あれ下からの攻撃だし」


「多少なら与えても問題ないぞ。『光の柱』の10発程度じゃひっくり返ったりしないから」


「なら安心ね! ガンガン撃つわよ!」


 さてこれでラナの方はひとまず完了。次はハンナだな。


「さて、ハンナはいよいよアレを見せる時が来たな」


「うん! すごく楽しみ!」


 前回は採取のしすぎでバテて『錬金』出来なかったからな。

 今朝少しだけ生産したというアイテムを片手に、ハンナは気持ちの高ぶりを隠しきれないようだ。

 何しろ、このアイテムでハンナが魔法アタッカーに生まれ変われるのだ。いや、変わってもらっては困るな。一時的に魔法アタッカーが出来るようになるのだ。

 そりゃ楽しみだろう。

 そして、そのアイテムがこちらだ。


「じゃん! 〈マホリタンR〉!」


「おおー」


 ハンナが取り出した〈マホリタンR〉。

 効果は〈一定時間、【INT】と【RES】値を入れ替える〉だ。


 ハンナの【INT】は10。【RES】は155だ。〈マホリタンR〉を使うとこれが入れ替わる。

 つまり一定時間のみだが【INT】155、【RES】10に変更する事が可能なのだ!


 この系統は色々と種類が豊富で、使い捨てだが様々な場面で活躍する優秀なアイテム群だった。

 しかしゲーム時代の時は生産職を敢えて戦闘で使う事は無いため〈マホリタンR〉はそんなに役立つ機会は無かった。まさか使う日が来るとは。


 だが、今が使う時だろう。これで火力面でもかなりパワーアップ! ハンナがこのパーティの魔法アタッカーだ! あ、ごめんラナの方が強いです。でもハンナもこれで少しは戦えるようになります。




「あ、あと〈能玉〉は持ってきてるか?」


「う、うん。でも実はまだ慣れてなくって」


「ああ。そっちはゆっくり慣れていこう」


 俺はハンナに一つの宿題を出した。

 それは〈能玉の換装〉。

 これが戦闘中、スムーズに実現すれば、上手くいけばクールタイムを無視する事が可能になるかも知れない。

 つまり〈魔能玉1〉を全弾発射した後に即換装、〈魔能玉2〉を取り付ける事が出来ればまだクールタイムに入っていない魔法が撃てる。


 ゲームでは設定上、戦闘中に換装は出来ない仕様だったが、リアルでは何故か戦闘中も換装可能だという事をつい先ほど発見したのだ。こいつは大発見だ。

 もしこれをスムーズに回転させる事が出来ればハンナはさらに一段化けるだろう。

 魔法職でもないのに魔法万能キャラになってしまうな!

 これ、ハンナはどこまで付いてこられるのか俺でも見通せなくなってきたぞ。

 リアル〈ダン活〉マジ半端ない。


 まあ、今はまだ換装に時間が掛かりすぎて換装した頃には『フレアランス』ですらクールタイムが明けちゃうほど時間が掛かってるけど、ハンナならなんとかしてくれると俺は信じている。


 頑張れハンナ! 俺たちと一緒に行けるところまで行こう!




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