第138話 『能玉化』には作法が必要? そんな事は無い




「おはようセレスタン」


「おはようございます。ゼフィルス様」


「首尾はどうだ? なんか昨日は騒がしかったらしいが、ちゃんと受け取ってこられたのか?」


「はい。ゼフィルス様から言い渡された初仕事、ここに完遂しました。〈大きな魔宝石・トパーズ〉の売却金です。お受け取りください」


 本日火曜日。朝。

 ギルド〈エデン〉の部屋で俺はセレスタンから、例のオークションの落札金額を受け取っていた。


 受け取ってくださいと言いながら〈学生手帳スマホ〉を翳すようにするセレスタンがシュールな件。金貨袋の方が似合いそう。

 俺も〈学生手帳スマホ〉を取り出して合わせるようにタッチする。

 「ピロリン♪」と音がして入金完了。ハイテクだなぁアーティファクト。


 今回、セレスタンには一つの仕事を任せていた。

 オークションの入会手続きから商品の出品、最後は落札額の回収までの一連の作業をセレスタンに任せていたわけだが、不備無くキチンと完了してきた。

 手続きは古代のアーティファクトを使って行われる。あのシエラですら未だに〈学生手帳〉の操作を苦手そうにしているのだからセレスタンの技能は優秀の一言に尽きる。


 オークションで落札した商品や金額は翌日以降に手渡されるので、昨日俺たちが初級上位ダンジョンに挑んでいる間にセレスタンが回収しておいてくれた。

 まあ、昨日は時間が無かったし一つ騒ぎがあったためにすっかりセレスタンと会うタイミングを逃してしまった。なので、本日朝からこうして受け取りに来たと言うわけだ。


「ふむ、落札価格344万ミール。思っていた金額より少し多かったな」


 予想していたのが300万ミールだったので少しラッキーだ。

 ほんと、あんなの誰が何に使うのかね。

 

「セレスタン、これから少し時間あるか?」


「もちろんです。無くてもご用意します」


「いや、そこまでしなくてもいいぞ。しかし、もしかしたら面白いものが見れるかも知れないからな、もし良かったら付いてくるか、と思ってな」


「是非、お供いたします」


 そのままセレスタンを連れて〈ワッペンシールステッカー〉に向かった。




「遅いわゼフィルス! 待ちくたびれちゃったじゃない!」


「ラナ様、多分五分も待っていないと思いますよ?」


「そうですね。ハンナさんの言うとおりです」


 店に到着すると、すでに中にはラナ、ハンナ、エステル、そしてシエラが揃っていた。

 昨日のうちにチャットを使ってここで待ち合わせをしていたのだ。

 しかし、ラナのこのセリフと光景、前にも見た事があるぞ。我慢出来なさすぎだろう。


「あら、今日はセレスタンと一緒だったのね」


「ああ。今日の『能玉化』や『レシピ解読』も見せておこうと思ってな」


 知っていれば頼む事も任せる事も出来る。俺の執事をするというのだから生半可な知識量では困る。どんどん見聞けんぶんを広めさせよう、というわけだ。

 特に『能玉化』は珍しい種類のスキルだからな。


「お邪魔いたします。皆さんもおはようございます」


 いつものようににこやかに挨拶するセレスタン。

 優雅ゆうがだ。俺も見習わないとな。


「おはようセレスタン。今日も朝からゼフィルスの従者ご苦労様。ゼフィルスと一緒に居ると何かと苦労すると思うけど、頑張りなさい」


「苦労するってなんでだ?」


 俺はそこまでハードな事を頼む気なんて無いぞ?

 不思議そうに聞く俺に対し、シエラはジトォとした視線を投げるだけだった。

 説明プリーズ!


「お待たせしたわぁ。皆揃ってるみたいやし、早速始めよか」


 そこへマリー先輩が、例の眠たげな先輩の手を取ってやってきた。

 ちなみに眠たげな先輩の方はうつらうつらを通り過ぎ、立ったまま夢の中に旅立っている。

 どうやって歩行しているのだろうか?


「こ、この子、立ったまま寝ているわ!」


 ほら、純真なラナがびっくりしているぞ。


「あ~。性能は良いんで意識の方は勘弁してくださいなぁ王女様」


 いつもノリの良いマリー先輩が王女相手に下手に出ながら話していた。レアな光景だ。

 あと、マリー先輩、そこ本当に勘弁する部分? 性能が良いって機械扱いで良いの?


「あ、兄さん。早速『能玉化』するから武器出してぇな」


「あいよ」


 まあ、話が進んでいるようなので俺も準備に取りかかる。

 セレスタンから〈空間収納鞄アイテムバッグ(容量:大)〉を受け取って中から昨日ドロップしたばかりの〈幼い魔女の杖〉を取り出した。


「じゃ、それをこの子にセットしてっと」


 本当に機械扱いだ。

 俺から受け取った〈幼い魔女の杖〉を眠たげな先輩に無理矢理掴ませるマリー先輩。


「それで、後はこのボタンを押してっっっと!」


 そのまま指を二本立てたかと思えば眠たげな先輩の鼻を狙って突き刺した。


「ふがぁ」


「今や! 能玉化、発動や!」


「ふ、『のうぎょふか』ぁ」


 条件反射のように一瞬だけ覚醒した眠たげな先輩がマリー先輩の言葉を復唱する。

 まさか、本当にそんな方法で!?

 俺の驚愕を余所に事態は進む。


 しかし、


「何も起きないやない、か!」


「あ痛!」


 うん。やっぱり無理があると思ったよ。残念ながら『能玉化』は失敗した。

 せっかく色々補助を頑張ったマリー先輩がどこからともなくアイテムバッグから取り出したハリセンでツッコんだ。

 今度はちゃんと起きてからやろうな。


 その後、しっかり起きた眠たげな先輩によりちゃんと『能玉化』はなされた。

 どうなるかと思ったが無事〈魔能玉〉に出来て良かったよ。


 ちなみにその〈魔能玉〉がこちら。

 〈魔能玉まのうぎょく:『ダークジャベリンLV5』〉


 普通の〈シングル魔能玉まのうぎょく〉だった。能力を1つしか持たない普通の〈能玉〉だ。

 一応、下級魔法の『ダークシュートLV6』だったものが中級魔法の『ダークジャベリンLV5』になっているが、これも普通の〈格上げ〉、一階級上に転化するタイプの現象。


 つまり、今回は当たり無し。普通の転化だったようだ。

 残念。


 仕方ない。次の『レシピ解読』に期待しよう。



「これが『能玉化』。なるほど。勉強になりますね」


「セレスタン、途中のコントは気にしなくて良いからな」


 一応釘を刺しておく。アレが『能玉化』の作法とでも思われたら大変だ。

 なんかむっちゃ滑ってたみたいだしな。




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